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初めての授業 

ケンジェル視点です。

 学校に入って、はじめての授業だ。一時間目は英語だった。先生は挨拶から英語をしゃべっているのだろう。俺には何を言っているのかさっぱりわからない。昨日、千恵に付け焼刃で「あるふぁべっと」という文字を習ったが、まだ全部読めないし書けない。Aは判る。俺のクラスの名前だからな。クラスがA組だと聞いて嬉しかった。D級の冒険者になったばかりだった俺には、何階級もクラスが上がった感じがした。「あるふぁべっと」もAからFまでとSは判る。冒険者ギルドでクラス分けにその文字を使っていたからだ。けれど他にもあんなにたくさんの文字があったとは知らなかった。Xなんて「ぺけ」だと思っていたら「エックス」と読むらしい。Zも「ゼット」と読んだり「ズィー」と読んだりすると言っていた。どうして二通りもの読み方があるのだろう?


先生が言っていることがわからないので、俺は大人しく千恵に持たされた「小学生の英語ドリル」のアルファベット表を書いては覚えていくことにする。俺がドリルをしていると急に教室がシンとなったので顔を上げると、皆が俺の方を向いていた。千恵が先生に向かって手を挙げて、「先生、ケンジェルに英語の挨拶は無理です。」と言う。挨拶ならできるぞ! 前に千恵に教えてもらった。俺は先生の方を向いて大きな声ではっきりと言った。

「その言葉わかりませーん。ワタシ、バラゲディ人。ニホンゴ少しだけワカルね。」


やったぜ。俺は満足してにっこりと笑う。すごい、俺って学校の生徒みたいだっ。俺が答えると教室中がわっと湧いた。中には「サイコー。」と言って笑っている奴もいる。良かった、ちゃんと覚えてて。

先生は俺の答えに満足したのか、わからない言葉での授業に戻っていった。



二時間目は数学だった。俺は千恵に算数を習っている。「繰り下がりの引き算」が難しかったが、「10になぁれ」という裏技をマスターしてからは引き算も足し算も楽にできるようになった。1と9、2と8、3と7、4と6、5と5というあれである。数字を頭の中で組み合わせたりバラしたりするのは面白い。今は九九を覚えている。長い呪文のような言葉だ。高校での授業中に九九を唱えることは出来ないので、九九の表を参考にしながら「百マス計算」というものをやっている。これをやるのは集中力が必要だ。しかし俺は魔法を使うことに慣れているので集中するのはお手のものだ。俺の右隣には千恵が座っているのだが、左隣に座っていた女が、俺がものすごいスピードで百マス計算をやっているのを見て目を見張っていた。


数学は俺たちのクラス担任の神谷先生だったので、授業の終わりに伝達事項があった。

「午後のオリエンテーションは、教室で自己紹介をした後で学校設備を見て回る。最後に体育館で部活の勧誘説明会がある。各種委員は、一学期のクラス委員だけはこちらで指名して、後はくじ引きをするのでそのつもりで。」と言われた。「部活」とか「委員」って何だろう。後で千恵に聞くことにしよう。



三時間目は国語だった。昨日、千恵と一緒に漢字にひらがなをうったので、この授業は初めて教科書を使えた。きれいな紙に色とりどりの絵が付いている。中には字がぎっしり詰まっている。どの字も綺麗に揃って並んでいる。字の上手な人が写本したのではなくて、印刷という技術で書かれているらしい。教科書を開くと、最初に本屋に行った時に嗅いだようなインクのいい香りがした。



国語の先生は文章を生徒に読ませながら、解説をしていく。俺も短い所を読むのが当たった。千恵が先生に訴えようとしたけれど、俺も出来ることは自分でやりたい。千恵を制して教科書を読む。俺が日本語を読んだので、みんなびっくりしていた。昨日の予習とかいうやつの成果がでたな。


四時間目はまた英語だった。どうしていっぺんに授業をしないのだろうと思っていたが、今度の先生はずっと日本語を喋っていた。そして黒い板一杯にのたくったような字で英語というものを書く。一時間目の英語がリーダーで四時間目がコンポというらしい。国語にもリーダーとコンポがあるのだろうか?

まだ漢字が上手く書けないので、コンポがあるまでに練習しなければならない。




◇◇◇




 腹が減ったなーと思っていたら、メシの時間だそうだ。助かった。

文子と千恵が二人がかりで作ってくれた大きな弁当箱を机に出す。シンスケが「みんなで食べよう。」と言って、机をくっつけだした。千恵の友達のシンスケとミチヨ、それに昨日言っていた席の近いツツイサヨ子とタケチヨシトを誘って、俺と千恵を加えた六人で弁当を食べることになった。

こんな風に男と女が混合で食べている奴らはいない。同性同士か、一人で食べているものがほとんどだ。

シンスケの押しは半端ないな。一人で食べると言っていたヨシトを強引に巻き込んでいる。


女同士は弁当の中身についてなにやら喋りながら食べていたが、男三人は腹が減っているのでまずは黙々と弁当を平らげる。弁当が半分ぐらいになってやっとシンスケが口を開いた。

「なぁ、午後に部活紹介があるだろ。俺、高校でも柔道をやるつもりなんだけど、二人とも一緒にやらないか?」

「やらない。」

ヨシトが即答する。

「なんだよ。他に何かやるつもりでいるの?」

「・・ああ、僕は剣道部か新聞部に入ろうと思ってる。」

「新聞部って何?家に来る新聞を作ってるの?」

俺がヨシトに聞くと、ギョッとした顔をされた。

「ケンジ?ケンジェル? お前、何者なわけ? 英語が喋れないのに日本語がペラペラなんて・・・。」

「ケンジェル、家に届くのはプロが作ってるんだよ。ヨシトが言ったのは、学校の中で読まれる学校新聞を作る部のこと。ヨシト、その疑問に答えるから放課後に時間を作ってよ。ちょっと訳ありなんだ。」

ヨシトは俺とシンスケの顔を交互に見ていたが、興味に負けたのか「わかった。」と短く言って話を終わらせた。


「部」というものには「入る」ものらしい。風呂に「入る」のとは違いそうだから、冒険者ギルドのようなものに入会するということなのだろうか。それだったら、俺は剣道部に入りたいな。孝志の弟子になってみて思ったけれど、俺たちが振り回す剣と剣道の剣ではだいぶ違うようだ。「礼」に始まり「礼」で終わる日本という国の剣道は興味深い。今、家の道場で「すり足」を習っているが、裸足の足の裏で感じる気配や気迫が面白くてたまらない。「ケンジェルは魔法が使えるから、そういうものに敏感なんだろうな・・。」と孝志に褒めてもらったのが嬉しかった。俺も修練して孝志のような凛とした気迫と優しさを持つ人になりたい。かっこいいもんなー。


放課後、昼食のときの六人でまた集まって誰もいない教室で話をする。

千恵と俺でまた昨日と同じ説明をした。

サヨコはまん丸とした目で俺を見ているし、ヨシトはイスの背にもたれかかって懐疑的な目で皆を眺めている。これはまた魔法を見せないとわかってもらえないようだ。

光魔法で手のひらに明かりを灯すと、ヨシトに手を掴まれてマジマジと観察された。

「他の魔法も見せてくれ。」

と言われたので、千恵が掃除用具入れからバケツを持って来た。水魔法でバケツに水を入れる。

「うおーー、何だこりゃ。こんなことも出来るのか?!」

これにはシンスケとミチヨも喜んだ。そう言えば二人には光魔法しか見せてないね。

ヨシトは冷静に「他にもできるのか?」と聞く。

こうなりゃ全部やるしかない。

風魔法で皆に強風を送る。女の子のスカートがめくれ上がって、キャーキャー騒がれたがこれは不可抗力だ。・・ちょっといい眺めだった。

火魔法は火事にならないように力を押さえて人差し指に火を灯した。

そして最後に闇魔法で姿を消す。俺が一瞬で座っていたイスからいなくなったので、皆がどよめいた。

千恵が「ケンジェル! どこに行ったの? 異世界に帰っちゃったの?!」と心配し始めたので、少し離れた所に姿現しをした。


「おい、これだけ見せられりゃケンジェルと千恵の言っていることが本当だとわかるだろ。俺は小さい時から千恵を知ってるから、言っていることは直ぐに信用したけどさ。まさかここまでとはなぁ。」

「そうね。嘘みたいな話だけど現実なのよねー。」

シンスケとミチヨも感心している。

「私っ、ケンジェルくんの力になります。」

手を前で組み合わせてうるうるとした瞳でサヨ子に決意表明をされた。この子キュラスみたいだ。キュラスという小っちゃくて可愛い魔獣がいるのたが、よく似ている。高い声でキュルキュル喋る所もそっくりだ。


「僕はこんな話を信じたくない。愛する物理理論を根底から覆してくれたんだからなっ。だけどだけど目の前にあるんじゃ、信じないわけにいかないのか・・・ったく、・・・協力はするが暫く僕にかまわないでくれ。大学で物理を専攻しようと思ってた夢が目の前で音を立てて崩れ落ちたんだぞっ!」

ヨシトはブツブツ言いながら帰って行った。

なんか意味はよく分からないが、気の毒なことをした。




◇◇◇




 帰り道に千恵に「今日はどうだった?」と聞かれたので、「面白かった。」と答えた。国語にコンポがある前に漢字をもっと覚えたいと言うと、国語にコンポはないけれど作文というものがあると言われた。「作文は秋までの目標ね。もうすぐ一年生の常用漢字八十字が済むから、二年生の百六十字に挑戦しましょう。」と言われたのは嬉しかった。階級が上がって、より強い魔獣に挑戦できるようになった時と同じ高揚感を感じる。やるっ、俺はやるぞっ!


「英語のあの挨拶は不味かったわね。帰って正しい挨拶を教えてあげる。」

「えっ、あの挨拶はダメだったのか?」

俺はうまくできたと思っていたのだが・・。よく聞くと、あれは学校では使わないほうがいいらしい。外を歩いている時に知らない人に声を掛けられた時に使うように言われた。


「委員」というのは、人のお世話をするのが役目だそうだ。うちのクラス委員は千恵とヨシトがなった。シンスケとサヨ子が体育委員で、ミチヨは図書委員だ。サヨ子は「体育は苦手だからどうしよう。」と不安そうだったが、シンスケが「俺に任せとけっ。」と頼りになるところを見せていた。俺は最初からクジを引かせてもらえなかった。この国に慣れたら俺も人の世話がしたいな。


「部活」の説明会は、ジョンがよく見ているテレビのお笑い番組と似ていた。

ウケるかウケないかが死活問題になるらしい。先輩たちはみんな必死だった。俺はヨシトを誘って剣道部に入ろうと思う。可愛いマネージャーも募集しているそうなので、千恵はどうだろうか? マネージャーというのも委員と同じで部員の世話をする人らしい。千恵にぴったりではないだろうか・・。可愛いし・・・。



ニヤニヤとそんなことを考えていると、千恵に気持ち悪いと言われた。

ガーーーン。

シンスケは凄いよな、この千恵の毒舌にすぐさま切り返して反論出来るんだから・・。

俺にはもっと修行が必要だ。





いつも前向きなケンジェル。がっ頑張れ、義人。これからこの義人君がケンジェルの騒動に巻き込まれていく予感が・・・。

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