第6話 告白は断ったはずなのに同じ委員会に!?
静かなカフェ、店員さんがいる中で。
客は俺と守山さんだけ。
店員さんの目を盗めば、ちょっといやらしいことはできる。
というか、俺を好きだと告白した守山さんが、誘惑してきていた。
制服を着ていてもわかる、守山さんのおっぱいは大きい。
わしづかみにしても余るくらいだ。
なんだよおっぱい俺明日死ぬの!?
というか守山おっぱいさん清楚キャラじゃなかったおっぱいの!?
ほんとおっぱいとんだ小悪魔だよ!
いかん、思考に常におっぱいというノイズが発生している。
落ち着け遠野徹。
「や、マジで勘弁してください。守山さんの覚悟とかわかりましたんで」
「そう、よかった」
息をついて座りなおす守山さんに、果たして触れないでよかったのか。
ただでおっぱいに触れる人生最後のチャンスだったかもしれない。
「守山さんの意志は感じた。けど、やっぱり理由は、わからない」
「そう、だよね」
「うん。守山さんは、清楚でかわいくて性格もよくて控えめで男心をくすぐりまくる素敵女子だ」
「ちょっと、仕返し? すごい恥ずかしい、んですけど」
「はあ? いや俺なんかの言葉じゃとても言い表せないくらい守山さんはかわいくてきれいで、やばいよ。語彙力が足りないのでアレだけど、やばい」
「勘弁してください……」
すっかり顔を赤くして、守山さんは縮こまってしまう。
言われ慣れているだろうに、純情なままか。
「だから、そんな守山さんが、俺を好きな理由は、わからない」
辛そうな顔をする守山さんは、優しいがゆえに同情してくれている。
哀れんでくれている。
憐憫であれば、どんな最低のやつであっても向けることができる。
それでも、聖母みたいな優しさがあってこそのものだ。
生まれ変わったら俺、守山さんの子どもになるんだ……。
これがバブみというやつか。
「いじめられているとか、そうでなくても嫌がらせや罰ゲームかと思ったけど違うみたいだし、さすがに財産目当とかいったけどそれははないと思うしそうだったらごめんウチ賃貸なんだ、いい思いさせてくれてどうもありがとう」
「今、遠野くんが考えた理由は、うん、全部違うね」
「守山さんはきっと、覚悟がある。俺みたいなのと付き合う覚悟が。そのことだけは、よくわかった」
「遠野くんは、私があなたを好きな理由に納得できたらいいの?」
「それは俺にとってはありえないことだから。ただ、結論を引き延ばすつもりもないから安心してほしい」
「今こうしているのは、私も正直、うれしいか苦しいか、よくわかんないから助かる」
俺も守山さんと話せているのはうれしいし楽しいけど、苦しい。
罪悪感、みたいなものが、うれしいのと同じかそれ以上あるから。
だから、答えを出そう。
いつまでもイタ気持ちいいみたいな気分に浸ってる場合じゃない。
「――だからさ、この話は、なかったことにしよう」
「え」
「すごくうれしい、うれしいんだ。これは本当。嘘だったら俺の臓器を持っていってもいい」
「遠野くんは普段どんな世界に生きてるの?」
けど俺の差し出せるものってカラダ以外になさそうだしなあ。
「守山さんと俺が付き合うとか、ありえない。よっぽどの理由がない限り」
「ありえないなんて、そんなこと、絶対ないよ」
守山さんはガチ聖女だなあ。
「入学式の日にね、遠野くんに私、助けられたんだ」
「それは別の遠野くんじゃないかな」
人を助けられるほどできた人間じゃない。
俺は、イケメンの面池くんじゃないんだ。
「確かに、遠野徹くん、あなただった。きっと覚えてないんだろうけど」
「いやあ守山さんを助けたとかなら一生胸に誇りを抱いて生きてくと思うし」
困ったように、しょうがないなあと言いたげに、守山さんは微笑んだ。
「ただ、それはきっかけ。ずっと、遠野くんのことを目で追いかけてた」
「悪目立ちするほうだっていう自覚はある」
「遠野くんのそういうところ、私は嫌いだな」
「悪目立ちするところが? ――ってまあ、いや、わかる、よ。今のはわざと、ネガティヴスイッチ入れた。もうしない」
軽く頭を下げる俺のつむじに、切々と守山さんの言葉が投げかけられる。
「私は遠野くんが好き。好きな理由は、たぶんうまく伝わらない。けど付き合ってほしい。それでも、だめ?」
「だめだよ」
こればっかりは、譲れない。
「めぐむが言ってたことなんだけどさ」
「緋村さんが?」
守山さんの目が細められる。
「約束ってのは、一方的じゃ成立しない。友だちも同じ。恋人も、同じなんだ」
「遠野くんの言いたいことはわかる。けど、はっきり、言葉にしてください」
がしがしと頭の後ろをかかずにいられなかった。
ひどいことだし、身の程知らずっぽいけれど、それでも答えは同じだ。
「守山さんと、付き合わない。付き合うべきじゃない」
「どうしても?」
「どうしても」
「私、何でもするよ? 遠野くんがしたいこと、遠野くんのしたいこと、何でも。都合のいい彼女でいいし、二番目でもいい」
悲しそうな守山さんの顔を見ることができなかった。
かといってここで胸に目が吸い寄せられるのは我ながらどうかと思った。
「俺は最低だけど、それでも、最低なりに守りたい一線はあるんだ。守れないかもしれないけど、守りたいのは変わらない」
だから、守山さんの目を真っ直ぐ見て、結論を出す。
「俺は、守山さんとは、付き合えない」
これで、終わりだった。
それから守山さんは一言も喋らず、うなずくか首を振るかだけでコミュニケーションが行われた。
人通りのあるところまで守山さんを見送って、それでおしまい。
家に帰った俺は、ベッドの上で転げ回ったり叫んだりめぐむにしばかれたり、散々だった。
きっと今日のことは一生忘れない。
もう守山さんとああして話すことはないだろうけれど、思い出は財産だ。
ずっと、俺の人生の幸福度を底上げしてくれる思い出だ。
と、思っていたのだが。
「じゃ、遠野くんと守山さんが美化委員ね」
二学期の委員会決めで、守山さんと同じ委員になった。
告白を断ってから翌日のことである。
『よろしくね、遠野くん』
こっそりノートの切れ端で、守山さんは伝えてきた。
その顔には、イタズラっぽい微笑が浮かんでいる。