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第十一話 一刀両断

「うぅ…っ…っく…うえぇ…殺してくれぇ…いっそ一思いに殺してくれよぅ…。」


抵抗空しく唯月と可憐さんによって取り押さえられた僕は、さっきより更に厳重に縛られた上にこれ以上暴れないようにとなぜか部屋のコート掛けに吊るされていた。

蓑虫のようにユラユラと揺れながらすすり泣く僕を見て、唯月が困ったような表情を浮かべて和葉さんのほうに振り返る。


「なあ…そろそろ許してやってもいいんじゃねえ…?」


弟のあまりに無様な様子に耐えかねたのか、唯月が渋い顔のまま搾り出したような声で和葉さんにそう言った。


「そうねぇー…。」


そんな提案に和葉さんはなにやら考え込むような仕草を見せると、おもむろに自分の携帯を取り出してそれを僕の方へと向ける。


「とりあえずこの面白画像を何枚か撮影してから考えましょう。」


「………っ!?」


どうやら今の僕の姿を見て和葉さんの嗜虐心が擽られてしまったらしい、かなりどす黒い表情を浮かべながら僕の方へと近寄ってきた。


「うあ…あぁ…来るな…来るなあぁ…!!」


「あらあらぁ~、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのよぉ~お姉ちゃんが『可愛く』撮ってあげるからねぇ~。」


「ヒィッ…!?」


鼻から抜けるような甲高い猫なで声を出し、淑女にあるまじき下卑た笑みを浮かべてにじり寄ってくる和葉さんを見て、背筋にゾクリと寒気が走る。

ヤバイ…このままじゃ色んな意味で犯される…!!


「じゃ、パチッといっときましょうかぁ~。」


「いやああぁーー!!」


カメラを起動させた和葉さんがシャッターのボタンに指をかけ、僕の痴態を激写しようとした瞬間…


「………………。」


無言で歩み寄ってきた来宮先輩が携帯のレンズ部分をやんわりと手で覆い隠した。


「咲夜…?」


突然の行動に少し驚いた様子の和葉さんに対し、来宮先輩はただ黙って微笑みを向けるだけだ。


「…………………。」


「…………………。」


あ、あれ…?なにが起きたの…?


押し黙ったまま見詰め合う二人を、僕は呆気に取られたまま見つめるしかない。


「はぁ…。」


数秒の膠着状態が続いた後、不意に和葉さんがため息を漏らす。


「はいはい、私の負けね、少しやり過ぎだったわ。」


そう言って携帯を仕舞った和葉さんは、『降参だ』と言わんばかりに両手を挙げながらソファへと戻っていった。


なにがなんだか全く理解できないが、どうやら僕は既の所すんでのところで助かったらしい…いや、【助かった】と言うよりは【助けられた】と言った方が正しいか…。

あの悪魔を一言も発さずに引かせた来宮先輩は、やっぱり只者じゃなかったようだ。


「《それ》の処理はあんたに任せるわ…当事者同士でカタを付けるのが一番でしょ…。」


僕を指差して《それ》呼ばわりした和葉さんは不機嫌そうに頭を掻く。その態度は遊びの途中で母親におもちゃを奪われた子供みたいだ。まあ、そのおもちゃってのは僕のことなんだけど…。


「そうですね。」


和葉さんによって後処理を任された来宮先輩がクルリと身を翻し、僕の方を振り返る。


「それでは、『カタ』を付けましょう。」


そう宣言した彼女は僕の顔を見てニコリと笑みを浮かべた。


「……っ。」


その瞬間、少しだけ自分の心音が上がるのを感じる。今更ながら彼女が相当な美少女であることに気付いてしまったからだろう。

さっきまでは状況が特殊すぎたせいで全く気にも留めていなかったけど、彼女の持つ美貌はかなりのものだ。

白磁のように透き通った肌に琥珀色の大きな瞳、スッと通った鼻筋の下に小さく自己主張する薄紅色の唇。腰まで伸びた射干玉のように美しい黒髪がそれらを一層と引き立てている。非の打ち所のない、まるで黄金比とゆうものを体現したかのような容姿。それに彼女の持つ物静かで柔らかい雰囲気が合さり、見ているこっちまで穏やかな気分になってくる。『大和撫子』ってこうゆう人を指す言葉なんだろうなぁ…。


ぼーっとそんなことを考えていると、不意に来宮先輩がその場でしゃがみ込みんで、床に落ちている【ある物】を拾い上げた。


「これで大丈夫でしょうか…。」


手に取った【それ】を確認しながら彼女は何やら呟いている。何を言っているのかは聞こえないが、なんだかすごく嫌な予感がする。


「うん…。」


一つ頷きなにやら意を決したように立ち上がると、彼女はスタスタと僕に歩み寄ってくる。そのまま僕の正面に立ち、小さく息を吐いた。


「では…。」


「すみません、ちょっと聞いてもいいですか?」


手に持ったを【それ】を堂に入った構えで振りかぶる来宮先輩に僕は率直な疑問をぶつけてみる。


「【それ】って、『包丁』ですよね?」


「ええ、そうですね。」


当然のことを尋ねる僕に彼女はキョトンとした表情でそう答える。鈍い色で怪しい光を放つ20cm長の刃物は誰がどう見ても『包丁』だ。それを戸棚から取り出して床に置いたのは僕自身なのだから間違いない。問題はその包丁を彼女が僕に向けていることだ。


「あの…その包丁で一体なにをするつもりなんでしょうか…?」


恐る恐る彼女にその目的を聞いてみると…


「全てのカタを付けます。」


なんとも予想通りの返答だった。


「安心してください、一撃で済ませる自信はありますし、痛みがあるとしても一瞬です。」


「あっ…そうですか…。」


…って待て、なんか納得しそうになったけど違うだろう。そもそも前提からして間違っている。


「それではいきます。」


「えっ、ちょまっ…」


僕が止めるのも聞かず、彼女は掲げていた包丁を一気に下へと振り下ろす。それと同時にブツリという何かを断ち切ったような音が聞こえ、僕の視界は暗転していった。


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