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第4話 守山さんは俺のことが好き!?


 学内クラス内付き合いたいランキング(※俺の投票除く)一位の守山さん。


 清楚といえば彼女、彼女といえば清楚。

 品があって人間ができてて、しかも引っ込み思案。


 俺も俺でさえなければ告白とかしてたかもしれない。

 しかし残念ながら俺は底辺どころか地中に埋まるレベルの人間なので、話しかけることさえ恐れ多いというか失礼だと思っていた。


 彼女と俺は、月とスッポン、いや月とカメノコタワシだ。カメですらない。


 なのに、彼女から、俺はラブレターをもらった。

 一度学校を出てしまっていたので、学校に戻ったわけなのだが。

 そこで待ち合わせ場所の第三特別教室でなく、正門で会ってしまった。


 気まずい。

 超気まずい。


「えっと、遠野くん、あのね」


「大丈夫! わかってる!」


 俺も頭が悪いほうだと自負しているが、今、守山さんの事情を理解した。


 大前提として、守山さんが俺にラブレターなどくれるはずがない。


 ではなぜ、俺宛かつ差出人が守山さんのラブレターが届いたのか。


 わかってしまった。


 わかりたくなかったし、そんなことがあってほしくなかったけど。


「俺なんかが、って思うけどさ、言わせてもらうよ」


「あの、遠野くん、ここじゃちょっと、困るっていうか」


 なるほど、正門となると、生徒の往来が激しい。

 こっそり話すにものすごく不向きだ。


「ああそうだったなごめん。俺なんかと話してる時点で守山さんは極めて遺憾、虫唾ダッシュだもんな……?」


「そんなひどいこと言ってないよ!?」


「では思ってるんだな!?」


「言ってもないし思ってもないってば! 誘導尋問にしてもひどすぎだよ!」


 即座に罵倒は飛んでこないあたり、守山さんは聖女だった。

 ビッチとかいってつくづくごめん。


「だから、その、返事くれるにしてもここじゃ困るっていうか」


 周囲を見回して、なるほどと納得した。

 聖女守山さんと、ドブ以下の俺が話しているのはチュパカブラより珍しいのだろう、状況的に半分衆人環視みたいになっていた。


 守山さんに悪評がつくこと自体は避けられないが、傷は小さいほうがいい。


「二人きりで話せるところがいい、ってわけか……」


「うんそう、やっとわかってくれた」


 こういうときにいいところを、俺は知っている。


 ただ、どこで話すのかは聞かれないほうがいい。


 守山さんには耳打ちすることで、周りには聞かれないようにした。


「駅のほうに歩いていくとあるコンビニ、その裏手のT字路を奥に進むと、肉球亭ってカフェがあるから、そこで落ち合って話そう」


 耳を押さえて、呆然とする守山さん。


 バカか、俺。

 聞かれないようにするのに頭が一杯で、耳打ちって。


「あ、いや、ごめん。ただ、聞かれないようにと思って」


「ううん、大丈夫。それより、と」


 守山さんが指差す。


「遠野くん、ちょっとあっち向いてくれる?」


「ん?」


 言われた通りの方向にあるのは、テニスコートだが、


「わかった。肉球亭、だね」


 耳に温かい息がかかった。


 喋っているときもかすかに吐息がかかっていたけれど。


 最後、だめ押しとばかりに、わざと、耳に息を吹きかけるためだけに、吐息がかけられた。


 耳を押さえてのけぞる俺に、守山さんははにかんで言った。


「仕返し」


 ビッチ。


 守山さんは、やっぱり清楚ビッチだと思った。



* * *



 何事もなく、肉球亭で落ち合った俺と守山さんだったが。


 裏路地のどこへ続いているかも一見怪しい道を行くのは、さすがに守山さんのほうにもためらいがあったようだった。とはいえ店主の趣味である北欧風の店構えを見て一安心、無事、店内で落ち合うことができた、ということだ。


 とりあえず飲み物の注文だけして、店員のミカさんにエスプレッソとココアを持ってきてもらったところで。


 正門前でできなかった話を始める。


「まずは、あんなところで話そうとして、デリカシーがなかった」


 この通りだ、と頭を下げる。


「だ、大丈夫だよ? 私こそ、待ち合わせの場所で待ってなくてごめんね? ただ、その、遠野くんが帰っちゃってて、公園に今ならいるから、って聞いて」


「そうか、すれ違いにならなくてよかった。こういうことは、早いほうがいいもんな」


 で、だ。

 本題、守山さんが俺にラブレターをくれた理由。

 言いづらいことだが、言わなければ、話を進められない。


 幸いこの寂れた喫茶店には、ミカさんと俺と守山さんしかいない。ミカさんは秘密を守る人だから、二人きりなのと同じだ。


「その、大変、言いにくい、んだけど」


「うん」


「――守山さんはいじめられているんだな?」


「ううん?」


「いや、いい。わかる。言いたくないし、認めたくないよな。けどもう俺はわかっちまってるんだ」


 いじめなんていうのは誰にでも起こってしまう。

 なぜ、あの子が、なんて、わからないものだ。


 善人だったからこそ、優れていたからこそ、優しかったからこそ。


 いじめる側に理由があっても、正当性はない。


 理不尽なものなのだ。


「辛かったよな。ほんと、守山さんをいじめるなんざふざけたやつらだ。俺は、決して、守山さんがそんな目に遭っていい人なんかじゃないと、声を大にして主張する」


「だから待って? あのね、手紙じゃ伝わらなかったかもしれないけれど」


 ――一息、守山さんが溜める。


「私、守山莉世は、遠野くんのことが、好きです」


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