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第8話 守山さんと委員会で少し仲良くなった


 いや大丈夫大丈夫、冗談冗談。

 めぐむに蹴られて気絶とかしてない。


 食堂で白眼むいて保健室に搬送されたとかないので。

 

 ともかく、めぐえもんのおかげで、俺の腹は決まった。



「俺は、守山さんとは付き合えないんだ」



 美化委員の初の仕事。

 水曜日の放課後、校内のゴミ拾いと花壇の草取りをする。


 俺のいるせいで、守山さんまもセットでこの一番時間と手間がかかるシフトになった。その点誠に申し訳なかったのだが、話しかけるタイミングは今しかない。


 周囲に人がおらず、委員会の都合で二人きりのこの瞬間。


 今ここを置いて、他にベストなタイミングは存在しない。


 用具室で火バサミや軍手を探す俺の背中には、


「え、あ、うん。昨日聞いたよ。けど傷口に塩を塗りこむようなことは勘弁してほしいなあ」


 さらりと、守山さんから流す言葉をかけられた。


 あれえー。

 けっこう覚悟して言ったのになあ。

 おっかしいぞー。


「もしかして、私が遠野くんを諦められなくて、だから同じ委員になったと?」


「あっはい」


 火バサミと軍手、どこに仕舞われてあったかな。

 夏休みを挟んで、場所が変えられてしまっている。


「自分で言うのもなんだけど、私、フラれたよね」


「俺が言うのもなんだけど、俺、フりましたね」


「諦めてなかったら、同じ委員になれないよ」


「あれえー?」


 そう、なのか?

 いやまあ実際、踏ん切りというか、ケジメがついてなかったら辛い。

 普通、やらない。


「じゃあ、なんで? 一学期は守山さん、広報委員やってたよな」


 道具を探す手を止めてしまう。

 止めずには、話ができない。


「知ってる? 美化委員は人気がないけど、だからこそ内申があるの。広報委員もあるけど、いろんなことに挑戦したって、推薦で効くらしいんだよね」


「すんません、ちょっと待ってください」


 守山さんを振り返る。

 その際、五指を広げた左手で顔を覆う中二ポーズを、俺は取らざるを得なかった。


「つまり、その、俺の勘違い?」


「平たく言うとそうなるね。すっぱり諦めてるから。遠野くんのほうから告白してくれるなら、まあ、考えないでもないけど」


「え、本当?」


「けど、昨日フった相手が引いちゃったからって、惜しくなって告白しちゃうとか、やっぱ昨日フったのなしでとか、最低だよね」


「うぐぅ!」


 大ダメージが入る。


「それってちゃんと考えてなかったとかさ。とりあえずキープしとこうとかさ。一方的に好かれてる気分を味わいたいとか。そういうことだよね?」


「うぐぐぅ!」


 やめてぇ、もう体力は残りわずかなの!


「別に遠野くんのことはすごく好きだったんだよ? けど、怖くてもちゃんと告白して、すっぱりフラれて、泣いちゃったりとかもして」


「あはぁん!」


 体力が尽きてしまい、廊下に倒れる俺。


「それでも遠野くんはちゃんとフってくれたわけだし、私も切り換えて遠野くんに気まずい思いさせちゃいけないな、とか思ってたんだけど、今更惜しくなったって、人としてそれはどうなの?」


 オーバーキルオーバーキル。

 どうしたんだ守山さん、きみはそんな子じゃなかったはずだ。


 そうさせたのは俺なんだろうけども。


 とっくに俺の体力はゼロなんですよ。


「で、どうする? 今から私に告白してくれるの?」


「そこまで言われといて告白とかしたら、俺、ゴミクズでもなくなっちゃうよ」


 産業廃棄物とか汚染物質とか、そのレベルになっちゃう。


「そこまで言われておいて告白してくれたなら、揺らいじゃってたのに?」


「え?」


「大事なものを失ってから気づくってこともあるし、ひどいってわかりながらも好きな気持ちが強かったら、それは揺らぐじゃない?」


 奇跡。

 ゼロどころかマイナス値になったはずの俺の体力が。

 みるみる回復していく!

 まさに不死鳥フェニックス、死んでなお蘇る!


「も、守山さん」


「なーんて、冗談」


 カンカンカンカンカン!

 圧倒的決着!


 再び起き上がるかに思えた遠野選手、守山選手の上げて落とす殺法でリングの奥底に沈んだー!


 やべえよ、守山さん強すぎる!

 なんで俺なんかを好きだって言ってくれたかわからないほど強者すぎる。


 小悪魔ビッチどころか淫魔ビッチだった。


 付き合えないけど、付き合えないからこそ、好きです。


「で、道具は見つかった?」


「すぐ探しますねー」


 守山さんには金輪際頭が上がらない。

 お父さんが入院してお金に困ってるって言われたら全財産投げ出すよ。


「あ、あったあった」


 これまで用具室の棚に無造作にあったものが、きちんとボックスに仕舞われていた。

 整理整頓はいいのだが、結局急に置き場が変えられると困る。


 守山さんの分を手渡せば、秋のゴミ拾い・校内一周ツアーの準備が整った。


「じゃあ、俺は左回りで行くから、守山さんは右回りで」


 二手に分かれてやっていったほうが、効率がいい。


「え、ムリです」


「ですよね。じゃあ俺が守山さんの分までやっておくよ。ばいばい守山さん。また明日会ったときは舌打ちしないでくれるとうれしい」


「どれだけ私がひどい人になってるの!? 一人でやらせるとかしないし、舌打ちなんかしないしそして普通にあいさつするよ!?」


「いやだって、俺、最底の男だし。守山さんの言う通り、すっぱり諦められてることで切なくなっちゃったし」


「ショック受けられてないほうが傷つくってこともあるし、私もいじめすぎたよ。ごめんね」


 軽く顔の前で手を構え、守山さんがさんぎょうはいきぶつに謝ってくれる。


 泣けてきて、俺は上を向いた。


「なんで泣くの!?」


「うれしくて……俺、こんな人に優しくされたの、初めてだぁ……」


「生まれてこの方孤児の乞食だった子が暖かい部屋でスープ飲ませてもらったみたいな反応をされるとは、私も予想してなかった。ほんとごめんってば、泣かないで?」


 泣かないでと言われると余計に泣きたくなるのはどうしてだろう。


 なんとか高校二年生にもなって学校で号泣するのは避けられた。


 涙目だけど。



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