出会い
「いってぇ。何だここ」
アニメ大好きの男子高校生三村和輝は、暗い森の中を彷徨っていた。何も持たず、学校の制服で見知らぬ森を。
「あっちから声が」
和輝は、声が聞こえた方へ走り出した。早く森を抜けたい、その一心で走っていた。そして森を抜けると、そこには戦場が広がっていた。
「撮影か? リアルな死体だな」
和輝がポカンとしていると、大きな銅鑼の音が辺り一帯に響き渡った。
「変な格好してっけど、アンタ何?」
突然美少女に話しかけられ、和輝は口をパクパクさせてしまう。
膝上くらいまで真っ直ぐと伸びた黒い髪、吸い込まれそうなほど綺麗で漆黒の瞳。人形以上に整った幼い顔は、冷たい表情を浮かべていた。
しかしそんな少女が身に纏っているのは、強そうな鎧や兜であった。少女とはあまりに不釣り合いな格好だが、どこか似合っているようにも感じられた。
「何で魚のまねしてんの?」
汚物を見るような視線を、少女は和輝に向けていた。服装からして彼が不自然だったので、彼女は汚物そのものと判断していたくらいだ。
「えっ、いや。撮影かなんかなんすか?」
しかし和輝にとっては、少女の服装の方が不審だった。普通の少女がこんなものを着ている筈がない。実際にこんな戦いが起こっている筈がない。
平和な世で生きてきた和輝は、そう考えて問い掛けた。平和しか知らない和輝は、そう考えることしか出来ず問い掛けた。
「撮影? 何それ」
しかし少女の答えに、嘘など微塵もなかった。撮影、そんな言葉初めて聞いたのだから。そしてその素直な表情を、和輝が疑ったりする筈もなかった。
「姫様っ! 何をやってるんですかっ!?」
そこに現れたのは、大人な女性であった。女性も少女と変わらないほど長い黒髪を持つが、なぜだか異なる雰囲気を持つ。大人な雰囲気を醸し出している女性だった。
彼女も強そうな鎧や兜を身に纏っている。その上、長い槍を右手に握っていた。その姿に和輝は恐ろしい、と同時にカッコいいと感じていた。
「よし! お前、私について来い」
冷たい表情をしていた少女が、いきなりニッと笑った。そして和輝の意見など聞かず、無理矢理着いて来させたのであった。
「姫様、何訳の分からぬものを連れて来てるのです?」
それに気付いた女性は、溜め息交じりにそう問い掛けた。
「面白いからいいだろ? で、名前は何というんだ」
楽しそうな笑顔で、少女は和輝に言った。その姿を見たときに和輝は悟る。この子は俺が守らなきゃいけないと。
「三村和輝です。君たちは?」
素直に名乗り、微笑みながら和輝も聞く。見た者を虜にする、素直な表情であった。
「このお方を知らないのですか? 藤原咲希様です。そして、私は新井一葉と申します」
和輝の質問に驚きの表情を答えながらも、一葉と名乗る女性はそう答えた。
「面白いだろ」
咲希と紹介された少女は、胸を張って言った。新しい玩具を手に入れた子供のように、嬉しそうに笑っていた。
「……姫様、この和輝という奴は、何者なのです?」
しかし一葉も、その笑顔に負ける訳にはいかない。どんな危険があるか分からないのだから、怪しい奴を先に近付けたくなかった。
大好きな人は自分で守る。甘やかしてはいけない。そう決めたから。
「何者って、和輝って言ってるんだから、和輝なんじゃねぇのか?」
その想いに気付いてはいるが、咲希は和輝に興味を持ってしまった。だから手放すつもりはないと、笑顔を浮かべ続けていた。
確かに一葉の言葉、聞いてあげたいとは思う。それでも和輝が欲しいから、笑顔を浮かべ続けていた。
「えっと、姫様って言うのはどうゆうことなんです?」
そこに和輝も入って行く。完全に取り残されていた為、まず一番の疑問を問い掛けた。
「どうゆうって、私が姫だから、姫様なのだろう。可笑しいか?」
和輝の頭は混乱していた。姫、その言葉にあまり馴染みがなかったからだ。和輝がきく姫という単語といえば、アニメくらいのものだから。
しかし咲希は、姫らしくないと指摘されているような気分になった。だから少し気に入らないような表情で答えた。
「まあいい。今日はここに泊まってけ。お前が何者なのか聞いてやる」
和輝に理解は出来ていなかった。しかし咲希の言葉に、反論するつもりはなかった。なぜなら和輝は、自分の家に帰る手段を知らず困っていたから。泊めてくれるというのを、断る必要はないと考えたから。
そしてこの二人の出会いが全てを変えていく。