第3話 出会うはずのない二人
登場人物
走ってきた女 ?才
フーゴ目掛けて走ってきた女。見た目は割りと普通の女の人。あまりにも速いスピードで走ってきた為に、フーゴは彼女に恐怖感を抱いた。突然倒れて死んでしまったが…死因は詳しくは分かっていない。背中には火傷のような大きな傷があった。
何なんだこの男…何で上半身裸なんだよ!?…今12月だぞ…寒くないのか?
『何かあったんスか?』
男が訪ねてきた。
『えっ?…えと…』
ま…まずいな…僕は今この男を怪しい奴だと思ったが、この男からしたら 死体のそばでしゃがみ込んでいる僕の方が断然怪しいかもしれない。
『その人死んでんの?』
男は率直に訪ねてくる。
うろたえるな…別に僕はやましい事など何もしていない、正直に話せばいいだけじゃないか。
『そ そうだ…死んでるんだ…』
僕は答えた。
『あんたが殺したの?』
男はストレートに訪ねてくる。
『違うッ!!僕じゃないッ!!』
僕は自分でも驚くぐらい大きな声を上げてしまった。何を必死になってるんだ僕は…余計怪しいじゃないか。
『ふははッ!!必死すぎッ!!余計怪しいぜ』
男は笑った。
うぅ…どう説明すれば分かってもらえるだろう…僕は人に物事を説明するのは 苦手な方だ…今までに起こった出来事を そのまま話せば分かってもらえるだろうか…?
僕がどこから説明しようかと考えていると 男が先に口を開いた。
『別にそんな不安そうな顔しなくていいぜ。あんたが殺したんじゃないんだろ?…俺には分かる』
『!?……信じてくれるのか?』
『ああ…てか実は遠くから見てた(笑)』
『……見てたのかよ…』
『女があんたの首を絞めたと思ったら 突然その女が倒れたみたいだったな…』
どうやらこの男は 僕が道路に1人座り込んでから、 そこに女がやって来て…僕が首を絞められて…女が地面に倒れるまでの光景を一通り見ていたらしい…
だがそこを見ただけで 僕が殺したんじゃないと言い切るのは詰めが甘いような気がする…この女を見る限り死因は背中の傷だ…僕が前もって女を瀕死状態までもちこみ、ここまで逃げてきただけという可能性だってある。
この男は人を疑うことを知らないのか?つか何で上半身裸なんだよ?おかしいだろ…色々と疑問があったが反論はしなかった。僕が殺したんじゃないという事は 僕自身が一番分かっている。この男の言っていることは正しい。
『とりあえずアレだな……警察呼んだ方が良くね?』
男は言った。たしかにその通りだ…全く気が付かなかった。色々と日常とは かけ離れた事が起こりすぎて、常識的なことが頭に浮かんでこなかった。
さっきまでは、ここで起こっている事は 全て夢だと思っていたが…あの女に首を絞められた時の痛みは本物だった。あまりにも非現実的な事が起こりすぎて 僕はコレが夢だと思い込み 現実から逃げていたのかもしれない。
『そうだな…とりあえず警察を呼ぼう』
僕は自分のズボンのポケットから携帯電話を取り出そうとしたが…ない…どこかに落としてしまったのだろうか?仕方なく僕は男に連絡を頼むことにした。
『悪い どこかに携帯落としたみたいだ…君の携帯で警察に連絡してくれないか?』
『えっ?マジでッ!?俺が電話すんのかよッ!? 警察に電話なんかしたことねぇし!!スゲーこえーよ!!緊張すんなッ!!』
『……なら携帯を貸してくれ、僕が電話する』
『頼むわ!!』
すると男はズボンの後ろポケットから携帯を取り出し、僕に手渡した。
僕はすぐに電話しようと携帯をいじったが、画面は真っ暗のままだった。
『あれ?これ電源入ってないのか?』
『ん?ちょっと貸してみ』
僕は男に携帯を渡した。
『あれ~?電池切れてんのかな?分からん!!』
男はなぜか偉そうだった。
『仕方ない とりあえずこの女の人を道路の脇まで運ぼう。このままじゃ車に跳ねられてしまうかもしれないし…』
『おお~ 確かにそうだな』
僕ら二人は 死体を道路の脇まで運ぶことにした。そしてジャンケンで 僕が死体の頭の方を持ち、あの男が死体の足の方を持つことに決まった。
僕らは うつ伏せに倒れている 女の死体の目の前まで近づいた。相変わらず 肉が焼け焦げるような嫌な臭いがしたが…まだ腐敗が進んでいないだけマシだ…と僕は自分に言い聞かせた。
あの男は目を背けて 死体をあまり見ないようにしている。やっぱり怖いのだろうか?…どことなく体も震えている気がする……いやそれは寒いからか?…上半身裸だしな…無理もない。
そういえば 僕はまだこの男に名前を聞いていない事に気が付いた。名前ぐらい聞いておこうか…
『そういえばまだ名前聞いてなかったな お互い自己紹介でもするか』
『えぇッ!?ここで!?』
男はかなり引いている…
『分かった…自己紹介は死体を運び終わってからにしよう』
『うん…そうしてくれ…』
僕らは うつ伏せに倒れている死体を見た…一瞬 死体をあお向けにしようかと思ったが、僕はその女の顔を見るのが怖く うつ伏せのまま運ぶことにした。
僕と男は恐る恐る死体の体に触れた…まだ温かい…生きているみたいだ…いや本当に生きているのか?
僕はこの女が急に動き出すんじゃないかと ヒヤヒヤした… マジで怖い…心臓の鼓動も早まる…怖い怖い怖い怖い怖い…自分で運ぼうと言っておきながら 情けない…だって怖いんだもん…仕方がない…できることなら また走って逃げ出したい…そんな余計なことを思っていた。
だけど…やるしかない!!僕は覚悟を決めた。
『よし!!じゃあ死体を持ち上げたら はや歩きで道路の脇まで行くぞ!!』
と僕は言った。
急に僕が大きな声を出した為 男は一瞬 ビクッとしたが
『えぇッ!?わ わかった!!』
と 返事をしてくれた。
僕らは死体を持ち上げた。死体は思ったより ずっしりと重く感じた。
『よし行くぞッ!!』
『おう!!』
僕は はや歩きで道路の脇に向かった。だがあの男は僕のスピードについてきてくれず チンタラと運んでいる。
『早くしろ!!遅いぞ!!』
『そっちが速いんだってッ!!』
仕方なく僕は男のペースに合わせて死体を運んだ…なんとか無事に運ぶことができた。僕たちは死体とは少し離れたところに座り、一息ついた。
『ふぅ~…』『ふぃ~』
僕と男は同時に安堵の息をもらした。
『…そうだッ!!自己紹介だ自己紹介』
僕は思い出したかのように言った。
『そういえばそんなこと言ってたな…』
男は少し疲れているようだが、名前くらいは教えてくれるだろう。相手の名前を聞く時は、まず自分から名乗るのが礼儀と聞いたことがある。僕は自分から先に名乗ることにした。
『じゃあまずは僕からだな…僕の名前は風吾』
『フーゴ?…変わった名前だな…面白い(笑)』
男は少し笑った…結構カッコいい名前だと思うんだけどな…僕はそのまま自己紹介を続けた。
『神奈川 在住の普通の大学生だ…う~ん後は特に言うことないな…』
『神奈川に住んでんの!?』
『えっ?まぁそうだけど…』
男はどうでもいいところに食い付いてきた。
『次は君の番だ』
僕は男に自己紹介をするよう促した。
『俺か?…俺の名前は…翼…かな』
『ツバサか…いい名前だな…なんかそれっぽい』
何がそれっぽいのか自分で言っておいて よく分からなかったが、ツバサはそのまま自己紹介を続けた。
『え~と…まぁ静岡に住んでる…高校生…だな』
『高校生かよ…てことは僕より年下か……んッ?てか静岡に住んでんのか?』
『ああ…うん』
『てことは ここって静岡なのか?』
『知らないよ…そういえば俺ってば気付いたらこの道路の上にいたんだよねぇ』
『僕と同じだ…僕も自分が何でここにいるのかも 分かっていない…』
そうだ…何で僕はこんなところにいるんだ?…つか ここはどこだ?
僕は神奈川に住んでいて ツバサ は静岡に住んでいると言っている…普通に生活をしていれば 出会うはずのない二人が出会っている…
一体どういう事だ?誰かがここに僕らを連れてきたのか?…だとしたらなぜ?…いやマジで分からん…どゆことッ!?
考えても答えたなど全く出る気がしなかった。もう考えても仕方ない 行動あるのみだ…
『あっ!!』
と僕は言った。ツバサ はなんだコイツという顔で僕を見た。僕は1つツバサ に聞きたいことがあるのを思い出した。
『ツバサ ちょっといいか?』
僕は言った。
『なんだよ…』
ツバサ はちょっとイライラしているようだったが…僕は構わずツバサ に質問した。
『お前なんで上半身裸なんだ?』
どうでも良さげな質問に、ツバサは少し呆気にとられていた。
『ああ…なるほど…これか…』
ツバサ は少しの間 黙っていたが、いを決したように立ち上がった…
『その理由はコレだ…』
というと ツバサ はこちらに背を向けた…その背中を見た瞬間 僕はゾッとした!!
ツバサ の背中には肉なのか内臓なのか よく分からい奇妙な物体がへばりついていた…しかもかなり大きい…
僕はあの女の死体を思い出した…あの死体には 背中に大きな火傷のような傷があった…おそらくあの女はそれが原因で死んだ…
その傷と何か関係があるんじゃないかと…僕は不安になった。