メランコリー・ウィーク
大学に提出した作品です。
駆け足なのは締切がやばかったため。
最近、彼女の様子がおかしい。
いや、彼女と言ってもガールフレンドや恋人の類ではなく、ただの三人称単数形の意味で使っているだけなので邪推はしないでいただきたい。
いつも一緒に遊んでいる五人組の一人で、唯一同じ市内から通っている幼馴染だ。
家が近く、よくあるギャルゲーみたいに毎朝起こしてくれる、みたいなことはないが、待ち合わせして一緒に学校に通っている。
クラスは違うが、昼飯はいつも五人で食べ、何か用事でもない限り一緒に帰る。
異変があったのはちょうど一週間前の土曜日のことだった。 午前のみにある授業に出席するため、学校に行かなければならないのだが、寝起きだけはいい彼女には珍しく、しきりに目をこすっていた。
『夜更かしでもしてたのか?何をしてたんだ?』と聞いても、『ちょっとね』、とはぐらかされた。
昼にご飯を食べようと集まってみれば、いつも自分で弁当を作っている彼女が持ってきたのは菓子パンと野菜ジュース。
そして極め付けに栄養ドリンクだ。
『コンビニのパンなんて添加物の塊を食べるなんてそんなに早死にしたいの?』、といつもはおとなしい彼女が珍しく真剣な瞳で俺に言っていたのがつい先週のことだ。
まあ、そういう気分のときもあるだろう、とその時は放っておいたが、流石に今日までずっととなると心配もする。
放課後は放課後で『用事あるから先に帰ってて』と真っ先にどこかに行ってしまう。
「いったい何してるんだろうな」
「それでお前はなにもしてないのか?こう、少ししつこく問いただしてみたり」
黄昏時の商店街の一角。
ゲームセンターの中にあるレースゲームのシートに乗ってハンドルを取りながらそいつが聞いてきた。
いつもつるんでる五人組の一人である元野球部の奴だ。
先日最上級生の最後の大会が終わったので、最近は放課後になるとこいつと二人でゲーセンに入り浸っている。
第三コーナーをドリフト。
NPCが操るベンツを内回りに追い越した。
「まぁ、忙しいときもあるだろ。たとえ男ができたとしてもそれは彼女の、うわ!くそ、コーナリングミスった」
俺は樹木に突っ込んだ愛車を見ながらため息をついた。
「それ、本心か?」
「……んなわけねーだろこのタコ頭」
「全国の坊主頭の人に謝りやがれ」
車を元のコースに戻し、レースに復帰する。
が、ふらふらとコントロールが定まらず、後続の機体にどんどん抜かれていく。
ギアがあがらない。
機体のことではなく、自分のモチベーションがだ。
ちらりと横を見ると人のいない筐体が二つ並んでいる。
この二人も彼女と同時期ぐらいにつれなくなった。
俺たち五人組の内の女子が三人いなくなるというのは自分にとって予想外にショックだったようだ。
その日の戦果はクラッシュが18回、横転が6回。
順位は聞くまでもないだろう。
いや、聞かないでくれ。
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帰り道を野郎と並んでも楽しくはないというのが俺の意見だがどう思う?
「まったく同感だな。それじゃお前は次の角を右に曲がれ。俺はまっすぐ行く」
「わかった。じゃ今日お前は野宿するわけだな」
「全力でごめんなさい」
こいつは一人っ子で、両親は結婚記念日旅行なんだそうだ。
ずっと野球に打ち込んできたため家事力なんてものはあるはずもなく、今日は俺の家に泊まっていくのだ。
「俺の部屋、ベッドしかないから寝具はなんかテキトーな物でいいか?」
「ああ。人が寝れりゃなんでもいいぜ」
「……棺桶どこにしまったかなぁ」
「埋葬されるッ!?」
「冗談だよ冗談。……あのまな板まだ使えるかなぁ」
「おいしくいただかれちゃうッ!?」
そんなどうでもいいようなイジリをしばらくしてからしばらく、ようやく俺の家に着いた。
どこまでも平凡な二階建ての一軒家。
ドア横のプランターに手をかける。
ふんっ、と少し踏ん張って持ち上げた下にはいつものように鍵が………………ない。
この場所を知ってるのは両親に俺、隣のハゲ、女子三人、隣の家の棚橋さん、後輩の薫ちゃん、音姫先輩、黒井先生に……いや意外と多いな。
まあ、その中の誰かだろう。
俺にアポはとってないが、それもいつものことだ。
とりあえず中に入ろうと取っ手に手をかけた。
ガチャ。
ガチャガチャ。
…………………………。
何故鍵をかけているのだろうか。
呼び鈴を鳴らしてみる。
ピーンポーン。
……。
『はいはーい、今でまーす!』
『待って千春。一旦覗き穴から確認して』
『あ、そうだった。ん~……。どどどどうしよう!もう帰ってきたよ!』
『くっ!あんのハゲ時間稼ぎしくりおったな!』
さて、これはどういうことかな?
「あいつら、今日のために一週間前から準備してたんだよ。お前が親御さんが遅番だって言ったから『それじゃ今年は私たちが祝ってあげよう!』って」
「お前は何もしないのか?」
「料理はからっきしだからな。今回はサポート担当だ。安心しろ、プレゼントは用意してやってるから」
「去年みたいに使い古したグローブなんて寄越すなよ?」
『急いで配置に着いて。真紀、クラッカー』
『おっとすまんすまん。ほな準備はええか?開けるで?』
『真紀ちゃん、雪ちゃん待ってよ、あ!』
扉が開いて最初に見えたもの。
トンガリ帽子に鼻メガネをかけた関西弁女。
クラッカーを両手に持つ寡黙な少女。
そして、フローリングの上でホールケーキに顔面から突っ込んでいる幼なじみだった。
俺は今日、また一つ大人になりました。
怠い話は好きですか?
めんどくさい話は好きですか?
くだらない話は好きですか?
つまらない話は好きですか?
大体そんな感じ。
メランコリー・ウィーク。