表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

暁斗・不幸のデパート

 なんでオレの人生、上手くいかないことばっかなんだ?

 

 両親ともいない、なんてまず究極の不幸だ。もちろん貧乏だし。更に訳わかんない病気にもなっちまって、剣道も出来ない。

 

  そのうえ。

 

  留年だよ。

 

  出席日数、足りなくなっていたそうだ。担任が色々骨おってくれたんだけど、オレ、音信不通だったし、ホストしていた噂もあったから、学校側は容赦しなかった。退学にならないだけマシって感じ。

 

  あーあ。

 

  どんよりとした冬の空をベッドから見上げていた。

 

  微熱が時々出るんで、こうやって寝込む日が多いのもオレを憂鬱にさせていた。肝炎は今んとこ完治するのがむずかしい病気だ。母も肝臓ガンで死んでいるし、肝臓弱い遺伝子もらったか? なんか嫌な感じ。これじゃ、出席日数足りてても、どっちみち学校行けない体だな。

 

 

『剣道形、やりたいなぁ』

 

  正宗との形は、あまりに強烈だった。息を合わせるストレスが全くなかった上に、発展していく気感が気持ちよくって、忘れられなくなってしまった。

 

  困る……よ。あんな、お気楽サド眼鏡にとらわれるのは。

 

  しかし、いったい正宗は何者なんだろう。色んなこと知っているみたいだけど、陰陽師の跡取りって、みんなああなのかね。

 

 

 

「ああ、目はつむってリラックスしていてね」

  幸子さちこさんの声に我に返る。

 

 今日はレイキの日だった。何でも、気功の一種であるレイキは手当てによってエネルギーを流して、体の調子を整えるという。 高原家と懇意にしている幸子さんに、正宗が頼んでくれたおかげで、週に二日、午後に1時間ほどやってくれるのだ。

 

 

 病院で正宗が額に手をおいてサラサラと流してくれたのは、これだった。

 

 確かに……細かい粒子が体の中でサラサラと反応していく。マイナスだった感覚をプラスにひっくりかえすような、その繊細なエネルギーにいつも眠くなってしまう。けど、幸子さんと正宗の気は違う感じだ。

 

「はい。今日はここで終わりね」

「あ…… はい。ありがとうございました」

 

 オレの母よりも年上らしい幸子さんは、やさしく微笑むと荷物をまとめだした。

 

「まぁくんは今日は遅いの?」

 幸子さんは正宗のことを、まぁくんと呼ぶ。

 

「近頃、予備校が最後の追い込みらしいです」

「大変ねえ…… けど突然、医学部に進路変更したなんて、びっくりしたわ」

 

「え? 前から医学部狙いじゃなかったんですか?」

 

「ううん。確か、経済学部志望じゃなかったかしら? なんで変えたんだろうね。ま、君たちの年代は、膨大な選択肢があるから、途中変更もぜんぜんOKだね。いいなぁ……」

 

 

「あのっ」

「ん?」

 幸子さんに、正宗のことを聞いてみたくなった。

 

「正宗さん……って、神社の後とか継がなくていいでしょうか?」

「ああ」

 何かを感じたようで幸子さんは、ニヤッと笑った。

 

「陰陽師のこと?」

 オレは肯いた。

 

「大丈夫よ。まぁくんは、もうずっと陰陽師としての修行はしてきてるの。先代の宮司、えっと、あなたのお祖父さまにも当る人に、色々教えられてね。……まぁくんはお父さまより筋がよかったんで、ずいぶんとツライ修行もさせられていたわ。私も、そのお祖父さまの一門だったの」

 

「え、そうなんですか」

 

「といっても、私は、会合に出るくらいだったけど。ここの教えは、ちょっと独特でね……って、君どこまで知ってる?」

 

「ぜんぜん知りません」

「え~ 則宗のりむねさん、まだ、暁斗くんに何も教えてなかったのか」

 

 則宗、というのは、伯父のことである。

 

 

「じゃ、私からは話せないわ。部外者だし。きっと、タイミングをみて話してもらえると思うよ」

「そうかなぁ……」

 

「そうでしょ。だって、暁斗くんだって能力引き継いでいるでしょ?」

「何の?」

「陰陽師の」

「ええ? まさかぁ」

 

 幸子さんは突拍子もないことを言う。それも、当然でしょ、って感じで。

 

「自覚してないの? ま、仕方ないけどね。じゃ、今日はこれで。またねえ~」

 言うだけ言って幸子さんは、時間も押していたので、さっさと帰ってしまった。

 

 

 

 困った。

 

 

 オレ陰陽師にさせられるのか? いや、陰陽師の前に病気だよ、治るのか?

 

 あ。

 

 まさか、まさか……医学部ってそれで、じゃないよね。オレが訳分かんない病気してっから正宗が医学部に変更した、なんて…… そんなことありえないよね。

 

 ははは……

 

 自意識過剰だよオレ。だいたい、正宗がそんな純情な普通高校生みたいな理由で、医者になんてなるわけないじゃん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ