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帰ってきた夫  作者: 西子
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ーーああ、これでようやく償いになるだろうか。


サイラスは死にゆく意識の中で、そう思った。

幼い時分に、父親が逝ってしまったサイラスにとって、死という概念は身近なものだった。

祖父も若くして亡くなったと聞いていたので、マクファーレン家は代々、短命なのだろうと、そう思っていた。

サイラス自身も、そう長くは生きられないだろうと、覚悟していた。

おそらく、代々の当主が短命なのは、マクファーレン家の裏の役目が関係しているのだろうと思われたが、詳細はわからなかった。

とはいえ、とはいえである。

サイラス自身が今こうして死に向かっているのは、その役目のせいではない。

"とある人物"のせいで、死にかけているからだ。

死にたくないと思うのは、きっとそれが原因だった。

今ここでサイラスが死ねば、リリーが悲しむだろうとわかるからだ。


ーー泣かせたくないな。


そう強く思い、サイラスの意識はそこで途絶えた。






遡ること数刻前。

今日はすこぶる天気が悪いなと、サイラスは思った。

元々、晴天の日が少ない季節ではあるものの、今日程の悪天候は珍しかった。

吹き荒れる暴風、止めどなく降り続ける雨。

まるで、これから起こり得ることを予見するかのような天気に、辟易してしまう。

とはいえ、サイラスのするべきことは変わらない。

ただ待つ、これのみだ。


ようやくかと思ったのは、それからどれくらいの時間が経った頃だろうか。

一般的に深夜と言われる時分。

サイラスの待ち人は、足音を立てずにやって来た。

いや、忍び込んで来たという方が正鵠か。

その体格からは想像し難いが、かなり繊細な足運びと言える。

夜半である上に、灯りを一切付けていない室内は、暗闇のそれ。

事前に侵入者の意図を理解していなければ、サイラスとてその接近には気付かなかっただろう。


サイラスはゆっくりと振り返った。

相手の位置を正確に把握している訳ではなかったけれど、侵入経路が限られているので、自然、サイラスの視線はドア付近へと向けられる。

若干、相手が怯んだような気配がしたが、サイラスは構わなかった。


「いらっしゃい、というべきか。招待した訳ではないけれど、よければ、腰かけるといい」


応えはない。

どう対応すべきか、考えているのだろう。

サイラスは肩をすくめ、もともと座っていた椅子に掛け直した。


「少し、話をしようか。君がここに来た理由について」

「……全てわかっているとでも言いたげだな」


初めて相手から反応があった。

不安や苛立ちではない、ただ淡々とした声色だった。

そうであって貰わないといけないと思った。

相手が冷静であってこそ、サイラスの知りたいことを聞き出せるのだから。


「わたしは、全てわかっている訳じゃない。知っているだけだ。君がどういう人間なのかを。君は今夜、わたしを殺しに来た。そうだな」


相手は肯定も否定もしなかった。

別に言質を取りたかった訳ではない。

サイラスは頓着せず続けた。


「君はレイチェルから、リリーが実家に帰っていることを聞いたはずだ。リリーの居ない今こそ、わたしを殺すチャンスだと考え、行動に移した。好都合なことに今夜は嵐、物騒な物音はかき消してくれる。多少の荒事は辞さない、君らしい行動規範だと思うのだが」

「いいだろう」


相手の口調はやはり淡々としていたが、少し身じろぎしたようだった。

いや、近くにあった椅子を引き寄せて座ったのだろう。

布の擦れる微音が、サイラスの耳に届いた。


「それで、他に何を"知っている"というんだ」

「君がジェイソンとリリーの両親を殺し、リリーを意図的に流産させたということだ」


サイラスがあまりに率直に言ったからだろうか。

相手は沈黙で返さなかった。

暗闇に慣れてきたサイラスの目には、しっかりとわかった。

相手が息を呑む様が。

畳み掛けるなら今かもしれないと、サイラスは思った。

これは一種の賭けだ。

相手の反応によっては、これから取るべき対応が変わってくるのだから。

だからこそ、サイラスは抑揚のない声音で語りかけた。


「もう一度、言おう。わたしは知っている、君が殺人犯だということを。違うか、ハンク」


刹那、まるでタイミングを図ったかのように雷鳴が鳴り響いた。

一瞬、室内にも光が入り、皮肉気に笑うハンクの表情が露わとなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハンクだったーーーーー!!! うわー!!ハンクはただの家令ではなかったということか?! 実は元軍人説、、、、リリーのお父様は隣国との戦争で功績の陰に生まれた部下だった、、、とか いや、で…
2022/10/16 21:06 通りすがりの謎ハンター
[良い点] とうとうこの時が来ましたね
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