望み
「本当か!? 分かった、すぐ戻るぞ」
その言葉を素直に信じ、嬉しそうに咲希は走り出した。
「姫様、お待ち下さい」
「お、おい」
また走って行ってしまった、仕方がない。というように、それに続いて一葉と和輝も街まで走って戻った。
「今すぐ見に行こう!」
目をキラキラ輝かせた咲希の隣で、深雪は「にしし」と笑った。
そして……。
「おい深雪、どこが燃えてるんだ?」
最も近い林太の領地の門前で、素直に咲希は問い掛けた。
林太の領地、と深雪が言う場所。それは嘘で、実際は日良の領地である。
「にししっ」
その笑いを聞き、咲希はそれが悪戯だったと気付く。が、そこが林太の領地ではないと気付いていない様子であった。
咲希は指を鳴らして、深雪に迫って行った。それに対し深雪は、ペロッと舌を出して返す。
「あれれ~、気のせいだったみたい」
そう言う深雪は、物凄く笑顔だった。なぜなら、咲希を笑顔にしたいと言う目的は達成できたからだ。
そして、今の咲希がどれだけ乱しているのか見ることも出来た。こんなに早く、こんなに近くにまで林太が迫っている筈がない。そこに全くの疑問すら持てていないようであったから。
「んなわけあるか!」
そう叫んだ咲希は、深雪の頭を軽く叩いた。深雪の優しさが分かっているから、少し力を入れて軽く……。
「街に戻るぞ」
退屈そうに言う咲希だが、表情は柔らかかった。
「姫様、お待ち下さい」
そして三人は再び走って行った咲希の後ろを追い、駆け足で戻って行った。




