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第19話 我が家に『来ちゃった』守山さん



 明日香さんが、守山さんとめぐむ両方に俺が二股かけてるとか言い出した。


 この人ここまで頭が悪かったんだな。


 その後、めぐむが何かしたのかわからないが、すっかり明日香さんは大人しくなった。


「いやあ、はは、まあ言い過ぎ、やり過ぎたかな。今晩世話になるっていうのに……仲直りの印に、一緒にゲームでもしようぜ!」


 大人しくあったの、ほんの一瞬だったけど。


 ちょうどめぐむがゲームがつけっぱなしな、そこはありがたい、はずだ。ゲームに夢中になれば大人しくしてくれていると思う。


 一応、どうするのか、俺は目でめぐむに問いかけた。


 めぐむのほうは、いいんじゃない、と言いたげに微笑む。


「大丈夫、こうしていればうまくいくから」


 俺にはわからなくてもめぐむの中には確信があるらしい。


 自分を信じられない俺だけど、めぐむのことは信じられる。


 きっと、意味がある。


「わかりました、明日香さん。どのゲームします?」


「王様ゲームとかどうよ」


「ちょうど王様を目指すスゴロクゲームがあるんでそれやりましょうねー」


「勝ったら何でも言うこと聞かせられるって条件でならやる」


 断固として命令権を得られるルールはゆずれないらしい。


「そんなのやるわけ――」


「いいんじゃない?」


 めぐむがテレビ台の下を漁り、スゴロクのテレビゲームをセットする。


「そっちのほうが、うまくいく《・・・・・》」


 何をめぐむが企んでいるのか、俺にはさっぱりわからない。

 けれどわかった、俺はめぐむを信じている。


 さて、やることは決定したわけだが、


「なんでも……めぐむに徹様って呼ばせることもできるのか」


「へーぇ、そう呼ばれたいなら今すぐ呼んであげるけど」


 圧倒的プレッシャーがめぐむから俺に発される。

 笑顔ではあるが、なるほどこれは命の危険がデンジャラス。


 というかあれ、勝っても俺、いいことないような。

 下手な命令したらめぐむが怖いし。

 明日香さんにさせたいことってのもないし。


 この勝負、俺にメリットないじゃないですかやりたくないよう。


「いちゃついてないで早くやろうぜ、何を命令しよっかなー」


 俺の意思に関わらず、闇のゲームが始まってしまった。


 肝心のゲーム内容だが。

 

 意外というか何というか、明日香さんのリードが続いた。

 いくつもある中間ゴールの多くを一位で抜け、マス目もアイテムも明日香さんの有利が続いている。


 このままでは明日香さんが勝ってしまう。


 明日香さんが面白がってする命令、想像したくもない。


 しかし、めぐむはずっと楽しげで、まるで安心しきっていた。


 自分が勝利するのが決まっているかのように。


「いやー、何か悪いね。ふつーにオレが勝っちゃいそうだ」


「残念ながら、それは、それだけはないんですよ? 明日香さん」


「何を根拠にそんなことを言うの? 逆境に強い主人公補正があるとでも?」


「まさか、徹でもないのにそんなことは考えません。ただ一つ言っておきましょうか。逃げたほうが、いいですよ」


「逃げるぅ? 勝つ戦いから逃げるバカがどこにいるの。さあ続き続き!」


 こうしてゲームは継続される、というところで。


 玄関のドアが、ノックされる。


「誰だ?」


「あたしが出てくるから、徹、あんたがターンを進めておいて」


「お? おう」


 コントローラーを投げ渡され、素直に従う。


「けどお前も知ってるだろ、俺の運が悪いの」


「だいじょーぶ」


 気にすることなく、めぐむは玄関に出迎えに行った。


 ボタンを押してサイコロを振るも、一とやはり出目が悪い。


「ほらやっぱり、俺が代わりにやってもだめですよめぐむさん……」


「ふふん、つくづく運がないなー、遠野くん。きみの負けたときの顔が今から楽しみってもんだ……。っと、めぐむちゃん、おかえり誰だった――あ?」


 リビングのドアを開けて入ってきたのは、熊みたいな男性だった。


 その人は入ってくるなり明日香さんのほうに突進する。


「明日香ああああああああ! お前というやつは本当に! 人様に迷惑をかけてばかり!」


「ひっ!」


 ものすごい剣幕で明日香さんがびびるのもうなずける。


 俺が怒られたわけでもないのにとりあえず謝りたくなるほどだ。


 抵抗を見せたところで、明日香さんはあっさりと羽交い絞めにされた。


「なんてことだ、めぐむがむさい男に!」


 玄関で一体何があったというんだ。


「おいそこのバカ、あたしはここだ」


 普通にめぐむは廊下にいた。


「ふー、何だよ、ビビらせるなよめぐむ」


「あたしはあんたの明後日の想像力が怖いわ」


 とにかく、めぐむがむさい男に変身したのではなかった。


 しかし、あの男の人は誰なのだ。

 それに、めぐむの後ろから、また二人、知らない人が現れる。


「あらあら、あなた、それでは遠野くんが驚いてしまうじゃない。めっ」


「僕、本当に必要でした? 叔父さん一人で十分じゃないですか」


 柔和そうな三十代っぽい女性と、それより少し若い地味な青年だ。

 ただ、どことなく、見覚えがある。

 会ったことはない、けれど、誰かに似てるような。


「えーと……来ちゃった」


 そしてひょっこりと、守山さんが顔を出したのだった。


 背後で明日香さんがむさい男に羽交い絞めにされ説教されてぎゃーぎゃーわめいているのが気にならないくらい、びっくりした。


 守山さんの私服姿しか目に入らないし、イタズラっぽく喋る声しか聞こえない。


 生きててよかった。


「うっ……」


 嗚咽が出てしまうくらい、マジ泣きしてしまった。

 せめて泣き顔は見せないよう、目元は手で覆う。


「遠野くんどうしたの!? そんなに辛かったの? よしよし」


 頭をなでて、守山さんがなぐさめてくれる。


 来世は守山さんの子どもに生まれ変わりたいです。


 とか、考えている場合じゃない。


「どうして守山さんがここに?」


「あたしが呼んだ、というか頼んだの」


「いつの間に――いや、そう言えば」


 明日香さんを庭から招き入れる前に、めぐむはスマホをいじっていた。


「あの時、窓を開ける前にスマホで?」


「その通り。ゲームを始めた時点である意味勝っていたのよ。時間を稼げば、守山さんが明日香さんを引き取ってくれるってわけ」


 めぐむさんに一生ついていきます。

 何がしたいのかぴんと来てなかったけど、信じてよかった。


「ま、もうちょい時間がかかるかと思ってたけど。早かったね」


「それはそうよ、莉世が急かすものだから」


「お母さん!? 急かしてないし!」


 すかさず守山さんが三十代の女性、守山さん母にツッコミを入れる。


 見覚えがあるはずだ。

 似ているはずだ。

 家族なのだから。



「明日香が遠野くんにとんでもない迷惑かけてたらどうしようどうしようって心配してて。ほんとは莉世が服選びに時間かけなければもう少し早くつけたんだけど」


「お母さん、ちょっと許して、明日香くん連れて早く帰ろ、ね? ね?」


 そこまで心配する理由も服選びに時間をかけた理由もわからない。


 ただ、私服でショートパンツとタイツの守山さんが見ることができた。


 しかも恥ずかしがっている感じがまたよいので、


「ありがとう守山さん。……いくら払えばいいのかな」


「なんでお金の話に、っていうか微妙に、目つきが、やらしい」


 じと目に加えて胸を隠すようなポーズまでサービスされてしまったので、


「わかった、有り金全部払う」


「人の話聞いて!?」


 今日の守山さんは感情豊かだった。

 よほどテンパっていて押さえが利かないらしい。


 何しててもキモい俺と違い、何しててもかわいい守山さんであった。


「あのね、莉世」


 そっと後ろから、守山さんのお母さんが、守山さんの肩に手を置く。


「うちの車、四人乗りなの」


「知ってるよ。それが何?」


「私、明日香くん姉弟、そしてお父さん。これで満員。わかる?」


「……えっと?」


「さ、明日香くんを連れていって」


 指を鳴らし、守山さんのお母さんが合図を送る。

 守山さん父と、明日香さん弟が、暴れる明日香さんを仕留められたカモシカみたいに担いで運びだした。


「いやだ、ごめんなさい、遠野くん助けて! マジに殺される! オレ悪いことしてないって、遠野くんから言って聞かせてくれよねえってば!」


「安らかにお眠りください外道」


「遠野くんの鬼畜! 最低野郎! 浮気男!」


 最後の以外は全面的に受け入れるので、二度と戻ってこないでください。


 結局、去り際まで騒がしい人だった。


 悪は去った。


「ほんとごめんね、遠野くん」


 そして守山さんという天使が家にやってきていた。


 何この状況。


 守山さんが、俺の家に、いる。しかも私服姿で。


 ショートパンツもさることながら、タイツに包まれた足が目を引く。


 薄めのタイツもいいけど厚めもいいよね。

 あれは六十デニール、タイツ鑑定職人の俺にはわかる。


 ではなくて。


 どうしよう、守山さんの顔が、まともに見られない。






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