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帰ってきた夫  作者: 西子
31/126

27

エイミーの件がどうしても気になったリリーは、念のために、サイラスに同行していた従者に、それとなく尋ねてみた。

すると、案の定、エイミーは三ヶ月前に、サイラスを訪ねてきたという。

思わず、嫌な予感がした。


「旦那様はけんもほろろで、すぐにレディ・エイミーを追い返されました」

「そう……」


勝手に押しかけてきたエイミーも問題だが、サイラスの対応もあまりいいとは言えない。

きちんと話し合わない限り、エイミーは決してサイラスを諦めないだろうからだ。


「その時、レディ・エイミーはどうされたの?」

「ひどく腹を立てられていましたが、旦那様に睨まれて、渋々、帰っていきました。明らかに納得はしていませんでしたが」

「でしょうね」


リリーは苦笑した。

その時の様子が、手に取るようにわかったからだ。


「実は、その数日後、レディ・エイミーはもう一度だけ訪ねて来られました」

「じゃあ、その時もサイラスが対応を?」

「いえ。その、旦那様は、大奥様と宿屋にご滞在中でしたので……」


つまり、サイラスがマリーに軟禁されている間に、エイミーが再び訪ねて来てしまったというわけか。


「あら?ということは、もしかして……」

「はい、レディ・ヴェロニカがレディ・エイミーの対応をされました。もちろん、ベッドの上からですが」

「………」


病人に、なんて無理をさせるのだろうか。

リリーは、思わず、ため息をついた。

エイミーが訪ねて来たのは、おそらく、ヴェロニカが亡くなる前日くらいだっただろう。

青白い表情のヴェロニカが、体を酷使して、懸命にエイミーの相手をしている様子を想像しただけで、リリーはいたたまれなくなる。

だが、もしかすると、エイミーが頑なに引かなかったのかもしれない。

あの性格だ。

サイラスに会わせろと言って、聞かなかったのだろう。

だから、仕方なく、ヴェロニカがサイラス不在を伝えるべく、対応に出たといったところか。


「念の為に、わたくしも同席はいたしましたが……」

「それは、その……大変でしたね」


現愛人と、前愛人による直接対面。

つまり、修羅場である。

その様子を想像して、リリーは青ざめた。


「レディ・エイミーは……どんなご様子でしたか?」

「機嫌は悪くありませんでした。それどころか、レディ・ヴェロニカに、お見舞いの花や果物を持参されていましたよ」

「そうなの?」


つまり、エイミーはわざわざヴェロニカに会いに行ったということだ。

見舞いの品を用意していたのだから、間違いない。

ということは、リリーが想像したほど、悲惨な対面にはならなかったのだろう。

さすがに、病人であるヴェロニカを気遣ったのかもしれない。


「しかし、それもつかの間でした。しばらく、お二人でお話しになられていたのですが、急に、レディ・エイミーが取り乱し始めまして……」

「?」

「果物が入った籠を引ったくるようにして、帰っていきました」

「お見舞いの品を持ち帰られたの?しかも、唐突に?」

「左様でございます。その後は、一度もお見かけいたしておりません」


リリーは、何度も首をかしげた。

エイミーは、最初サイラスを追って、隣国まで押しかけて来たものの、すげなく追い返された。

後日、ヴェロニカへの見舞いのために、再び訪問したエイミーは、しかし、途中で急に取り乱して帰っていった。

従者の話をまとめると、そんなところだろう。

しかも、リリーが先ほど人混みでエイミーを見かけたことからも、彼女はこの三ヶ月間ずっと、この地にいた可能性が高い。

サイラスとよりを戻したいなら、その間に彼に接近するのが道理であるが、従者の証言から、その後は姿を見せていないという。

しかも、リリーが見た限り、エイミーは何かにひどく怯えている様子だった。

その理由も目的も、さっぱりわからない。


ーーーレディ・エイミー。あなたに、一体何があったというの?


悪事が見つかって、咎められることを恐れているような、そんな頼りなげな彼女の表情が忘れられない。

リリーは、急にエイミーのことが心配になり、落ち着かない気分になるのだった。

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