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ALICE  作者: 三点さん
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第七話 束の間の戯れ

「ねぇアリスちゃん、この茨、何だかどんどん伸びてるような気がするんだけど、気のせいだよね?」

 あれからしばらくして、また次の世界に足を運んだ彼とアリス、そして、

「ようお二人さん、また会ったね?」

 それからも度々出会うになった『試す者』の生き残である、トモエ・レイズ・エルクレア――大剣の少女が後日教えてくれた彼女の名前だ――の三人。彼らは今日もまたとある街の道中で顔を合わせていた。そんな彼女はやはり何を考えているのか解らないような笑顔を彼らに向け、「お二人さんは今日も元気そうだね?」などと様子を窺ってきた。そんな彼女に対して、「トモエちゃんもね?」と、彼も彼で挨拶代わりに言ってみた。

「ところでトモエちゃん、今更だけど、キミって普段はどこで生活してるの?」

「どこだと思う?」

「いや、どこだと思うって逆に訊かれても、それを知りたいのは僕の方なんだけど……」

 言葉を続けようとした彼に、しかしトモエはそれを許さず、「まぁそんな細かい事はいいじゃないか」と言い、彼は「仕方ないな」と言って、「それで? 今日は何の用?」と質問した。すると、彼女は彼にこのような話題を持ち掛けてきた。

「ところでお二人さん? お前さん達は、この世界のどこかにいるといわれている、〈禁じられし人形劇〉という二つ名をもつ、やはりあたしと同じ『試す者』の一体である人形の存在を知ってるかい?」

「〈禁じられし人形劇〉? ううん、聞いた事ないけど。アリスちゃんはある?」

「いいえ、全く」

「だってさ?」

「そうかい……まぁいいさ。ところで、このあたしが今どこで寝泊まりしてるのかが気になるんだろ? ならそれは勿論教えてやるよ。その代わり、多分そう遠くはないと思うし、きっと、お前さんもお前さんですぐにああなるほどって思うはずぜ?」

「……」

 ――まさか、ね?

 何となく予想がつきそうだった彼は、しかし自分でも思った通りまさかそんなはずはないと思い、一先ず彼女について行ってみる事にした。

 そして彼の予想は見事に的中した。

「ここだよ」

「……やっぱりね?」

 そこは見間違うはずもないどこであろう彼らが利用している宿屋だった(ちなみにこの宿屋は三階建てで、トモエは一階の東部屋に泊まっているようだ)。

「ひょっとして、やっぱりお前さん達もかい?」

「そうだけど、それがどうかしたの?」

「いいや、別に? ただね、毎晩毎晩お前さん達の楽しそうな声が聴こえてくるもんだからさぁ、こいつはもう、流石のあたしでも手がこんなふうに……」

 左手が胸に、右手が腹部より更に下へもっていかれそうになった時点で彼は慌てて彼女を止め、「こんな場所で変な事しないでよ!」と強めに注意した。そんな彼に彼女は、「そう照れるなよ?」と言い、「お前さんもそういうのが好きなんだろ?」と言っていつかのように彼の頬に両手を添え、「別にあたしはお前さんなら今すぐにでも相手してやっていいんだよ?」と挑発してきた。それには流石の彼でも鼻を押さえた。

 ――少し出たかも。

 目の前には彼女の大きな胸の谷間があり、そのようなものを間近で見せられてしまっては、下手をすれば彼でも手を出してしまいかねない。

 ――いや、そんな事はまずないけどさ?

「トモエちゃん、悪いけどそういう事はやめて。僕はあくまでもアリスちゃん一筋で、尚且つそういう趣味は一切ないんだから」

「チッ、釣れないねぇ? そんなんじゃあいつまで経っても童貞のままだよ? ……っと、そうだね、確かお二人はもう既にやっちまってるんっだったよね? 忘れてたよ」

「……確かにその通りだね? 実際否定は一切出来ないし、僕達もあれから何かと親密な関係になってるし、だからちょっとだけは……ね?」

「そうなのかい? アリス」

「そうね」

「全く、こいつはとんだ収穫だよ。まさか冗談で言ったはずが実は本当に人間と人形が一線を越えちまってたとはねぇ? いくらあたし達《魔導人形》の身体が生身のものに近いからって、普通に考えてそんな常識外れなおこないが許されるのかい? 流石にそれにはこのあたしでも驚きだよ」

 散々な事を言われてしまった彼は、しかし言い返す事はしなかった。何故なら彼女が言っている事は最もだし、何より彼女はあの時自分達の為に命を賭けて共闘してくれた恩人でもある為、多少なりとも義理はあるからである。

 ――だから、少なくとも今は口を返すつもりはない。でもその代わり、

「ねぇトモエちゃん? お願いだから、絶対に僕達の事は他所には言わないでね?」

「解ってるよ。こう見えてあたしの口はどんなに錆びついたニッパーよりも固いんだ。だから安心しな」

「うん、ごめん、それどんな例え?」

「さぁね? 頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしただけだからあたしにも解らないや」

「……あっそ」

「で、けっきょくはどうするんだい? これからこのままあたしの部屋に来るのか、或いは今は一旦ここで別々の部屋に向かうのか。お前さんが選びな?」

 彼女にそう促され、彼は少々迷う素振りを見せ、「そうだね」と呟き、「それじゃあ、ちょっとだけ」と言って早速彼女の部屋へ訪問する事にした。

「決まりだね。それじゃあ今日の分の宿代の認証はあたし達三人分だから、まぁそうだね、じゃああたしが纏めて済ませてやるよ。お前さん達には以前何かと世話になってるからね……いや? むしろあたし達三人がそれぞれこの宿の住人だって解ったんだから、お前さんがそのつもりなら、今後もあたしが払ってやってもいいんだぜ?」

 どうする? そう問い掛けられた彼は、流石にこればかりは申し訳ないと思い、「そこまでしなくていいよ」と言って断り、しかしそれでも、せっかくの心遣いだしなとも思い、「その気持ちはありがたいから、じゃあお言葉に甘えて、今日の分だけお願いするよ」と言った。

「遠慮しなくていいのによ?」

 そう言って彼女は軽く拗ねた様な表情をつくり、「まぁ別に、お前さんがそれでいいんならいいんだけどさ?」と言った。

「んじゃ、行くえ?」

「そうだね」

「そうね」

 そして宿屋に入った彼らは、宿代の紋章認証をトモエに済ませて貰い、彼女の部屋へと招かれ、彼はそこで少しばかり驚愕する事になる。それは、

「ひょっとしてこれ、全部キミのなの?」

 そこにあったのは沢山の書物が収められたいくつもの本棚だった。それもその全てが頭が痛くなりそうな題名の作品ばかりで、彼はその中の一冊を手に取り、始めの数ページを斜め読みし、こう思った。

 ――ごめん、これ何語?

 先程トモエにも同じような質問及び疑問を投げ掛けたが、しかしこれらの本にこそこの疑問を持つのが相応しいと彼は思った。

 ――少なくとも、僕のこの腐りきった頭に対してはあまりにも情報量が多すぎるよね?

 そう思った彼は諦めてその本を元のスペースに戻し、「ところで」と前置きし、もう一度彼女の利用する室内を見回して、「キミはいつからここで生活しているの?」と、先程の質問を形を変えて訊ね直した。

「そうだねぇ、確かお前さんと出会う一ヶ月くらい前、だったかな?」

「そう」

 一ヶ月前といえば、その頃は丁度この世界に来た時で、レイと初めて戦闘をおこなった月でもある。

 ――この子も自由に異世界に行けるんだね?

「しっかし本当に奇遇だねぇ? まさかお前さん達まであたしと同じ宿で寝泊まりしてたなんて。それなら今後は毎晩美味い酒が飲めそうだよ」

「ごめんトモエちゃん、僕まだ未成年だから、お酒は飲めないんだ」

「そうなのかい? 何だよつまんないねぇ? それじゃあアリス、お前さんはどうだい?」

「私も遠慮しておく」

「お前さんもかい? 何なんだよ、本っ当につまんないねぇ」

「ごめんね?」

 本当だよ。そんなふうに半ば怒ったような口調で彼にそう言って、「それにしても」と呟いた。

「お前さん達と出会ってまだ日は浅いけど、これから先、あたし達は一体どうなっちまうんだろうね?」

 まぶしい太陽の日差しが差し込む窓の外を眺めながら、トモエはそんな事を口にした。それはどこか不安がっているような、それでいて何かを諦めているかのような、或いは……、

「ねぇトモエちゃん?」

「何だい?」

「キミが不安な気持ちは僕にもよく解るよ? だからこそ、僕はキミ達の力を貸して欲しいし、勿論キミ達がそのつもりなら僕達が力を貸してあげる。だから一人で抱え込む必要なんてないからね?」

 だから何でも相談してよ? そう言ってトモエに微笑みかけ、彼は左手を彼女に差し出し、「これからもよろしくね?」と握手を求めた。

「チッ、格好つけやがって。この色男が」

 口ではそう言いつつ、しかしトモエもトモエで右手を差し出し、「期待してるぜ? 勇者君?」と言って互いに手を取り合った。その様子を彼らの傍で窺っていたアリスが、「私の事、忘れないでね?」と注意をした。

「わ、忘れてなんかないよ。ねぇトモエちゃん?」

「そうだね、ああそうだ、わすれちゃいないよ? 安心しておくれ?」

 わざとらしい物言いで言いながら、にやにやと下品な笑みを浮かべている。彼は彼女に対して内心で、「これがなければいいのに」と思いながら、「キミって本当に自由だよね?」と言ってやった。するとトモエは、「そいつはいい誉め言葉だね?」と言って、「だが」と真面目な表情になり、

「あたしにとっちゃあ自由なんざあろうがなかろうが別にどうでもいいんだよ」

 いきなり彼の首を鷲掴みにし、「あたしだってその気になりゃ目障りな奴は殺せるんだぜ?」と言った。

「き、急にどうしたのさ?」

 けほけほと咳込みながら、彼はトモエにそう質問し、彼女を睨みつけた。

「お前さん、ヘレンって人形と対峙したんだろ?」

「そうだけど、それがどうかしたの?」

「そいつがお前さんを殺す為に更なる《コープス》を生み出したらしい。それも幾体もの生身の肉体を用いてな?」

 トモエの表情はいつにも増して本気で、一切冗談を言っているようには見えない。

「それで、僕にどうしろって言うの?」

「そいつらがいつあたし達の前に現れるか解らない。だから、絶対に油断はするな。と、あたしは言いたかったって訳だ」

 解ったな? 最後にそう言って、「まぁそういう訳だからさ?」と、再び笑顔を取り戻した彼女は、「んじゃあ丁度昼だし、飯でも食いに行くか」と言った。

「そうだね。じゃあ僕は何にしようかな?」

 そんな他愛もない会話を交えながら、彼は心の片隅でこう思った。

 ――どんなにキミが僕を殺そうとしても、絶対に僕は負けない。

 誰が相手でも、何度でも返り討ちにする。そして絶対に、僕は元の世界に戻る。

 改めてそう誓って、

「それじゃあ行こうか」

 三人で宿を後にした……。

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