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正宗・追跡

 暁斗の働いている店は、すぐに分かった。

 

 殴られていた近くのホストクラブの看板に暁斗がのっていたからだ。一日目は出口で待っていたが、とうとう出てこなかった。

 

 収穫は二日目にあった。

 

 夜も十二時を過ぎた頃に、彼は出てきたのだ。だまって後をつける。彼のオーラが薄く感じられた。

 

 まだ高校ニ年生の彼が、どうしてこんな生活をしているのか?

 

 

 

 数ブロック歩いた通りを曲がったところに、古いマンションタイプの賃貸があって、彼はそこに入っていった。オートロックもない。

 

 四階部分の端部屋。そこがどうやら、彼の住処らしい。玄関前まで行ったが、表札は当然あがってなかった。

 

 ひとり暮らしなんだろうか。

 

 ちょっと迷ったけど、あまり考えずチャイムを押した。

 

 

「誰?」

「俺」

 

 しばらく間があってから、小さなため息と同時にドアが開かれた。

 

 

「なんすか?」

 薄暗い中で見る暁斗は少しゾッとするような風貌だった。痩せているせいか?綺麗な顔立ちのぶん痩せると凄みが出るみたいだ。

 

 

「あのさ、お茶……もらっていい?」

 意外な申し出に、暁斗は出鼻をくじかれたようで、部屋に通してくれた。

 

 彼女とかと同棲はしてない? みたい。

 

 

 

「……そこ、散らかってますけどテキトーにかけてください」

「うん」

 

 小さなテーブルに座布団。テーブルの上には、ヨーグルトの空き箱とお茶の入ったコップがのっていた。ほとんど家具はなかった。洋服が唯一、数があるようで、木製のハンガーラックに黒系のスーツが綺麗にかかっていた。

 

 暁斗はりちぎに炊事場でお湯を沸かしている。

 

「この家、賃貸?」

「あ……と、店から提供されてるマンションで…… 新人とか地方のヤツとかは、借りれるんです」

「ふうん」

 

 未成年の暁斗が保証人もなしに賃貸できるハズないと思っていたけど、そういうことか。

 

「どうぞ。こんなもんしかないですけど」

 

 温めたほうじ茶を出してくれた。お礼を言って、お茶をすする。結構、いい葉っぱ使ってるじゃん。

 

 

 電燈の下でみる暁斗は、すっかり外見が変わっていた。髪を伸ばし、少し眉を剃っている。美しかった黒髪は、明るく染められ、大きくレイヤーがついていた。

 

 

 ま、それも別の魅力のカッコよさがあったけど、俺は前の暁斗のほうが好きだ。

 

 

 唯一つけているアクセサリーが、高級そうな腕時計だけなのが救いだった。俺はジャラジャラしたアクセサリーは嫌いでね。

 

 

 

 

 しばらく、暁斗を横目で見つつ、お茶の風味を堪能しつつ、この部屋になじもうと気を広げた。

 

 

 ……ちょっと、寒い感じだな。まだ九月だから気温は充分高いんだけど、暁斗の波動と同化しているこの部屋は、寂しいような不安のような寒さがあった。

 

 

「よく、ここが分かりましたね。誰かに聞きました?」

 たずねるべき俺が黙っていたので、暁斗のほうが口をひらいた。

 

「いや。この前会った場所でずっと張ってたら、君が現れたから、着いてきた」

「……」

 暁斗は気まずい様子で視線を落とした。

 

 分かっている。

 彼は自分を見つけて欲しかったんだ。

 

 俺に会って職場も変えずにいて、見つけられないハズない。

 

 しばらく黙って、お茶だけを飲んだ。

 

「おいしかったです。お茶。ごちそうさま」

 合掌をして頭を下げた。

 

「じゃ、俺帰るわ。もう夜も遅いし」

「え?」

 

 意外な顔をして暁斗は、表情を変えた。捨て猫のような表情だった。

 

「ああ、はい。……すみません、ほんと、お茶しか出さなくて」

「いやいやいや。なかなか、いい葉っぱだったよ」

 

 玄関で靴を履いてから、振り返った。

 

「剣道、続けてる?」

 暁斗の目に動揺が走った。

 

「え、いや。……やってないです」

「そっか。残念」

 

 そのまま、小さくじゃあ、と言って玄関を閉めた。

 

 

 外は都会の夜、独特の空気が漂っていた。紺色を背景にマンションの明かりたちが、鬱陶しく輝いている。

 

『ちょっと、意地悪すぎたかな…… けど、この半年心配させられたんだから、これくらいいいよね』

 

 少し涼しくなった空気に安堵しながら歩きだそうとした瞬間、おかしな気配を感じた。

 

「あきと?」

 

 急いで玄関の戸を開けて、部屋に取って返す。

 

 炊事場の流しで、暁斗が吐いていた。鮮血を。

 

「おい、暁斗……」

 

 ふらふらとそのまま暁斗は、気を失った。

 

 

『まずい、血液が気道をふさいだら、危ない!』

 

 倒れる暁斗を支えながら、顔を横向きにして床に寝かせた。口に手を当てる。

 

 よかった。息はしているようだ。

 

『気道はふさがっていない』

 

 救急車を呼ぶ。

 搬送された病院は結構、遠かった。最近は、なかなか受け入れてくれないのだ。

 

 それって、どうなの? 現在の日本の医療制度に憤慨しつつ、救急隊員が搬送先を決めかねている間、俺は自宅に連絡を入れた。

 


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