長谷川深雪
「そんな悪戯するのは一人しかいないな」
そう言って、咲希は部屋を飛び出していった。部屋に残された和輝は、首を傾げることしか出来ないでいる。
数分後、咲希は少女を連れて部屋に戻ってきた。
「こいつだろ?」
そう言って咲希は、恐ろしげな笑みを浮かべた。
「多分」
和輝のその言葉を聞くと、咲希は少女のことを擽り始めた。
「にゃっははは。咲希! ヤメりょ! にょほほしょれは反則だって。ごめんなさい、謝るからー!!」
ジタバタと暴れるが、咲希はそれでも擽り続けた。しかし優しい和輝は、こう言ってくれる。
「謝ってるし、許してあげたら……」
そんな言葉を咲希が聞く筈なかった。普通ならその筈だった。が、咲希は手を止めた。
「そうだな、これくらいで許してやろう。紹介する、コイツは長谷川深雪。悪戯野郎だから、気を付けろよ」
口ではそう言っていても、咲希はとても楽しそうだった。その様子から和輝は、二人は本当に仲良しなんだと感じた。
「じゃあな、ジュッキー! にししし」
解放されたため、深雪は部屋から逃げていった。
「あの、今って西暦何年なの?」
そこで和輝は、咲希に質問をした。昨日からの疑問。頭がよくない和輝は、疑問を抱えていることなどできないのだ。
「へ? 二千、何年かだっけな。多分二千十とか二十とか、その辺」
それを聞いた和輝は、首を捻った。普通だったら、何年か分からないなんてありえる筈がない。いくらバカだって、今年が何年かと聞かれて答えられないことはないだろう。
それと戦国時代にタイムスリップ、それが間違った予想だと気付いた。今更、そう思うかもしれないが和輝の頭は良くないのだ。仕方がないと思って欲しい。
「そんなんよりさ、お前、うちの軍に入んのか?」
咲希にとっては、和輝の方が理解不能だった。今が何年かなど気にすることもないし、知っている人なんて数少ないから。それに、そんなことを聞いてどうするのかと不思議だった。
これは、二人の常識の差から起きた疑問だろう。これ以上聞いたってもっと分からないくなるだけ。そう思い、咲希はその話題を断ち切ったのだ。
「軍? あー、意味分かんね!」
和輝は、つい叫んでしまった。男が軍に所属することは当然、咲希の常識はそうだ。しかし和輝の常識は違う。軍だなんて、今まで一度も考えたことすらなかった。
「ま、面白いし、うちに置いといてやるか」