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第七話 オトメの逆鱗





大急ぎで準備を追え、飛び込むように車へ乗り込んだ数分後…。


「フフッ…。」


僕と唯月の方を見ながら和羽さんがなぜか不気味に笑っていた。正直ものすごい怖かったが、車の座席が対面式になっているせいでその視線から逃れることもできない。


「あんたらバッチリ似合ってるじゃない、やっぱりあたしの睨んだとおりだったわ。」


なにやら恍惚とした表情で和羽さんがそう口にする。


「お前に褒められても何一つ嬉しくねえ。」


それに対して、憮然とした様子で窓の外を眺めていた唯月が不機嫌そうに答えた。

車に乗り込む前から唯月はずっとこんな調子で元気がない。腹は決まっていたとはいえ、やはり女性物の服を着ていることに何かしらの抵抗を覚えているのだろう。普段から女々しい物を嫌い、男らしく振舞おうとすることの多い唯月からすれば不満を覚えないはずがない。


それにしても…


「………………。」


和羽さんの言う通り、セーラー服を着た唯月はなぜかやたらと絵になっているように思えた。

肩口まで伸びた栗色の髪を後ろでまとめてポニーテールにし、それを制服のタイと合わせた真っ白なリボンで結んでいる(ちなみにリボンは和羽さんの趣味だ)。小麦色の肌に合わせて塗られた明るめのチークと、猫のような切れ長の目を強調するように引かれたラインが持ち前の明朗活発さを際立たせているようだ。正直に言うとそこら辺にいる子より全然女の子らしい。今の状態の唯月を一目で男と見抜ける人はいないだろう、そう思えるほどに今の唯月は女性の格好が似合っていた。

元々中性的な顔立ちをしているとはいえ、軽い化粧と身なりを整えるだけでここまで変わるのかと少し驚

く。


あれ…? でもちょっと待てよ…? 僕と唯月は間違いなく一卵性の双子であり当然のように顔似通っている、とゆうか瓜二つだ。てことは今の僕も唯月と同じような状態をしているわけで…そうするとこれって自画自賛?


「うっわあぁ…我ながらキモチワリイィ…。」


「お前なに一人でブツブツ言ってんだ、心の病か?」


背中がむず痒くなって一人悶絶していると唯月が不審なものを見るような目を向けてきた。


…さすがにこの思考は危険だ、別のことを考えよう。


「そ、それにしても『これ』ってよくできてるよねー。」


唯月の興味を逸らすようにわざとらしく声を弾ませながら、僕は自分の胸部に付いているある『物体』を持ち上げてみる。


「あっ?まあ確かに『これ』は俺も驚いたな。」


それに唯月が乗ってきてくれたおかげでどうにか話題を擦り替えることに成功した。


「なんつうか感触も本物の人間の肌っぽいし、なぜか温かいし…。」


僕と同様に胸部に装着された『シリコン製自由脱着型擬似乳房(通称:ニセチチ)』を弄り回しながら、唯月が興味深そうにそう言った。これはどこからか和羽さんが調達してきて、ついさっき僕たちにそれぞれ手渡された物だ。

女性の胸部を再現したそれはとんでもなく精巧に作りこまれていて、質感や外観的にも本物に限りなく近い…らしい。僕は女性の胸を直接見たことも触ったこともないから、ほんとかどうかわかんないけど…。

言っておくが小・中と男子校に通っていて単に女性と接する機会が少なかっただけであり、決してモテなかったとかそうゆうわけじゃない…いや、マジで。

…まあそれは置いておくとして、このニセチチは着脱に接着剤等を必要とせず、肌に直接貼り付けるだけでいいとゆうかなりの優れものである。

接着剤を使わなくていいので肌に優しいのと着脱が一人でも容易にできるなど利点も多い。それに激しい運動をしても全くズレることはないらしく、通気性も確保されているらしいので汗を掻いても心配ないそうだ。とことん利便性を追求されていて文句のつけようがない。あえて言うならちょっと重いのと胸に若干の違和感があることぐらいだろう。


「…こんな物、どうやって手に入れたの?」


入手経路が気になったので、恐る恐る和羽さんに尋ねてみる。


「そりゃ金に物を言わせて作らせたに決まってんでしょ。」


すると実にお嬢様らしい返事が返ってきた。


そういえばこの人もお嬢なんだよな…全然そうは見えないけど…。


「それ一個で軽く家が建つぐらい高いんだから大切にしなさいよ。」


…そんなにするのかこれ。


和羽さんに注意されて、僕は自分の胸を弄んでいた手を慌てて離した。一応スペアは用意されてるらしいけど、それでも扱いには注意するべきだろう。


「この偽おっぱいも気になるんだけどな、オレもう一つ気になることがあるんだ…。」


なぜか神妙な顔をした唯月が突然そんなことを言い出した。唐突な唯月の行動に思わず皆の視線が唯月に集まる。

そんな中、唯月は真っ直ぐに手を伸ばして、目の前で姿勢良く座る可憐さんを指差した。


「…どうしてお前まで制服を着てるんだ?」


「ちょっ…!!唯月っ…!!」


この野郎…!!いきなり地雷を踏みやがった…!! 確かに僕も車に乗り込んだときから気になってしょうがなかったけど、敢えてツッコまなかったってゆうのに…!!


「学校に行くのですから制服で登校するのは当然かと思いますが。」


唯月の疑問に対して、可憐さんは『なにかおかしいですか?』とでも言いたげな表情でそう答える。そこで納得してくれれば良かったのに唯月はさらに突っ込んだこと聞き始めた。


「学校に通うのは俺達で、お前関係なくね?」


「唯月様…何か勘違いされているようですが、一応私も聖鳳の生徒ですよ?」


…えっ、なにそれ初めて聞いたぞ?


衝撃の事実に僕は信じられない思いで和羽さんの方を見る。和羽さんは僕の視線から感情を読み取ってくれたらしく軽く頷いてみせた。


「可憐は正真正銘の聖鳳生よ、あたしと同じ二年で一緒のクラスだし。」


どうやら可憐さんが言ったことは冗談でもなんでもなく本当のことらしい。そういえば可憐さんって和羽さんと同い年なんだよな…見た目が同年代より遥かに大人びてるから、完全に忘れてた。


「そうだったのか…。」


唯月も僕と同じようなことを考えていたようだ、話を聞いてようやく得心がいったらしい。うんうんと二、三度頷いたあと、唯月はニカッと少年のような笑みを浮かべる。


「でもお前が制服着てると違和感しかねえよな!!」


その一言に可憐さんの眉がピクリと反応した。


あ~あ…まったく…なんで唯月はこうも学習能力がないのか…。


「…和羽さん。」


「…わかってるわよ。」


和羽さんと僕はほぼ同時に座席を立ち、唯月から離れた位置へと移動する。


「見た目がアレだからもうコスプレにしか見エブフッ!?」


僕たちが離れた瞬間、唯月の腹部に可憐さんの拳がめり込んでいた。そこからはいつもの折檻タイムの始まりだ。


「おま…あぐっ!!ここ…うばっ!!車のながああぁーー!!」


「学校までどのくらいかかるの?」


「車なら一時間程度よ。」


唯月の悲痛な叫びが聞こえるが僕たちは完全に無視を決め込むことにした。今回のことはどう考えても唯月が悪いし助ける必要もない。可憐さんに外見と年齢の話をするのはタブーだと知っているのに、そこを敢えて突っついたのは唯月だ。


学校に到着するまでの間、雑談する僕らの傍らで唯月の悲鳴が響き続けていた。






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