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第12話 守山さんが保健室のベッドから呼んでいる


 委員会の仕事の後。


 守山さんが過換気症候群に陥った。


「ま、つまりは過呼吸ねぇ」


「ですよねー」


 近くにいた生徒に頼んで、人を呼んでもらい、保健室に守山さんを運んだ。


 服が汚れた以外には何もなくて、守山さんは無事だ。


 過呼吸も収まり、今はカーテンの向こうのベッドで休んでいる。


 一方俺のほうはパイプ椅子に座って、養護の先生から話を聞かれている。


「何があったのか、詳しく聞かせてくれる? 原因に心当たりは?」


「いやあ、恥ずかしながら、キモい妄想を守山さんに話してたら過呼吸になってしまって」


「どれだけえげつない妄想聞かせたのかしら……無害そうな顔して、頭の中はピンクと肌色で一杯ってわけ」


「まあとんでもない妄想だったってのは事実です。守山さんに勘弁してほしいと謝られたくらいで」


「話だけ? 体に触れたりとかは?」


「してませんって」


「いやらしい目つきで見たとかは?」


「しっ……してたかもですけど、してたならずっとですよ!」


 否定しきれないのが切ない。


 しょうがないじゃん。


 男子高校生なんて皆エロい。


「まあさすがにそのくらいじゃ過呼吸にならないか」


「そ、そうだそうだ! 濡れ衣だ、横暴だ!」


「まあ、そうね、あなたの言い分を認めましょうか」


 養護の先生はとりあえず俺の言い分で納得してくれたようだった。


 むしろ俺と今まで話していて守山さんが過呼吸になっていなかったのがおかしい、という考えまであるくらいだ。


「ちょっと、守山さんと話してくるわ」


 養護の先生は書き物を終えると、カーテンの向こうに消える。


 ささやくような声だったが、音を遮るものはカーテンしかない。

 内容を聞き取ることは、少し離れた位置にいる俺にもできた。


「……本当に何もされてない?」

「先生、いいカウンセラーさんと弁護士を知ってるの」

「二度と日本の土を踏めなくしてやることができるんだけど」

「大丈夫、怖がらないで。経験豊富なの。男を男じゃなくしてやることとか」



 何も納得してもらえていなかった。

 守山さんに俺が何か物理的にいかがわしいことをしたのでは、と。

 だから彼女が過呼吸になったのだと、疑われているまんまだった。


 大人って汚えよ……!


 しょうがないけど。


 守山さんから事情を聞くのが終わったみたいで、声が途切れる。


 ベッドスペースから養護の先生が戻ってきて、


「本当に何もしてないっていうの……?」


「そんなこの世の終わりみたいな顔するのは勘弁してくれません?」


 そこまで信じがたいことか、先生。


「あなたこそ手当たり次第に女という女に乱暴してやるぜぐへへみたいな顔するのはやめたほうがいいんじゃない? ちなみに先生、結婚済みだから」


「あいにくとこれがデフォなんですよ」


「人妻のほうが燃えるっていうこと? 末期ね」


「違うっつってんのに、さすがに俺に恨みあるんじゃないかって思えてきました」


「○インスイーパのベストスコア更新の邪魔をした元凶めだなんて、そんなこと誰も言ってないのだけど」


「そんな小さい理由であそこまで言われたんですか……? 俺も大概理不尽な目をよしとしてきましたけど、さすがにこれはないわー、なしですわー」


「けど、元凶ってあなたしかいないじゃない」


「ちゃんと仕事しててくださいよ」


「守山さんを過呼吸にまで追い込んだのは、あなたなんでしょう?」


 そこに関してはぐうの音も出ない。


 原因ははっきりしないまだけれど、俺以外に原因も思い当たらない。

 聖女な守山さんを苦しめたのは、産業廃棄物以下の俺だ。


「守山さんが、あなたを呼んでる」


「えっ?」


「未来永劫その腐った遺伝子を残せないようにしてやりたいんだって」


「守山さんはそんなこと言わない!」


 やめろよ、ちょっと想像しちゃったじゃないか。

 それはそれで興奮してくるから、守山さんが本当に小悪魔に思える。


「……何興奮してるの?」


「も、守山さんが呼んでるんでしょう。早くそばにいってあげないと」


 逃げるように、俺は女子用のベッドスペースへ向かった。


「はいはい。ただ一つだけ、大事なことを言い忘れてたわ」


 声をかけられてつい、足を止める俺。


「はい? 大事なこと、ですか」


「もし学校でおっぱじめるなら体育倉庫にでもしてね」


「ナニをですかね!?」


 保健室のベッドに守山さんが寝ているからって、考えもしなかった。


 ただ、いざ指摘されると、悶々としてしまうのも事実だ。


「現場が体育倉庫ならさ、体育担当の、ほらあの女子生徒を脅迫して手込めにしてそうな黒光り筋肉。あれの責任にできるから」


「最低だ、最低だよこの先生!」


 体育担当の先生は、暑苦しい筋肉なだけで善い人なのに。


 その善良さに比例するみたいに、この養護の先生は邪悪だ。


 こんな先生に構っていられるか。


 何より守山さんが俺を呼んでるんだ、行かないと。


「守山さん、入るよ」


 一応声をかけてから、カーテンを開けて中へと入る。




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