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家族会議

話し合いが始まるようです。

 少年の父親はしばらく難しい顔をして考え込んでいたが、「よっし。」と一言発すると、傍らにいた息子に声を掛けた。

「これは、家で引き取るしかないな。健一、ケンジェルさんが今話した身の上をお母さんとお姉さんに説明して、それからここに連れて来なさい。家族会議をする。」


健一少年が奥にある扉から出て行くと、男性が俺の方に向き直って姿勢を正した。俺も慌てて背筋を伸ばす。

「ケンジェルさん、私達は今特殊な状況に置かれたようだ。君は、いつ元いた場所に帰れるかわからない。それは、これからすぐかもしれないが、ずっと帰れないこともありうる。とすると、この世界での君の居場所をつくる必要が出て来る。私は、ご縁があったと思って君を家で引き受けることにした。それに異存はないかい?」

「異存ですって? とんでもない。ここにおいてもらえるのなら、何でもします。」

ここが異なる世界であるのなら、持っている金も通用しないしここの常識もわからない。俺が頼りに出来るのは自分の魔法だけだ。しかし、先程この親子に光魔法を見せた時の様子から、魔法はあまり日常ではないことが伺えた。ここで生活しながら、「異世界召喚」を待った方がいいのではないだろうか。アール・ピー・ジーさんとやらからお呼びがかかるかもしれない。


「君が同意するなら、これから家族にもその方向で話を進める。改めて自己紹介するよ。私は橘孝志(たちばなたかし)、四十三歳、家具職人だ。ここの道場で剣道の師範もしている。うちは四人家族で、私の両親はもう亡くなったが、隣に私の妻の実家がある。君は何歳になるんだい? ご家族はさぞ心配されているだろうね。」

「いえ、俺に家族はいません。父親はずいぶん前に死にましたし母親は最初からいませんでした。物心ついた時には、飲んだくれの親父と貧しい村で暮らしていたんです。親父には魔法の適正はなかったので、一度も会ったことのない俺の母親というのが魔法使いだったのかもしれません。俺は魔法の適性があったおかげで、冒険者になれたんです。何歳かというのは親父に教えられたことがなかったのでわかりませんが、冒険者に登録した時に受付のお姉さんに言われて、登録用紙に十二歳と書きました。もう三年はこの仕事をしてるので、今は十五歳といったところでしょうか。」

「十五歳か、うちの娘と同い年だね。そうか、苦労したんだね。学校は? 勉強をしたことがあるかい?」

「いえ、そんな高尚なものはうちの村にありませんでしたから。日常生活に使う簡単な読み書きは、馬車屋のおやじに教わりました。小さい頃にそこで魔法を使って働いて飯を恵んでもらってたので・・。」

「・・・そうか。君には言いにくいんだが、君がたぶん唯一の頼りにしてきた魔法が、この世界では使えないんだ。いや、そう不安な顔をするな。家では使ってもいい。でも、この世界の他の人たちの前では使わないほうがいい。大騒ぎになるからね。この世界には君がさっき見せてくれたような魔法はないんだよ。」


驚愕した。そして絶望した。魔法を使わずにどうやって生きていくんだ?ここの人たちは、どうやって生きているのだろう。魔法使いがいないといろいろと不便だろうに・・。


俺が驚いている時に、奥の扉から人が三人入って来た。この人の奥さんも娘さんも黒い髪をしている。二人とも俺のことを興味深そうにじろじろ見ている。女とはあまり接する機会がないので、どういう態度をとっていいかわからない。お世話になる身なので、軽く頭を下げておく。


「こんばんは、ケンジェルさん。うちの人のことだから、この家で暮らすことになったんでしょうね。ただ、失礼でしょうけど私達にも二人に見せた魔法を見せてもらえるかしら。健一の話だけでは納得できないのよ。」

(ふみ)ちゃん。」

「だって(たか)ちゃん、聞いただけでそんな途方もない話を信じられる?」

「いいですよ。何がいいですか?」

俺はそう女の人に訪ねたが、ケンイチくんが即座に反応した。

「えっ、他の魔法もできるの?すっげーー!光魔法と、そう言えば火魔法ができるって言ってたねっ。もしかして水魔法ってできる?」

「ああ、出来る。」

俺がそう言うと、今度はタカシさんが立ち上がった。

「バケツがいるな。取って来るっ。」

走って行く背中が楽しそうだ。この親子はよく似ている。

「もう、孝ちゃんはいつまでも変わらないんだから。ケンジェルさん、私はあの孝志の妻で文子(ふみこ)と言います。よろしくね。」

フミコさんが目を向けたので、黙って側に立っていた娘さんが俺の正面に座って口を開いた。

「私は、橘千恵(たちばなちえ)。十五歳よ。この春から嬉野(うれしの)高校に入学するの。」

「僕はね、橘健一。いま十一歳。僕は春から小六なんだ。」

「健一、あんたまだ自己紹介してなかったの?」

「それどころじゃなかったんだよ。」

「まあ、話が本当ならそうなんだろうけど・・・ドッキリとかじゃあないですよね。」

娘さんのチエさんにそう尋ねられる。どういう意味だろう?

「ドッキリというのが、どういう意味なのか・・。驚いてずっとドキドキとはしているけど・・・。」

「この話し方を聞くと、本当の話かもね。こんな金髪で青い目の外人さんがここまで自然に日本語を話せているのがおかしいわ。テレビの外タレでもこんなに流暢にはしゃべれないもの。」

フミコさんたちの話の中には所々わからない言葉が混じる。

本当にここは異なる世界、異世界なんだな。

俺が異国にいる感慨にふけっていると、タカシさんが大きな入れ物を持って帰って来た。


 見た事のない材料でできたバケツというものに、水魔法で水を入れる。たっぷりと満杯にしよう。水汲みは重労働だ。ここにおいてもらえるお返しに、せめてもの恩返しだ。

「すっげーー。どっから出て来るんだろうこの水。」

男二人は感心して俺の手のひらを見つめている。

「あっ、ケンジェルさんもう止めて!わかった。わかったから。」

まだ中ほどまでしか水を入れていないのに、フミコさんに止められてしまった。

「いいんですか? 一杯にしたほうが・・。」

「いいの。後で運ぶのが面倒だから。・・どうやら、貴方たちの話は本当のようね。本当だとすると・・対策会議が必要ね。」

「文ちゃんにわかってもらえて嬉しいよ。彼は向こうの世界に身寄りがないらしい。ここで魔法で身を立てるわけにはいかないから、僕の仕事を手伝ってもらおうかと思ってるんだけど。」

「・・・ううん、そうね。孝ちゃんの考えはわかる。でもまだ学生の年頃でしょう。近所の人がどう言うか。下手に騒ぎ立てられて目立っちゃうと返ってヤバくない?」

「留学生ってことにしたら?」

「千恵、ナイス。そうなると高原のおじいちゃんに相談だね。」

「今日はもう遅いから、明日だよ。」

「そうだね。ケンジェルさんも疲れてるだろうし。じゃあ明日、隣のおじいちゃんたちも一緒に対策会議をしよう。私も昼からのパートの日だから、午前中、そうねぇ十時にリビングに集合。ケンジェルさんは、今日は客間に寝てもらうわ。ベッドじゃないけど、今日は我慢してね。」


女二人の連携で、あれよあれよという間に予定が決まってしまった。

この世界では、女が主導権を握っているのだろうか?


この後、俺は風呂というものに入れと言われ、なみなみとお湯が湛えられた入れ物に驚愕し、着せられたパジャマと呼ばれる服の着心地に驚き、寝具のやわらかさに溜息をついた。どうして、これがベッドじゃなくてごめんね。なのだろう。そして腰を抜かすぐらい驚いたのが、トイレと呼ばれる部屋だ。ここで寝てもいいと思ったぐらいだったのに、なんとそこはションベンをする部屋だった。そして、水魔法が勝手に作動してションベンを流していくのだ。ケンイチに誰か魔法使いを雇っているのかと聞いて笑われた。

仕組みを説明されてもよくわからなかったが、こんなに簡単に水が出て来る装置があるのだ。フミコさんが、俺の水魔法をありがたがらないわけだ。


俺はかつて使ったことも無いふわふわした寝具の下で、異世界の天井を眺めていた。板を何枚も重ねて装飾的に組み合わせてある。こんなに薄く板を切って組み合わせられる職人を俺は知らない。タカシさんは家具職人だと言っていた。こんな家に住んでいるタカシさんの手伝いが俺にできるのだろうか・・。

そんな不安をつらつらと考えながら、疲れていた俺は睡魔に負けていつの間にか寝入っていた。



なにかいろいろ勘違いが入っているケンジェル。

ひとまず、ゆっくりおやすみなさい。

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