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第3話 ラブレターをもらうとかないな・・・い?


 守山莉世は俺のようなゴミクズにも親切にする、聖女である。


 悪友であり猿でもある緋村めぐむに教えてもらったことで、俺はとんだ勘違いをせずに済んだ。


 いやー、よかったよかった。


 さすがにめぐむに殺されそうになったのはやばかったけど、人生こんなこともあるさ。


 人生いろいろ、本当にいろんなことがある。


 だからさ。


「俺の鞄にラブレターが入れられてるってこともあるよなー」


 そして我に返り、公園の中心で叫ぶ。


「って、ねーよ!!!」


 ラブレターでなく鞄を地面に叩きつけた。


 守山さんがビッチだという疑惑が晴れた翌日の放課後だった。

 帰ろうと鞄の中に教科書やノートを仕舞おうとしたときに気づいた。


 終礼が済んでからすぐ、学校近くの小さな公園に急いだ。

 遊具が老朽化しているために『遊んではいけません』などとブランコやすべり台に張り紙してある存在意義が俺みたいにあいまいな公園だった。住宅地に三方向を囲まれていて日当たりも最悪という、俺にふさわしい公園でもあった。


「これは、ラブレター、では、ない」


 自分に言い聞かせる。

 ハートのシールも、薄桃色の封筒も、若干匂ういい香りも。

 これがラブレターであるという証拠にはならない。


 あれは小学四年生の冬。

 今回のように手紙をもらったことがあった。

 体育館裏に呼び出され、告白をされるものだと思っていた。

 しかし実際は、俺宛の手紙ではなく、俺の後ろの席の面池つらいけ宛だった。


 手紙を持って現れた俺を見て、手紙を書いた女子は大号泣。


 このときはさすがに俺も涙目になった。


 思い出して、ちょっと泣けてきた。

 涙は流さない。上を向いて歩こう。


「これは、本当に、ラブレターなのか?」


 中身を確認しないことには変わらない。


 まず、宛名を確認だ。


 三つ折にして入っていた手紙を、上部三分の一だけ広げる。


『遠野くんへ』


 セーフ。


 ちょっと涙出てきたけど大丈夫。

 よかった、俺宛だということがはっきりわかって。


 うちのクラスには俺の他に遠野はいないし。

 さすがにクラスを間違えるほどの間抜けは高校生にもなっていないはず。


 肝心の手紙の文面は、簡潔なものだった。


『入学式のときから、あなたのことが好きです。返事が聞きたいので、放課後、第三特別教室に来てくれませんか』


 確定。ラブレター。


 俺、大勝利。


 ――と、待て待て待て。


 俺に、この俺に、ラブレター?


 ありえない。

 太陽が西から昇り東に沈むよりありえない。


 落ち着け遠野徹とおの・とおる


 誰がこの手紙を書いたのか、手紙の最後の差出人を確かめるのだ。


『守山 莉世』


「うおおおおおおおおおお!」


 思わず使用禁止のすべり台を駆け上がり、そしてすべり降りる。


 尻が痛かった。


 砂場に体育座りをしながら、俺の脳みそはフル回転していた。


 なぜ何どうして教えてめぐむ先生。


 思わず電話をかけた。


「もしもしめぐむ?」


『部活中にかけてくんな』


 即切られてしまった。

 出てくれるあたり律儀だしありがたかった。

 今度駅ビルのクレープでもおごってやろう。


 そしてここはめぐむの親切心に甘えよう。


 再び電話をかける。


「――俺だ」


『しね』


 切られてしまった。


 知ってるぞめぐむ。だって、俺の唯一の友達だもんな。

 まあお前には俺の他にたくさん友達いるんだけど。

 以前学校で話しかけたら、話しかけんなって怒られたんだけど。


 ラストチャレンジ、めぐむ先生、俺の話を聞いてくれ。


「あ、めぐむ? 俺俺」


『おかけになった電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめになるか、もう一度おかけ直しください』


「はは、めぐむ、機械音声のモノマネがうまいなあ。お前にそんな特技があったとは知らなかったよ。で、本題なんだけど」


 電話は切れた。


 モノマネでなく、マジの機械音声だった。


 雲ひとつない夕焼け空だというのに、一粒の雨が降ってくる。

 一粒だけ雨が降ってくるなんて珍しいなあ。


 まあ、俺の涙なんですけどね。


「あいつ着信拒否しやがった……!」


 スマホを握り締めながら、天に向かって俺は嘆いた。


 話くらい聞いてくれたっていいはずなのに。


 いやまあ、俺なんかの電話に二回も取り合ってくれるあたり、実際のところめぐむは聖人だと思った。なんだかんだあいつは優しいやつだ。


「それにしても着信拒否は、今日だけは、勘弁してくれ――そうだ!」


 直接、めぐむがいる弓道場に乗り込めばいい。


 そのくらいまですれば、ゴミを見る眼で見られても、話くらいは聞いてもらえる。


 めぐむに相談が、できる。


 さっそく俺は学校に立ち足漕ぎで戻った。

 

 公園から学校に戻るまで五分とかからない。


 正門前にゴム痕を残すように急ブレーキ、学校に舞い戻る。


「遠野、くん?」


 守山莉世が、正門のすぐ近くにいた。


 第三特別教室で待っているはずなのに、なぜここにいるのか。


 夕陽を背に立ち尽くす守山さんは、幻想的で、かつ、とてもきれいだった。

 厚かましくも胸が締めつけられるくらい、焦がれた。


 ではなくて。

 守山さんからのラブレターのことで、めぐむに相談したかったのに。

 その前に、当のご本人、守山さんに遭ってしまった。


 どうする、俺。




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