旅立ち
ゴールデンウィーク後半の旅行です。
旅と言うのは、辛くてくたびれるものだと思っていた。
車に乗って旅をするのはなんて快適なんだろう。高速と言う道は、本当に速く車を走らせることができる。途中には飯や飲み物を売ったり、トイレもあるサービスエリアと言う場所がある。なんともサービス満点だ。俺はジョンと一緒にサービスエリアの庭のような散歩コースを歩いていた。そこには他にも犬が散歩している。孝志たちはまだ昼飯を食べているので、ジョンと話をするのは今しかない。
なるべく人の少ない所へ行って、ジョンと話をする。
「ジョン、俺この間手の先から消えかけたんだ。」
「ああ、健一が言ってたな。孝志と文子も心配してたぞ。」
そうか、心配されてたか。悪いと思う気持ちの中に、自分を心配してくれる人間がいるということが嬉しくなってくる。
「強く願えば元の世界に帰れるかもしれない。・・・でもなぁ、そうまでして帰りたいのかと思ってしまうんだ。」
「そうだろうな。・・こっちの世界の方がケンジェルには合っているんじゃないか?あっちには知り合いも親戚もいないんだろう。」
「うん。たまに懐かしくはなるんだが、どうしても帰りたいと強く願うほどでもないんだ。」
「なら、こっちの世界でやっていこうと腹をくくることだな。・・・実はな、俺も最近おかしいんだ。犬の感覚が強くなる時が多くなってる。」
「えっ、それってどういうことだ?」
「他の犬の匂いが気になるし、あちこちにションベンをかけたくなるんだ。このまま、この犬に同化しちまうのかもな。」
・・・ジョンがいなくなるなんて考えてもみなかった。急に不安になって来る。
「そんな顔をするな。ケンジェル、人には別れもあれば出会いもある。生と死、それを繰り返して歴史が出来ていくのさ。俺はあっちで高熱を出して意識を失った時にたぶん死んだんだ。今こうやってお前たちと生活してるのは、神様がくれた余暇みたいなもんさ。お前も、なにかこっちの世界で成し遂げなきゃならないことがあるから、こっちに呼ばれたんじゃないか?なら、その何かをこの世界で見つけて成し遂げてみろよ。俺が言えるのはそれだけだ。」
ジョンにそう言われて、俺も覚悟が出来た。孝志達にも世話になった。千恵と約束した恩返しもしなきゃいけないな。
「わかった。俺も腹を決めるっ。」
俺が力を入れてそう宣言すると、俺の身体が五色の光で輝きだした。
「ママッ、あのお兄ちゃん光ってるよっ!」
散歩コースに入ってこようとしていた男の子が大声を上げている。
「「ケンジェル!!」」
俺を迎えに来ようとしていたのだろう、遠くで健一と千恵が叫ぶ声も聞こえた。
俺の耳の中では音が膜を隔てたように間遠に響いて聞こえる。
光は俺の身体の中を縦横無尽に走り回り、頭の中にキーンと高音のビブラートが響いたかと思うと、螺旋のようになって俺の頭のてっぺんから一気に天に昇って行く感じがした。
光に置いて行かれた俺は、その場に糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
「ケンジェル!しっかりしてっ。」
「いや、行っちゃ嫌!」
二人は狂ったように俺をゆすっている。
「まっ、待て、痛い。・・・健一、肩を掴むな。千恵、俺はここにいるから。お前のそばにずっといるから。」
「ケンジェル・・・その髪の毛・・・。」
「えっ、どういうことなの?!」
二人が俺の頭を見てひどく驚いている。
「どうかしたのか?」
「ケンジェルの髪の毛が黒くなってるんだ。目っ、目は?」
健一に目の中を覗き込まれた。
「目は、青いままだね。なにこれ、なにこれーーーっ。」
千恵は震えながら目をウルウルさせている。
「俺にもどういうことかわからん。ジョンと話をしていて、この世界にいると腹を決めた途端におかしな光が俺の身体を走り回り始めたんだ。ジョンは?ジョンは大丈夫だったのか?」
ジョンが走り寄って来て、俺の顔をぺろぺろ舐めた。
「クゥ~ン、ワッワンワン。」
「・・・・・ジョン。」
俺はジョンを抱きしめて声を殺して泣いた。
あれからジョンは人の言葉を喋らなくなった。たまに俺の顔を見て何か言いたそうにはしているが、声に出すことは出来ないようだ。
そして俺は・・・魔法が使えなくなった。
集中すれば手のひらが少し光ることはあるが、その光は魔法に適性のない者の使うただの陽炎にすぎない。
魔法なしでこの世界の真の住人になれということなんだな。と俺は解釈している。
魔法に匹敵するこの世界で生き抜くためのツールは、地味なようだが知識や技術だ。俺はあの旅に出た日から、今までよりもっと真剣に勉強に力を入れるようになった。
今では高校の勉強に参加できるまでになっている。これは辛抱強く教えてくれた千恵のお陰だし、勉強方法などを工夫して導いていてくれた義人のお陰だ。友達とのやり取りは慎介が、買い物のし方は美千代が、そしてゲームは小夜子が教えてくれた。俺は初めてアール・ピー・ジーの意味を知った。ロール・プレイング・ゲーム、俺の得意なゲームだ。なんせ実地でやってきた経験があるからな。
来年は只野生徒会長から武知義人生徒会長になるようだ。俺は副会長を頼まれている。
部活では、義人と斗真が選手に選ばれるようになってきた。純と俺も小野先生に褒められることが多くなってきた。来年はお前たちも試合に出すぞっ。と言ってもらっている。
俺は、なんとかこの世界に足跡を残したいと日々念じている。
そうして俺がここにいる意義を見出したいと思っている。
存在すべきものとして、この世界に生きるものとして
by 長岡更紗さん
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




