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恋愛チート  作者: ぜーだい
一周目
8/17

7. 遠足


 この高校は変わってるけど学校行事は他とあまり変わらない。

 体育祭、文化祭、合唱祭……。ただ、その中の遠足が少し変わってる。遠足は日帰りが普通だと思うけど、この高校では一泊二日。


「いやあ~、絶好の遠足日和だねえ」


 手で庇を作りながら空を仰ぎ見る。雲一つない快晴。

 みんなジャージにリュックを背負ってグラウンドに集まっていた。各クラスに分かれ、先生が点呼を取っている。


「えーちゃん、楽しみだね!」

「オレ、体力無いからな……てか、何で目標地が秘密なんだろ……」


 ややゲンナリした様子でえーちゃんが言う。


「そりゃあ、楽しみを後に取っておくためでしょ!」


 どこにあるのかは秘密だけど、どんな所かについては上級生の噂がちらほら。空気の美味しい森で心身ともにリフレッシュ。大きく澄んだ湖で釣り。夜には恒例のカレー作りや内緒で肝試し。

 そして何より……温泉があるのだ!

 広い湖と朝靄に霞む雄大な山を望みながらゆったりと温泉に浸かる……最高だな!


「ああ~楽しみ~」

「そ、そんなに楽しみなんだ……」


 そりゃそうでしょ!


「クックック……いつまでそうやってはしゃいでいられるかな……?」


 突然背後から掛けられる声。


「誰――って先生!?」

「クックック……さあ、準備は整った。楽しい楽しい遠足の始まりだ!」


 そう言って駆け出す先生。

 周りを見ると、他のクラスの生徒が担任教師に先導されて出発していた。

 ……え!? もしかして追いかけるの!?


 ざわめきの中、あたし達のクラスは必死に先生に追い縋った……。




『…………』


 暑い。季節は秋のはずなのに、止めどなく汗が吹き出す。流れる汗をタオルで拭った。

 あたし達はただ無言で歩き続ける。

 走ってられたのは最初だけ。ミイキイコンビは元気に先生についていったけど……。既に男子三人組やカナコさんとも離れ、ここは最後尾。

 亡者の行進。生命力を絞り尽くされたその体を歩ませるのは生者への執着のみ。いや、それすらも……。

 既に思考する力すら失った亡者たちは、自らがどこから来てどこへ行くのか、何故歩むのか、それすら自問することなく。ただ、ただ歩き続ける――

 そんな感じ。


「えーちゃん……大丈夫……?」

「ハヒューッ……ハヒューッ……」


 声も無い。他の人たちもそんな感じだ。あたしはまだ大丈夫だけど……。


「おう、がんばれよ!!」


 道中に立つ教師に声をかけられる。


「あの……あとどれくらい歩けば……」

「秘密だ!!」


 ダメ元で訊いてみたけど、すげなく返される。

 いきなり走り出したのはうちの担任だけだけど、他のクラスの人にも道中どれくらい歩くのかは秘密らしい。ハ○ター試験かよ!!


「ゆ……ん……」

「えーちゃん!? 駄目だよ喋っちゃ!? 無理しないで!!」


 青ざめた表情で彼女があたしを見る。


「わ……たし……もうダメ……。ゆんちゃんだけでも、先に……」

「そんなこと言わないで!! あたしがえーちゃんを見捨てる訳ないでしょ!!」


がしいっ!


 今にも行ってしまいそうなえーちゃんを、ここから離さないとばかりにきつく抱きしめる。


「いや……そろそろギブアップしたいんだけど……」

「逃がさないよ」


 ここから離さない!


「えーちゃんがいなきゃ、あたしもムリ!」

「……はあ、分かったよ。オレも漢だ。やったらあ!」

「その意気だよ! まあ本当に無理そうなら教えてね」




「ゼヒューッ……ゼヒューッ……」

「おいおい、ゆゆゆん。大丈夫かよ?」


 えーちゃんが“あたしの背中の上から”声をかけてくる。


「ちょ……ごめん……もう降ろしていい……?」

「え~もう?」

「えーちゃん……!!」

「分かってるって、冗談!」


 ぴょんと飛び降りるえーちゃん。


「はあ……」


 彼女からあたしのリュックを受け取りつつ、大きく息を吐く。


「いや~助かった! これなら最後までイケそうだ」

「そ……それは何よりだけど……まさかガチでおぶさってくるとは……」


 道中あんまりにもえーちゃんの様子がアレだったんで、冗談交じりに提案したら信じられない速さを見せつつあたしの背に乗っかってきた。

 これが漢のすることかよお! と非難したら漢じゃないし、と返された。ええ……。


「でも、ここら辺緑が多くなってきたし、もう少しで着くんじゃね? 山も見えるし」

「よし……ラストスパート、気合入れっぞ!」

「なんかゆゆゆん、体育会系化してない……?」


 その後、余剰分の体力も使い果たして、生命力を燃焼させる前段階くらいになったえーちゃんと、頭がハイになったあたしがようやく目的地に辿り着く。


『おめでとう……!』

「ありがとう!」


パチパチパチ……


 拍手の降り注ぐ中、ゴールテープを切る時には、あたりはすっかり暗くなっていた。

 ちなみに後で知ったけど拍手とかゴールテープとかはあたしの幻覚。怖っ!


「ようやく着いたか! ほら、カレーライスだ」


 マコトが皿によそったカレーライスを、ソウジが持って来た。

 みんなで既にカレー作りを終えてたみたい。

 ミイキイコンビは言うまでも無いけど、男子ーズもカナコさんも割りと早い段階でゴールしてたらしい。他のみんなは分かるけど、マコトも……さすがに男の子だね。


「あ、ありがとう……」


 休憩して少しは体力を回復できたんで、ちょっとお腹も空いてきた。ありがたく受け取る。

 うん、美味しい。

 数種類のスパイスがブレンドされた香り高くコクのあるカレー、なんてことは無いけど、みんなで作った時に生まれるあの味だ。あたし作ってないけど、それでもその美味しさを感じられる。けど……。


「おかわりもいいぞ!」

「そんなに食えるか!」


 疲労困憊の体が受け付けないっつーの!


「遠慮するな! しっかり食え!」


 こ、こいつ……人が弱ってるとみて普段の仕返しとばかりに……憶えてろよ……。

 ちなみにえーちゃんはダウン中。


「食べないならミイがもらってもいいのニャ?」


 ミイちゃんがやって来た。


「いいけど……ミイちゃんはカレー食べられるの?」


 猫キャラ的に。


「ミイは有機物なら何でも食べられるのニャ!」

「有機物て」


 食べ物の範囲すら越えてきたな。どんなキャラだ。

 ミイちゃんは他のグループからもカレーをお裾分けされてた。愛されてんな~。




「はああ~~……」


 温泉。温泉だ。しかも露天。

 夜。星々を見上げながらお湯に浸かっていると、体の中から疲労がお湯に溶け出していくよう。


「やっぱり温泉は良いよね~」

「温泉好きなの?」

「うん」


 カナコさんがつつつと寄ってくる。


「やっぱりヤマト人だしね~」

「まあね。私もそこまでって訳じゃないけど、嫌いじゃないし」


 ミイキイコンビは洗いっこ中。えーちゃんはいない。もう大丈夫そうだったけど、もう少し横になってから後で入るらしい。ちょっと残念だ。


「いや~、これで酒でもありゃあ最高なんだがな~」


 だいなまいっなばでーを惜しげもなく晒した先生がオッサン臭いことを言う。


「先生!」


 ついでに抗議しとこう。遠足という名のフルマラソンについてはもう充分にした。でも……。


「お? 何だ?」

「温泉は良いんですけど……どうせならここに泊まればいいじゃないですか!」


 ここはかなり良い感じの旅館。泊まりのない一般客にも温泉を有料で開放しているそうだ。


「おいおい、みんなで協力して作業するのが醍醐味だし、目的でもあるだろ?」

「まあそうですけど……」


 あたし達は湖の畔でテントを張って寝る。それも良い。でも、ここの良~い感じの旅館を見せられちゃうとな……疲労もあるし……。


「ぶっちゃけうちの高校やそこに通う生徒の家に、こんな旅館に泊まる為の金は出せない」


 納得。


『ぎゃああ~!!』


 その時突然響く悲鳴。けど、他の女子含めみんなに驚いた様子はない。


「菊殻か……流石は幼馴染ってところか」

「ええ」


 先生の呟きに答える。

 ソウジが覗きを決行するのは確定的だったんで、罠を仕掛けておいた。みんなには予め説明してある。

 ソウジに良い目は見せてやんねえ!




「なあ、肝試しやんねえ?」


 ソウジが提案してくる。

 温泉から上がったあたし達を男子ーズが待っていた。


「あんたがお化け役?」

「お前のせいでお化けみたいになってんだよ!」

「いやソウジが覗こうとしたせいだろ」

「そうだよ!」


 リヒトと珍しく怒ったマコトに責め立てられるも、ソウジはどこ吹く風だ。


「とにかく! 肝試し、しようぜ!」


 こいつ耐久力たけえな。


「ソウジ……あんたのその諦めずに道を突き進む姿勢だけは感心するよ……」


 進む道が間違ってるけど。

 大方、肝試しで怖がった女子に抱きつかれて……とか考えてんだろうな。

 まあでも面白そうだったんで結局参加することにした。


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