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第9話 守山さん以外からも告白されるとかありえません・・・?


 守山さんみたいな聖女が、俺みたいな放射性廃棄物に優しくしてくれる。


 それだけでもう、生まれてきてよかったみたいになる。


 ともあれ、いつまでも泣いてはいられない。


 涙を止めて、守山さんに感謝の言葉を伝えよう。



「ごめん、そしてありがとう守山さん。俺、守山さんに最後に優しくしてもらえたの、墓まで忘れないよ」


「遠野くんこれから死んじゃう運命でもあるの?」


「俺、この仕事が無事終わったら田舎に帰るんだ……」


「露骨なフラグ立てないの。あと、遠野くんの実家って隣の市だよね? 田舎じゃないよね?」


 よく知ってるな守山さん。

 英語の授業で一回言ったことがあるだけなのに。


「ムリって言ったのは、美化委員の仕事の勝手がまだよくわからないから。まずは一緒に回って、教えてくれる?」


「とは言っても、ほんとにゴミを拾うのと草むしるだけだし」


「言うは易し行うは難し、ってね。ちゃんと見てて、教えてほしいな」


「ん、まあ、わかった」


 というわけで、守山さんと一緒に校内を回ることになった。


 基本的に美化委員では、校内の外縁部を回るだけでいい。


 花壇や塀沿いに草が生えてたり、テストの答案やパンの包装が落ちてたりするのを処理する。


 守山さんの言う通り、ただやることを簡単に伝えるだけではダメだった。


 程度、適当、というのがあるのだ。

 ほどほどに、後にまた美化委員が同じ場所を回るので、仕事を残しておく。

 ゴミくらいはすべて拾ってもいいが、草はやりだすと日が暮れる。


 特に真面目な守山さんは、律儀にやろうとするから、一緒でよかった。


「とまあ、こんな感じでやってください」


 校内を一周終えて、元いた用具室の近くまで戻ってきた。


 ポリ袋には、燃えるゴミと、燃えないゴミで大きく分けてある。

 あとは燃えないゴミを、ゴミ捨て場で分別して、燃えるゴミはそのままボックスへ叩き込む。


「わかりました、遠野先生」


「やめて。こそばゆいからやめて」


「けど遠野くん、美化委員のスペシャリストなんだよね」


「物は言いようだと強く思う」


 面倒な仕事を押しつけ続けられただけなのに。

 こういうポジティヴな見方や表現ができるのが、守山さんの守山さんたる所以ゆえんだろうか。


 実際はただの雑用でも、守山さんに褒めてもらえると有頂天になれる。


 キャバクラに通っていた父さんの気持ち、今ならわかるよ。


「今日はありがとね、お疲れ様」


 じゃね、と手を上げて守山さんは立ち去る。


 行く先は同じというか、同じクラスなので帰ろうとすると必然的に一緒に行くことになってしまう。

 なのであえて、俺は教室に戻るのを遅らせた。

 理由は簡単、守山さんとできるだけ一緒にいるべきでないから。


 同じ委員会で同じシフトだから、一緒にいても普通だった。

 けどできる限り避けられて当然なやつが、俺なのである。


 そうだ、帰ったらめぐむに報告しよう。


 俺と守山さんのことがどうなったか気になっているだろうし。


 結論としては、俺の勘違いだった。


 とっくに守山さんは俺のことを吹っ切っていて。

 美化委員になったのは、ただ内申点のため。


 俺の人生において、最初で最後の浮いた話は、これにて幕引き。


 苦くも甘く寂しい、そんな結末エンディングになるのであった――。


 と思うじゃん。


 思ったんだよ。



* * *



 事は、五回目の美化委員の仕事で起きた。

 

 同じ美化委員になって、一ヶ月半が経とうとしていた頃だ。


 俺と守山さんは、クラスメイトとしての世間話をするようになっていた。


 まあ俺という人間の価値の低さを考えれば奇跡的なのだけれど。

 それでも、普通のクラスメイトっぽい関係を築いていた。


 美化委員の仕事があるときだけ、その関係を楽しむ。



「つまり異星人はすでに地球にやってきていて、アブダクションの上人体改造をし、ハーフを誕生させて銀河連邦条約に一歩前進していたんだ」


「形而上学的見地からその実在そのものに疑うつもりはないんだけど、それでも従来の高度社会性の保持があるように、包括的な対策には限界があるのよね」


「人間の脳の可能性についてはエーデライト博士の論文、『宇宙ヒモ理論と脳の神経系における超伝導』が新しいわけだが?」


「――あの、先輩に少しお話があるんですけれど」


 ゴミ捨て場から後ろを振り返れば、女子が二人、近くにきていた。

 校章の縁の色が橙なことから、どちらも一年生だ。

 一歩前に出ているのが話しかけてきた女子で、気が強そうな眼鏡女子。

 で、その後ろに半分隠れるようにして、気が弱そうな前髪パッツン気味女子。


 この二人が、いた。


「その前に何の話をしていたか、うかがってもいいでしょうか。およそ理解不能なお話をされていたように聞こえましたけど」


「その通り、理解不能な会話をしていた」


「はいぃ?」


 眼鏡女子が思い切り目をすがめる。

 いいぞ、その極悪そうな目つき。


 違うの、と守山さんが俺の説明に捕捉を入れにきた。


「あの、えっとね、まず、こっちの遠野くんが、『頭のいいっぽい話をしよう』っていかにも頭の悪いことを言い出してね」


「こっちの美少女な守山さんが『遠野くんにそんなことできるわけじゃない』とまあ嘲笑いながら言ったもんだから」


「ちょっと待って。そんな私底意地悪い感じだった?」


「事実を伝えやすくするために脚色を少々」


「どうしてそんな悪意ある脚色をするの?」



「いやいや、守山さんが俺のことを見下しているというごく自然な事柄をわかりやすく伝えないと……一年生に誤解させてはいけない」


「そっちのほうが誤解させると思うんですけど」


「あのー」


 と、気の強そうな眼鏡女子は挙手する。


「とりあえず目の前でいちゃつくのやめてもらいます? っていうか、私たちがどんな用で声をかけているのか察していただきたいんですが」



 どんな用、ね。


 まるでそっちの気の弱そうな前髪パッツンっ子が俺に告白したいけど一人じゃ怖いからこっちの気の強そうな眼鏡っ子が付き添いで来ているみたいなシチュエーションだ。


 いやいや、こんな頻繁に女子から告白されるなんてないから。


 俺ですよ?


 将来何か大きなことをやりそう(しでかしそう)ランキング一位の俺ですよ。


 まさかモテ期が来ていて、守山さん以外からも告白されそうになってるとか。


 ……ないわー。



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