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恋愛チート  作者: ぜーだい
一周目
3/17

2. 再会

「ふー、やっと着いた」


 目の前にたつのは古くはあるけど趣があるとも言える、木造の建物。


「ここが女子寮かあ。悪く無いじゃん!」


 合格発表から一ヶ月が経った。明日の入学式に備えて、入寮者は一日早く高校に来る。

 えーちゃんとは途中で合流した。


「ようやくこの荷物から解放されるぜ!」

「えーちゃんは恐ろしく荷物が少ないじゃん……」


 彼女は一足先に寮に入っていく。あたしは後を追った。

 手続きを済ませて部屋に向かう。

 部屋は二人一部屋。あたしとえーちゃんは同室だ。荷物を下ろして二段ベッドの下に座る。


「ゆゆゆんは下で良いの? じゃああたしは上と~った!」


 彼女はそう言って梯子を登るとベッドに身を投げる。

 あたしは別にそんなつもりじゃ無かったけど……まあいいか。


「今日からここで新生活か……」

「ん? どったの? 不安?」


 あたしの呟きを聞きつけたえーちゃんに声を掛けられる。


「ううん、大丈夫」

「そう? なら良いけど」


 そう。不安はあるけど、それはあたしの生活じゃない。ろっちーのこと。

 結局一ヶ月じゃあ記憶は戻らなかったから、しばらくはお父さんと一緒に暮らすことに……。

 当初は何か手伝ってもらおうとしたけど、あらゆる家事がてんで駄目で……。子どもでももっと上手くやれると思うんだけど。

 むしろ仕事が増えるから大人しくしててもらうことに。それは大丈夫だった。彼女は多分アルビノ、だっけ? メラニン色素がどうたらいうやつ。目が赤くて肌が白いし。だから、紫外線を嫌って一日中引きこもってた。

 積極的に何かをしようとしなければ特に問題は無かったから、大丈夫だと思うんだけど……。


「ねえ、えーちゃん。せっかくだから、今から校舎に行ってみない?」


 まあ考えてたって事態が変わる訳でもないし。ここはきっぱり意識を切り替えて、自分の生活に集中しよう!


「いいよ~」


 そんな訳で、二人で校舎に向かった。ちなみに寮母さん曰く今日は私服で大丈夫らしい。何かゆるいなこの学校。




「うん、まあ……」

「フツーだな」


 時折部活動に勤しんでる先輩方の声を聞きながら、ぶらぶらと学校を探検した。初めこそワクワクした気持ちはあったものの、特にどうということもないその凡庸さに気分も冷める。


「……戻ろっか」

「そうすっかー」


 二人して寮まで戻る。すると――


「何かつまんねーなー」

「そういう言い方はよくないと思うよ?」

「つーかお前は一体何を求めてたんだよ」


 向こうの道から男子二人と女子一人の三人組が現れた。向こうは話に夢中でまだこっちに気がついてないみたい。


「何を? そんなの決まってんだろ、女子との出会いだよ!?」


 一人の男子が叫ぶ。うわあ。


「男臭い野球部の叫びがふと、途絶える。すると、初めて気づくピアノの音。なんて美しい……俺は誘われるようにふらふらと音楽室へ。半開きのドアから覗くその女性は、音の美しさに負けない美少女。ガタン! 誰? あ、すみません……。君、新入生? 盗み聞きとは感心しないな。い、いえ! そんなつもりじゃ……綺麗な音だと思って……。ふふ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。こっちに来て連弾でもどうだ? はい! 是非! 俺と美少女先輩の音が重なる。そして、ミスした手も……。あ! 慌てて手を引っ込めようとする俺。それを掴む先輩。せ、先輩……? 君、綺麗だと思ったのは音だけかい? それとも――」

「きめーよ」


 男子の妄想をもう一人の男子がばっさり切り捨てる。それはあたしも同感だ。


「そもそもお前、ピアノ弾けないだろ?」

「おま、そういうの良くないって! お前ってつくづく夢の無いつまんねー男だよな~。 シンだってそう思うだろ?」


 シンと呼ばれた女の子は明らかに引いている。そりゃそうだ。


「リヒト君は優しい人だと思うよ?」


 彼女は槍玉に挙げられた男子、リヒト君を擁護する。……あれ? リヒト?


「お前、リヒトかよ!? ってことはそっちのバカはソウジで……お前、マコトか!?」


 あたしが気づくよりも先にえーちゃんが叫ぶ。

 ってことはやっぱりこの三人組は……。


「ぎゃあ~!? ひ、他人に聞かれた~!! しかも女子に!!」

「お前……誰だ?」

「ど、どうしてボクの名前を……?」


 頭を抱えるソウジも、鋭い視線をこっちに寄越すリヒトも、かわいいマコトも、みんな変わらないな……。


「みんな、久しぶり~」


 あたしは手を振って近づいた。


「お前……ゆんか?」

「ウソ、ゆんちゃん!?」

「え、ゆん?」


 三人組が一斉にこちらを見る。


「そうだよ~。いやあ、こんな偶然ってあるんだね~」


 理人リヒト総司ソウジマコトの三人組は、全員あたしやえーちゃんと同じ施設にいた兄弟分だ。


「マジでゆんかよ……。久しぶり。元気してたか?」


 そう言って僅かに口角を上げるリヒト。


「うわあ、また会えて嬉しいよ、ゆんちゃん」


 マコトはにぱっと花が咲くように笑う。


「おー! な「ぐひひ、なんて美しい女性でふぅ。お、お付き合いしたいんでふぅ」

「ええ……? ソウジと付き合うとか無理」

「いやいやいや!! 明らかに俺の言葉じゃないだろ!? 何で俺、無駄に振られてんの!?」


 ソウジの言葉をえーちゃんがモノマネで遮った。


「ごめん……モノマネのレベルが高すぎて聞き分けられなかった……」

「悪ぃ……これでソウジの振られた回数が三桁になっちまったな……」

「さっきから俺の扱いおかしいだろ!? そんなに振られてる訳無えっつーの!! まだ二桁!!」


 け、結構振られてんのね。


「おいゆん! この女は誰だよ! 初対面で失礼過ぎるだろ!」


 あー……。


「初対面じゃないよ。えーちゃんだよ」


 分からないのも無理はないけど。


「「「え……?」」」


 三人の声が重なる。


「う、嘘だろ……? あの、大人しくて可愛かったえーちゃんが、これ……?」

「……確かに見た目には面影が残ってるな」

「か、変わったね、えーちゃん……」


 あたしも初めはそんなリアクションになったな~。懐かしい。


「オ、オレも驚いたぜ……」


 目を見開いて震えるえーちゃん。


「何でお前が驚いてんだよ!?」

「ソウジがまだ生きてることに……」

「何で!? 何が原因で死んだと思った!?」

「え……? 寿命……?」

「儚い!」


 仲いいな~。


「漫才もいいけど、とりあえず場所移さない?」




「そんじゃまあ、再会を祝して……」

「「「「「かんぱーい!」」」」」


 近くにあったファストフード店に寄った。

 ハンバーガーセットに付いてきたジュースで、あたしが音頭をとって乾杯する。


「……ってことは、ゆんたちも明日からあの高校に通うんだな」

「うん」


 リヒトの問いに答える。


「楽しみだな~。同じクラスになれると良いね!」


 う~ん。マコトは癒やし。


「そういやさ、ソウジがマコトのことシンとか呼んでたよね? あれ何?」


 あたしの問いに、マコトは心なしか頬を染めて答える。


「え、えっと……ボク、自分が女の子に見えること気にしてて……マコトって名前も何だか女の子みたいだから……」


 そうか? まあシンの方が男っぽい……か?


「だからシンって呼ばせてんの? やっぱ普通はそういうのって気になるもんなの?」

「普通はって……どういうこと?」

「いや、ウチのお父さんも見た目が女性っぽいけど、全然気にしてないからさ」


 むしろ嬉しがってる。


「そうなんだ……」


 マコトは何やら感心してる風だ。


「そうそう、細かいことは気にせず自分のやりたいように生きるのが一番だぜ~?」


 えーちゃんも言う。


「うん、そうだね! 小さいこと気にしてたみたいで恥ずかしいな」

「じゃー、マコトで良い?」

「うん!」


 何だか吹っ切れたみたいだ。善きかな善きかな。


「ところでゆんとえーちゃんの施設を出てからの話を聞かせてくれよ。特にえーちゃんが気になる」

「「嫌」」


 ソウジの問いに二人声を合わせる。


「双子か!」

「『双子か!』て……そのツッコミはどうなの……?」

「頼むぜ? ソウジさんよぉ」

「お前ら、俺をどうしたいワケ?」


 その後は素直に話した。


「へえ! ゆんって結構いいとこのお嬢さんだったんだな! それにえーちゃんも、もらわれた先が凄いじゃん」

「いいとこって言っても、借金返すために財産はほぼ無くなったからね……」


 残ったのが実家とその周辺の土地。

 お父さん(弟)もお母さん(姉)も両親――あたしの祖父母――と折り合いが悪く、まずお母さんが、次いでお父さんが家を出た。その後お母さんは誰とも知れぬ人――あたしの実の父――の子どもを身ごもった状態で一人暮らしをしていたらしい。出産時に死亡、あたしは施設へ。

 祖父母がお母さんの情報を突き止めた時、今までの心労もあって死亡。子どもが二人とも家を出た辺りから借金が増えていたとのこと。お父さんが実家に戻って諸々片付ける時に知ったそう。そしてその時ようやくあたしの存在を知って、見つけてくれたっつー話。


「何か大変だったんだな……」

「お父さんがね。あたしは特に何の苦労もしてないしね」

「オレは苦労したぜ~。金持ちの家ってのも楽じゃねえよ」


 子どもがいない家の跡取りとしてもらわれたえーちゃん。元々の才能に加え、気に入られようと努力したこともあって両親の覚えもめでたかった。しかし、子どもができないと思われていた両親に息子が生まれ……。


「なるほど、それで冷遇されるようになってグレちまったか、跡取りを巡る争いから外れるための演技か……」

「んにゃ? 両親は変わらず優しかったよ? 弟も良い子だし気に入られてたし」

「じゃあ何でそんなになっちまったんだ!?」

「ん~。むしろそれが負担だったっつーか……良い子をやめたい! って感じ?」

「苦労は!? 金持ちの家は!? 気持ちは分からんでもないけど……」


 えーちゃんはそう言うけど……。まあ親友だからって何でも話すべきだとは思わないしね。


「ところでそっちはどうなの? そっちの話も聞かせてよ」

「リヒト! マコト! お呼びだぞ!」

「オレの話は特に面白いものでもないな」

「ボクもだね」


 二人は平凡な家ながらも優しい家族とともに幸せに暮らしたそう。


「幸せそうで良かったよ。それで話は変わるけど――」

「お前ら、自然に流すのな……『お前も話せよ!』的なツッコミを期待したんだけど……」


 あたしの話をソウジが遮る。


「バッカお前……! みんなの配慮が分かんねーのかよ……!」


 それにえーちゃんが答える。


「配慮?」

「だってお前……実の親はいないだろ……?」

「それは俺ら全員同じだろ! エグいとこ突いてくるな!」


 片親だけでも判明してるのはあたしだけ。

 男子三人組も、えーちゃんも、実の両親の所在は不明だ。


「あ……悪ぃ……」

「だからソレやめろって!」


 長いこと会ってなかったのに、それを感じさせないなあ。

 こんな冗談、他人が聞いたり言ったりしたら大事だ。私たちは全員実の親のことなんて気にしてないって分かってるからこそ、できることだ。

 家族になるのに血の繋がりなんて関係ないもんね。


「それで? わざわざ自分から言い出すってことはよっぽど楽しいお話なんでしょうね?」

「おう、期待しとるぞ。ソウジさんよぉ」

「え……あ、あの、別にそこまで……」

「「あはははは! 面白い!」」

「まだ何も言ってねえよ!?」


 ソウジの話も他の二人と変わらなかった。

 その後もそんな感じで駄弁って時を過ごす。帰りに「念願の女子との出会いを叶えてやった」から奢りを求めたえーちゃんに、ソウジが真っ赤な顔を覆ったりしつつ、あたしたちは寮に戻った。

 男子三人組は男子寮、あたしたちは女子寮へと向かい、明日の入学式を待つ。


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