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第1話 消しゴムを拾ってもらっただけである




 守山莉世は清楚ビッチである。


 なぜか。


 守山莉世の特徴について述べよう。


 艶のある長い髪に、品のある仕草、制服の着崩しも最小限。

 笑うときは口元を押さえて小さく笑う。チンパンジーのおもちゃみたいに笑う我が悪友とは大違いだ。

 勉学に対する姿勢もまじめだし、気配りができて思いやりもある。


 性格も遠慮がちで、気を遣うあまりに損をする様子も見られる。


 成績・運動はそこそこ、鼻にかけるふうもなく嫌味がない。


 男子の間で半分悪ふざけとはいえ行われた、学内付き合いたいランキングにて堂々の一位だった、というのもうなずける。


 清楚な女子、というのは万人ば納得するところ。


 ただ、俺だけは知っている。


 授業中にも関わらず、守山さんは俺にみだらな行いをしてきた。


 ゆえにやつは、ビッチだ。



* * *


 守山さんとは二年生で同じクラスになった。


 しかし夏休み明けのこの度、席替えで隣になったのである。


 俺みたいな暗いやつが隣の席になって申し訳ない限りだった。

 守山さんが話しかけてきた時点で、謝ろうと思っていた。何しろ俺が隣にいることで、彼女みたいな人間の学校生活を暗澹たるものにしかねない、いや、してしまっているのだ。

 俺に謝られても不快なだけかもしれないが、誠意は見せなければならない。


「あの、遠野くん、よろしくね」


「俺なんかが隣の席になる運を持っていて誠に申し訳ない」


「えと、遠野くんにとっていいことが起きた、ってことでいい?」


 聞かれて、俺はうなずく。

 もちろんだった。

 まあ守山さんには最悪なことだったかもしれないが。


「あはは、私こそ、遠野くんの隣の席で、その、うれしい、かな」


 守山さんの優しい言葉が心にしみた。


 このときはまだ、俺は守山さんのことを単なる優しい清楚系美少女だと思っていた。単なる清楚系美少女というのも自分で言っていてよくわからなかったが、まあそういうニュアンスだ。


 俺が、守山さんが清楚ビッチだとわかったのはもう少し後のこと。


 英語の授業で、単語の小テストが行われたときに、わかった。


 単語のスペルを書き間違えて、消しゴムを取ろうとしたときだ。


「あっ」


 消しゴムを落としてしまう。

 運の悪いことに、守山さんのイスの真下だ。

 本来自分ですかさず拾うとこだってのに、これはためらう。


「はい、落としたよ」


 消しゴムを拾って、守山さんが俺に手渡してくれる。

 このゴミはなあに?と笑顔で俺のほうに蹴飛ばして寄越してくれてもよかったのに、守山さんは本当に人間ができていた。


 コンビニの店員さんがつり銭を渡すとき稀にやるみたいに、俺の手をゆるく両手で包んで、渡してくれた。



 ン゛ヴィッッッッッッッチ。



 あかかたかった、噛んだ、あたたかかった。


 ぎゅっと握るんじゃなく、そっと両手で触れてきた。それが余計に男心をくすぐるというやつだ。見えそうで見えない、見えたらむしろがっかり、そんな感じで、触れるか触れないかで、けどちょっと触れる感じ。


 温もりが、感触が、優しさが、いつまでも、この右手に残っている。


 守山さんはきっとこれをわかってやっている。


 恐ろしい、とんでもなく恐ろしい女子だ。


 違うし。


 別に惚れそうになったとかないしな。


 ただ守山の行動が俺の心をサキュバスかってくらいくすぐってきただけで。


 俺がちょろいんじゃなく、あっちの振る舞いがやばい。

 ほんともう、とんだ小悪魔ビッチだった。



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