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球技大会

球技というのは楽しいものです。

 新しいクラスメイトとの親睦を深めるために球技大会をするらしい。

体育委員の慎介と小夜子がクラスの皆の前で、どの競技に参加するのか皆に聞いている。どの競技と言われても玉を使う遊びはしたことが無いので、それがどういうものだかさっぱりわからない。


「ケンジェルには無難なものがいいわよね。ルールが解りやすいものって何かしら。」千恵が義人に相談している。「バレーかバスケだな。どっちかというとバレーの方がルールを覚えやすいんじゃないか?」

ということで、俺はバレーに出ることが決定したみたいだ。義人は「僕はバスケの方が得意だけど、ケンジェルに付き合ってバレーにするよ。」と言ってくれている。慎介が体育委員で忙しいので、義人が俺の守りをするようだ。別に一人でも大丈夫と思うんだが・・・。誰かが「背の高いのが二人ともバレーに取られるとバスケが不利じゃないか?」と言っていたが、小夜子がさっさと俺と義人の名前を黒板に書いてしまった。


球技大会は、ゴールデンウィークという景気のいい週に入る前に行われるそうだ。

その大会で良い成績を獲る為に、昼休みに三日続けてクラスの練習があった。線で囲った四角い場所の中に、誰にも取られないようにボールを放り込めばいいと言われたので、ボールを手で持って投げ入れたら、それは駄目だと言われた。サーブといって、片手で放り上げた玉をもう片方の手で叩いて入れるらしい。めんどくさいことをするもんだ。邪魔なアミが真ん中に張ってあるので、山なりのゆるい球じゃないと狙った場所に入らない。そんなへっぽこ球だとレシーブと言ってすぐに相手に拾われてしまう。「ボールを高く上げて飛び上がって叩いたらいけないのか?」と義人に聞いたら、「それはアタックサーブと言って許されるが、難しいから誰でも出来ないんだ。」と言われた。ん? そんなに難しいかな?

俺がそのアタックサーブとやらをやってみたら、皆に驚かれた。審判をやっていたバレー部のクラスメイトに「うちの部に入ってくれ。」と言われたが、俺は剣道部だからなぁ・・。


「三人で三回叩いて返す。前の三人がアタックしていい。後ろからアタックする時は真ん中の線から前に出ちゃダメ。網に触ったらダメ。サーブの時は線の後ろからする。」俺が剣道部の部室に向かって歩きながら義人に言われたことをブツブツ言っていると、俺の肩に二人の男が両側から手を回してきた。「何言ってるの?ケンジェル。」「球技大会だろ。バレーにでも出るのか?」剣道部の仲間、純と斗真だった。「おうっ。お察しの通りさ。ルールというのがめんどくさいんだ。たくさんあって覚えられないよ。」


「ケンジェルにとっては、初めてのものばかりだから、大変だよね。でも、剣道はすぐに覚えたじゃん。僕は竹刀を握る時に力を入れ過ぎちゃうし、蹲踞(そんきょ)をすると猫背になってグラつくし、素振りをしててもいっつも剣先、剣先って注意されるもんなぁ。」純がグチを漏らす。どうしても俺と純は初心者同士で比べられてしまうが、俺は魔法の補助とはいえ日常的に剣を振り回していた人間だ。バランスのとり方や戦いの時の剣の握り方などは慣れている。「でも、純は初心者が一番難しいと思う足さばきを早くマスターしたじゃないか。前に重心をかけるのが上手いよ。足の裏の皮が剥けてもテーピングに慣れてるしね。」斗真がフォローする。「ケンジェルなんか、裸足でも足の皮も剥けないよ。」「俺は子どもの頃から靴なんか買ってもらえなかったからな。裸足で毎日何十キロも歩いてたんだ。足の裏は厚いさ。」俺がそう言うと純がハッとして「・・・ケンジェル、ごめん。」としょぼくれる。


「別に謝るようなことじゃない。人間、置かれている状況の中でやっていくしかないのさ。俺もこの世界に飛ばされていろいろあるけど、毎日が楽しいと思えばなんでも楽しめる。愚痴なんか言ってたって、何も楽しいことないぞっ。やらなきゃいけないことは、やるしかないのさ。」

「・・・確かに。僕は自分で望んで剣道部に入ったんだもんな。気が緩んできてたんだな。気って、剣道では一番大切なことなのにな。」

純は俺の肩に置いていた手を外して、背筋を伸ばすと立礼をした。そうして顔を上げると俺と斗真を見てニッと笑った。

「先輩方っ、今日は僕が多めに雑巾がけをさせて頂きますっ。」

と言ったかと思うと、身をひるがえして駆けて行った。


「純がいると部活が楽しくていいな。」

「斗真は楽しくない部活を知ってるのか?」

「・・・ん。中学の時にはいろいろとね。僕の方が先輩より先に試合に出させてもらったりした時があったから、人間関係でいろいろめんどくさかったのさ。」

「は? 強いものが戦うのも、ランクが上がるのも当然じゃん。」

「ハハハッ。・・・そうだね。物事はケンジェルのように単純に見なくっちゃね。・・ところで強いと言えば我らがホープ、義人はどうしたのさ。」

「クラス委員の集まりがあるんだって。」

「そうか新入生代表だもんな。当然、クラス委員になってるよね。あいつに出来ないものはないんじゃないの?」

「俺のお守りが出来ないって言ってたよ。」

俺がそう言うと、斗真に爆笑された。




◇◇◇




 球技大会の日が来た。

今日は授業がないので登校する時から体操服だ。千恵の体操着姿はとてもいい。特にジャージの上着の下の白い半袖Tシャツがいい。歩くたびに振動で胸が揺れている。じっと見ていると千恵に睨まれる。こういうものは見て見ぬ振りをするのがジェントルマンだという。ジェントルマンというのは可笑しな男だ。見たいものを見ることのどこが悪いのかよくわからない。


千恵はテニスに出るので、運動場の向こうにあるテニス場へ行ってしまった。俺はしぶしぶ第一体育館に行く。体育館シューズに履き替えて入り口にかかっていた玉止めの緑色の網をくぐると、「ケンジェル、こっちこっち。」と大声で呼ばれた。慎介がバレーボールに出場するクラスの皆と二階の観覧席に立っていた。近くにいた人間を捕まえて二階に登る方法を聞いて、俺は皆のところへ急いで行った。


「遅いよ、ケンジェル。お前んち近いのに最後ってどうなの。」

「ごめんごめん。朝飯が旨かったから食いすぎた。」

皆が一斉に笑う。

「じゃあその旨い飯をエネルギーにして勝ちにいってよっ。今日の一回戦は二年D組なんだ。あそこのAコートの二番目になってるからね。頼むよ。僕は卓球を応援した後でこっちに戻って来るからね。」慎介は皆を激励した後で、第二体育館の方へ走って行った。体育委員は忙しいようである。


「オッス、ケンジェル。」「オッス」「おはよ。」皆が声をかけてくれる。一緒に練習しているうちにクラスの中で知り合いが増えた。これが親睦を深めるということなのだろう。

義人は今日も涼やかな顔をしている。「ケンジェル、ルールで覚えてないところはあるか?」「んー、大丈夫だと思うけど間違えたら教えて。」俺がそう言うと涼やかな顔が一瞬で不安に曇ったが、その後すぐにあきらめの表情になった。そうそう、完璧を求めてはいけないよ義人くん。何事にもやるだけやった後にはあきらめも必要だ。


遊びなのでもっと緩く戦うのかと思っていたら、皆さん結構真剣に試合をしている。いいなこの雰囲気。燃えて来るぜっ。俺は一番目に戦う他のクラスの試合を見ながら、義人に解説をしてもらってルールの復習をした。俺たちのクラスの番が来てコートに入った時には、俺はやる気に満ちていた。最初のサーブからアタックサーブにする。高く上げたボールを追ってジャンプすると渾身の力を込めて相手コートに叩きつける。バシッといい音がして、俺のサーブが相手の後衛の足元に突き刺さった。おおーーっ。というどよめきがして、だんだんと見学者が増えていたらしいが、俺は試合に集中していたので知らなかった。見に来ていた慎介に後から「ケンジェル、目立ちすぎー。」と言われた。よくわからん。お前が勝てと言ったんじゃないか・・。


俺と義人がアタックやらスパイクをして、他の皆がレシーブを頑張ったお陰で俺たちバレーチームは1年A組の中で、唯一優勝を勝ち取った。担任の神谷先生が喜んで、皆にジュースを奢ってくれたので、俺たちバレーチームは勝利の美酒を味わった。


帰り道、千恵の機嫌は悪かった。

「テニスに出てた剣道部の加藤純君は、不正よっ。あの人中学校の時にテニスで県代表選手だったそうじゃない。今は剣道部って言ってもプロじゃないのっ。」

と千恵はぶつぶつ言っていた。球技大会にはバレー部のものはバレーに出られないというように自分の専門の競技には出られないらしい。ところが純は今はやってないのでテニスに出たそうだ。どうも純のいる1年F組にみんなコテンパンに負けたらしい。俺はニヤリとした。ここんとこうっぷんの溜まっていた純もいいストレス解消をしたようだ。


「球技大会って面白いなっ。」俺が千恵にそう言うと、「剣道部の今年の一年生は凄いって、皆言ってたわよ。ケンジェルも女の子にキャーキャー言われて鼻の下を伸ばしてたんでしょうっ。」と怒られた。

何で怒られるんだ? 

・・・鼻の下って試合に勝つと伸びるのか??




勝ったのに、どうして千恵の機嫌が悪いのか・・・。女の子には単純な男にはわからないところがあるものです。

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