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第10話 守山さんが焼きもちを妬いてくれたとかいう妄想

 


 美化委員の仕事の終わりがけ、一年の女子ふたりがやってきた。


 その内のひとりから、いちゃついていると言われた俺と守山さん。


 ……いちゃついている?


「い、いちゃついてないから!」


 必死に否定する守山さんに、


「そうだぞ一年。俺が一方的に言葉で嬲られていただけだ」


 懇切丁寧、誤解のないよう説明する俺。


「違うから! もう遠野くん喋らないでくれる!?」


 黙っていろと罵られてしまった。

 少し傷つくものの、悪くないと気持ちよくなる自分もいた。


「聞いての通り今まさに嬲られている。決していちゃついてはいない」


 守山さんに命じられたのについ喋ってしまった結果、横から圧倒的プレッシャーを感じる。

 クラスメイトの男子に囲まれたときと同等のプレッシャーだ。


「おなか一杯ですし、もういいんでこっちの話聞いてもらえますか」


 一年の眼鏡っ子にため息混じりであきれられてしまった。


「守山先輩抜きで、遠野先輩にお話があります。人のいないところまで来ていください。もう、委員会のお仕事は終わりですよね?」


「確かにこれで終わりだけどな」


 空き缶をプラスティックカゴの中へ入めば、分別は終わり。


 あとは守山さんが教室に戻っていく後姿を、俺が舐めるように見送るだけだ。


「話ってのは何なのかな。もしかして俺をサンドバッグにしたいとか?」


「何その怖い発想。遠野くん、まさか今までにされてないよね?」


「え? えーと、あ、うん、大丈夫」


 とりあえずこの高校に入ってからそういうことはなかった。

 学校選びは大事だなあ、めぐむについてきただけだけど。


「先輩の噂は聞いてます。その性格もわかってます。ただ、話があるってことと今の状況から、本当にわかりませんか?」


 放課後、一年の女子二人が俺を訪ねてきた。

 片方の気の強そうな眼鏡が喋るばかりで、秘密の話があると言う。

 もう片方は気が弱そうな前髪パッツンで、一言も喋りはしないが、俺のほうをちらちらと見てきては、目が合うとすぐそらしてしまう。


 ちっくたっくちっくたっく。

 このきつい眼鏡一年生がキレる前に答えを出さねばまずい。


 ちーん。


 ずばり。


「カツアゲ」


「どうしてそうなるんですかバカなんですかバカなんですね! バーカ!」


 打てば響く子だなあ。


 あれだな、ちょっと同類の匂いがする。

 叩きがいがあるというか、反応が良すぎるというか。


「しもっちゃんが、もったいなくもあんたに告白しようって言うんですよ。私は無理やり付き合わされてここにいます。二人きりにするのでお構いなく」


「あ、アンちゃん、ちょっとそんなストレートに」


 どうも、しもっちゃんというのが、気の弱そうな前髪パッツンで。

 この気の強い眼鏡っ子が、アンと言うらしい。


 しかし、告白……告白?


 俺の余命が一年とか、金持ちのおじいさんを助けたとかいう噂が流れてでもいるんだろうか。


「いいでしょ別に。守山先輩は、別に言いふらしたりしませんよね」


「それは、うん、もちろん」


 アンちゃんに疑われるも、守山さんは落ち着いて否定している。


 ただし俺はむっとしてしまった。

 もちろん守山さんにでなく、アンちゃんに、だ。


「おいアンちゃん、守山さんがそんなことするわけないだろうが」


「誰がアンちゃんだ、馴れ馴れしい!」


「俺のことはゴミムシと呼んでいいぞ」


「ごっ? ……遠野先輩は、本当に遠野先輩なんですね」


 やめろ。

 罵るのも責めるのもいいけど、ヒくのはやめろ。


「とにかく、とっとと面貸してください、雰囲気ぶち壊しじゃないですか」


「俺の目から見ても壊してるのアンちゃんのほうなんだけど」


 黙りこむアンちゃん。

 言われれば気づけるくらいの頭は残っていたらしい。


「アンちゃんってあんたが呼ぶな。いいから、来てくださいよ」


 無理やり気まずさを誤魔化したアンちゃんが、俺の腕をつかもうとしたときだった。


 横から守山さんが、アンちゃんの腕をつかんで止めさせる。


「この手は何ですか、守山先輩」


 一瞬イケメンが突然現れたのかと思ったけど、それは守山さんでした。


 あれ? なんか違くない?


 どうして俺が、ヒロインみたいな立ち位置になってるんでしょうか。

 これはあれですよ、チンピラがヒロインを無理やり連れていこうとして、そこへ主人公がかばうためチンピラの腕をひねり上げるとかのあれですよ。


 ヒロインが俺で、主人公が守山さんで、チンピラがアンちゃんだ。


 あれれー、おっかしいぞー?


「何なんですか。遠野先輩は男の人ですし、先輩はただのクラスメイトでしょう?」


 正しい、まったく正しい。

 守山さんと俺の立ち位置が逆だったらよかったのだが。

 そんな甲斐性も根性、俺にあるはずもなかった。


「悪いけど、見過ごすことはできないの」


 かっこいい、かっこいいよ守山さん。

 俺がヒロイン役になってさえいなければ惚れていたくらいかっこいい。


「どうしてですか」


「理由は三つ。一つ目は、あなたが強引すぎるんじゃないかってこと。二つ目は、そっちの子が一言も自分から喋っていないこと」


 告白したがっているのは、一年の眼鏡っ子でなくその片割れ。

 前髪パッツンっ子だ。

 こっちの子は確かに、恥ずかしそうにするだけでろくに喋っていない。


「……だとしても、納得できません」


「そして三つ目。私が、遠野くんの彼女だから」


「え」


「えっ」


「えっ!?」


 アンちゃん、しもっちゃん、そして俺が驚く。


 びっくりしたー、いつの間に付き合ってたんだろう、俺と守山さん。


「あの、遠野先輩が一番驚いてるんですけど」


「遠野くんは頭が悪いから」


「そうでしたね。危うく忘れるところでした」


 そこはそんなわけないじゃないですか、とツッコんでくれていいんだよ。

 まあ別にいいんだけどさ。頭が悪いってのは事実だ。


「守山先輩と遠野先輩が同じ委員になってたのも、そういうわけですか」


「うん。けど、できれば秘密にしてね。こっそり付き合うことにしてるから」


「それは、主に遠野先輩がアレなことが理由でしょうか」


「アレ? アレって何?」


「そう、遠野くんが主にアレなせい」


「では、仕方がないですね。今日のところは引き下がります」


「アレって何なのか教えて……」


「けど、忘れないでくださいね。高校生の恋愛なんて、すぐ別れちゃうなんてこと、よくあることなんですから」


「ありがとう。一般論として、覚えとく」


「アレって、何なのさー……」


 俺が会話に入ろうとしても無視され続けた。

 守山さんとアンちゃんの間でだけ、会話が成立していた。


「失礼します」


 そして眼鏡っ子のアンちゃんは、一緒に来た前髪パッツン女子のしもっちゃんとともに、お辞儀だけは忘れないで立ち去るのであった。


 ファイト俺、負けるな俺。

 先生にまで無視された過去はダテじゃないぞ。



 それにしても、俺がアレと表現されたのも気になるけど。

 守山さんはどうして、俺と付き合っているだなんて嘘をついたんだろう。


 まさか焼きもちを妬いてくれた、とか。


 いや、すでに恥ずかしい勘違いをしてしまってるのだ。


 俺と同じ美化委員になったのは俺と仲を深めるためとかいう勘違いを。


 この上、焼きもちを妬いてくれたのだと勘違いしたら恥ずかしすぎる。


 守山さんの耳が赤く見えるのは、夕陽のせい、だ。



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