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第7話 めぐえもん相談室の結論



 美化委員は面倒だし服が汚れかねないしで、とても不人気だ。


 文化祭委員も二学期の忙しさから不人気なのだが、こちらは一部の人間から大人気となっているので、枠がしっかり埋まる。というか通年のものになるので、一学期や三学期は割りと暇となっているから、いい面がある。

 一方美化委員には、そんなメリットはない。

 だから美化委員は不人気で、俺にぴったりということになる。


 一年生の始めから二年の一学期まで全部俺は美化委員となっており、ペアとなる女子に、「じゃめんどいから遠野くんに全部任せた」と一任されてしまうくらい、美化委員のスペシャリストだ。


 俺が美化委員になるのは確定で。

 ペアの女子が割りともめるというか、じゃんけんで負けたやつがなる。

 あるいは、クラス内で地味なやつか、委員決めで休んだやつか。

 まあつまりそんな感じだった。


 これまでは。


「えーと、じゃあ次、女子の美化委員だけど」


「――はい」


 守山さんもまた、美化委員に立候補したのだった。


 教室の空気が詰まるのがわかった。


 動揺、困惑、驚き、不可解。


 なぜ守山さんが、俺と同じ美化委員になるのか。


 俺も含めて、誰もが疑問に思う。


「他に立候補は……いない? じゃ、遠野くんと守山さんが美化委員ね」


 黒板の美化委員の項目に、俺の名前の次に、守山さんの名前が書かれる。


『よろしくね、遠野くん』


 そう書かれたノートの切れ端が、俺の机にそっと置かれた。


 わからない。


 守山さんが何をしたいのか、わからない。


 美化委員の活動、校内清掃をする段になっても、わからなかった。


 まさか『なんで遠野と同じで、しかもめんどくさい美化委員に?』と面と向かって聞かれるところは、少なくとも俺は見ていない。


 そもそも昨日のことにしたって、友だちがいない俺には、周りにどう扱われるのかわかっていないのだ。

 鞄に入れられていたラブレターのことは、俺と守山さん以外は知らないはず。

 けれど正門前で、守山さんと俺が話していたところは知られている。


「助けてめぐえもーん!」


 昼休みに、隣のクラスにいるめぐむのところに駆け込んだ。


「ああん? ――近づくな」


「ぐふっ」


 両手を伸ばして駆け寄った俺のみぞおちに、めぐむの蹴りが入る。

 正しくは、めぐむが足を伸ばしたところに俺が突っ込んでいったかっこうだ。

 脂汗を流しながら耐えること数分。

 復帰した俺は、めげずに頼み込んだ。


「そう言わず聞いてくれよめぐえもん!」


「あんた、今の状況わかる?」


「食事中だなめぐえもん」


遠野徹のび・のびるくんさあ、あたしの穏やかな時間を土足で踏みにじって楽しい?」


「だって着信拒否にされてるからさあ。それと友だちだろ!」


「こんな侮辱されたのは初めてよ」


 友だちじゃない宣言をされてしまった。


「やめろよぉ! こんな俺にだって友だちくらい……いなくても当然だけど、見捨てないでくれ!」


「あー、わかったから、そこに正座ね」


 大変だねえ、とクラスメイトから同情を受けるのはめぐむだ。俺じゃない。


 言われた通り、床に正座して、めぐむ様のお言葉を待つ。


「で、どうしたの? 鏡でも見てきたの?」


 なんだかんだ相手をしてくれるめぐむ。

 しゅきぃ……。


「毎朝見て打ちひしがれてるけど、そうじゃなくてだな。あ、いや、ここじゃ恥ずかしい、かな……」


 しなを作る俺を、めぐむは見下してきていた。


「あんた、とっくにすごい恥ずかしいことしてくれまくっちゃってんだけど。まあいいや、メッセでいいでしょ。じゃあね」


「天才か」


 さっそく俺は、めぐむの前でスマホをいじり、メッセを送った。


 ブブ、とめぐむのスマホが振動し、めぐむがメッセを確認する。


「はあ、ああ、なーるほど、ね」


 めぐむは箸で俺を指差す。行儀悪いぞ。


「妄想もいい加減にしときなさい。それか、黄色い救急車を呼ばなきゃね」


『俺は、まともです』


 メッセを送れば、めぐむが嫌そうに確認する。


「妄想でなきゃ、考えすぎとか勘違いとかね。大体、手紙ってとこから怪しいのよ。現物はある?」


『疑うなら見せるよ』


「ふうん、そこまで言うなら、仮に信じるけど。もう、断ったんでしょ?」


 守山さんからラブレターをもらい、すでに断った。

 それで終わり、のはずだった。


『うん。告白は、断った』


「あんたにしては賢いわ。で、それと今日のことが、何の関係があんの?」


『いや、だって、昨日告白されて、断って、けど、今日同じ委員に立候補って、どうしたらいいのか』


「断ったのに、しつこくされて困るって?」


『困るっていうか、まあ、うれしさ半分、混乱半分、だ』


「あんたはどうしたいの?」


『どうしたらいいか、わからないんだ』


「どうして? あたしなら簡単だけど。しつこい、断ったろ、すり寄るな」


『守山さんに、そんなこと言えない』


「はっ、これだから徹は」


 全国の徹くんに風評被害が起きるだろうが。


 徹くんに謝れ、全国の徹くんにごめんなさいするんだ。


 スマホのフリック入力で必死にメッセを書いていると、


「だから、あんたはどうしたいの。あの子に嫌われたくないのか」


 めぐむは二つの選択肢を示してくれた。


「あの子を嫌われさせたくないのか。どっち」


 守山さんを遠ざけなければ、俺はうれしくても、守山さんが嫌われる。


 守山さんを遠ざければ、俺は辛いかもだが、守山さんは嫌われない。


『ありがとう、めぐむ。考えるまでもないことだたった』


「礼くらい、っていうかいい加減」


 しっかりスリッパを脱いだ上で、めぐむは靴下を履いた足で、俺のほっぺをぐりぐりとえぐる。


「目の前にいるんだからメッセじゃなく口で話せ!」


「うん、ありがとうめぐむ!」


「ちょっと待って、このタイミングはやめて」


 めぐむが俺を踏みつけにして、俺が礼を言っている。


 ひそひそと、「やっぱりあの二人そういう関係……」とか聞こえてくる。

 たぶんその関係、友だちとかじゃなく、ただれてるとか服従してるとかそういう関係だ。

 あながち間違ってない。


「俺のことはいくら踏みつけにしてもいいぞ!」


「やめろっつったの! 恩を仇で返すな!」


 パパラッパラー、めぐむは女王の称号を獲得した。


 とおるはめぐむからさらに五十のダメージ。


 とおるは、めのまえがまっくらになった!



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