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エイミーの件がどうしても気になったリリーは、念のために、サイラスに同行していた従者に、それとなく尋ねてみた。
すると、案の定、エイミーは三ヶ月前に、サイラスを訪ねてきたという。
思わず、嫌な予感がした。
「旦那様はけんもほろろで、すぐにレディ・エイミーを追い返されました」
「そう……」
勝手に押しかけてきたエイミーも問題だが、サイラスの対応もあまりいいとは言えない。
きちんと話し合わない限り、エイミーは決してサイラスを諦めないだろうからだ。
「その時、レディ・エイミーはどうされたの?」
「ひどく腹を立てられていましたが、旦那様に睨まれて、渋々、帰っていきました。明らかに納得はしていませんでしたが」
「でしょうね」
リリーは苦笑した。
その時の様子が、手に取るようにわかったからだ。
「実は、その数日後、レディ・エイミーはもう一度だけ訪ねて来られました」
「じゃあ、その時もサイラスが対応を?」
「いえ。その、旦那様は、大奥様と宿屋にご滞在中でしたので……」
つまり、サイラスがマリーに軟禁されている間に、エイミーが再び訪ねて来てしまったというわけか。
「あら?ということは、もしかして……」
「はい、レディ・ヴェロニカがレディ・エイミーの対応をされました。もちろん、ベッドの上からですが」
「………」
病人に、なんて無理をさせるのだろうか。
リリーは、思わず、ため息をついた。
エイミーが訪ねて来たのは、おそらく、ヴェロニカが亡くなる前日くらいだっただろう。
青白い表情のヴェロニカが、体を酷使して、懸命にエイミーの相手をしている様子を想像しただけで、リリーはいたたまれなくなる。
だが、もしかすると、エイミーが頑なに引かなかったのかもしれない。
あの性格だ。
サイラスに会わせろと言って、聞かなかったのだろう。
だから、仕方なく、ヴェロニカがサイラス不在を伝えるべく、対応に出たといったところか。
「念の為に、わたくしも同席はいたしましたが……」
「それは、その……大変でしたね」
現愛人と、前愛人による直接対面。
つまり、修羅場である。
その様子を想像して、リリーは青ざめた。
「レディ・エイミーは……どんなご様子でしたか?」
「機嫌は悪くありませんでした。それどころか、レディ・ヴェロニカに、お見舞いの花や果物を持参されていましたよ」
「そうなの?」
つまり、エイミーはわざわざヴェロニカに会いに行ったということだ。
見舞いの品を用意していたのだから、間違いない。
ということは、リリーが想像したほど、悲惨な対面にはならなかったのだろう。
さすがに、病人であるヴェロニカを気遣ったのかもしれない。
「しかし、それもつかの間でした。しばらく、お二人でお話しになられていたのですが、急に、レディ・エイミーが取り乱し始めまして……」
「?」
「果物が入った籠を引ったくるようにして、帰っていきました」
「お見舞いの品を持ち帰られたの?しかも、唐突に?」
「左様でございます。その後は、一度もお見かけいたしておりません」
リリーは、何度も首をかしげた。
エイミーは、最初サイラスを追って、隣国まで押しかけて来たものの、すげなく追い返された。
後日、ヴェロニカへの見舞いのために、再び訪問したエイミーは、しかし、途中で急に取り乱して帰っていった。
従者の話をまとめると、そんなところだろう。
しかも、リリーが先ほど人混みでエイミーを見かけたことからも、彼女はこの三ヶ月間ずっと、この地にいた可能性が高い。
サイラスとよりを戻したいなら、その間に彼に接近するのが道理であるが、従者の証言から、その後は姿を見せていないという。
しかも、リリーが見た限り、エイミーは何かにひどく怯えている様子だった。
その理由も目的も、さっぱりわからない。
ーーーレディ・エイミー。あなたに、一体何があったというの?
悪事が見つかって、咎められることを恐れているような、そんな頼りなげな彼女の表情が忘れられない。
リリーは、急にエイミーのことが心配になり、落ち着かない気分になるのだった。