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第19話 偽りのない偽善者

一緒に死んでくれる人って…


自殺かよ…


『…死ぬ為に僕を呼んだのか?』


(そうだね)


顔のない女はうなずいた。


奈落…又もや都市伝説だな…マサヤさんの言っていた三途の川といい何だ…この世界の人間はそういうモノを信じたくなるのか?…


もし都市伝説通りの奈落じゃないにしても…それに近いモノがあるという事なのだろうか?


(あるんだよ…この電車に乗った人は皆戻って来なかった…いや…多分戻って来れなかったんだ…今頃くたばッてヤがんだよ)


『ふざけんなよ…このまま一緒に奈落に落ちろッてかッ!?』


(そうだよォ…見捨てんのかぁあ偽善者ァーッ!!アハハハハハハッ!!(笑))


女は大声で笑った。


『一緒に死ぬ事が正義かァ!?おかしーッつのッ!!』


(何だァ…やっぱり助けてくンないんじゃん…)


『一緒に死んだとして…それッて助けたって言えるか!?むしろ逆だろッ!?』


(私が死にたいッて言ってンだから、それが私にとッて助けになんのよッ!!)


『それを止めんのが正義だろッ!?』


うん…今僕良いこと言ったな。


(言ってないよッ!!それこそ偽善だわ…死にたいから死ぬ…ソレッて悪い事かしら?)


『あ~分ッかんないけど…とにかく…他人を巻き込むのはよくないだろ?』


(はぁ?じゃあ1人で死ねばいいってわけェ?だったらもぅいいわ…さっさとこの電車から降りて)


『それも…駄目だ…あんたも降りるならいいけど…』


(あんたマジイライラすンなぁ…さっさ降りてくンない?)


顔のない女は、自分の両腕を組みながら言った。


何なんだよこの女…

情緒不安定かよ…


(聞こえてッから)


僕も…何だ…


死にたがッてる人を助けて何になる?…ここで無理矢理この女を助けたとしても…この女はまた死のうとするだけだ…放っておけばいいッて…意味ねぇッて…僕だけでも…逃げようか…?


でも…


(ほらなぁやっぱなァ(笑))


顔のない女は、ゲラゲラと笑った。


(どいつもコイツも自分が一番なんだッ!!他人の為に自分を犠牲にできる奴なんていない…この世の中は偽善者だらけ…いや…偽善者にさえなれてないよ…ほんとクソみたいな連中ばッかッ!!)


女は僕の頭の中で怒鳴り散らした!!


『僕は…あんたに死んでほしくない…』


(口だけは達者だなぁあ偽善者はッ!!あんたの心理は読めてんだよ!!)


顔のない女は言った。


『僕の話しを聞いてくれ…君は…何で死にたいんだ?』


(さぁ?絶望したからかなァ?人に)


『…君…名前は?』


(名前なんてどうだッていいッしょ?どうせ死ぬんだし)


『まだ死ぬか分かんないだろ?』


(もぅ死ぬッて決めてるからなぁ私)


『死ぬのが怖くないのかよ?』


(あなたは怖いんでしょぉ?私は怖くないねぇ(笑))


『怖いはずだ…普通そうだろ?…みんな死ぬのが怖ぇんだ…』


(私は生きるのが怖いわ…人の心を見る方が…よっぽど怖い…)


『じゃあ見なきゃよくないかッ!?』


(勝手に見えてくンだよ…あんたは分からないだろうけど…世の中知らない方がいい事もたくさんあるの…特に人の心理は…知らない方がいいよ…絶望するだけだからね)


顔のない女はそう言った。


『それは…ここが狂った世界だからだ…みんな生きるのに必死なんだよ…だから自分の事しか考えられなくなる…でも現実は違うだろ…君は現実に帰りたくないのか?』


(現実も同じだよ…むしろ現実の方が酷いかもしれないし…帰りたくなんかない…てかどうせもぅ帰れないよ)


『帰れるぞ…生きてさえいれば…生きる事を諦めなきゃ』


(誰かを蹴落としてでも…でしょ?…ハハ(笑))


『違う…誰も蹴落とさなくたって…生きていられる…帰れるぞッ!!』


(だから私は帰りたくないんだッて)


『これから先…何が起こるかも分かんないのに…死んだら何もなくなるんだぞ…生きてさえいれば…なんかスゲー奇跡が起こるかもしんない』


(かも…かよ(笑))


『君が今死にたいと思っていても…明日 明後日の君は違うかもしれない…来週や再来週になったら…死にたいと思っていた自分が本当に馬鹿らしく思えるかもしれない…数ヵ月後には…メチャクチャ希望に満ち溢れているかも分かんないだろ?』


僕は顔のない女に言った。


(そんなわけない…馬鹿みたいだわ…)


女は…下を向いてしまった…


思った事をそのまま口にしたせいで…もしかしたらとりとめのない事を言ってしまったのかもしれない…


僕は…人に物事を説明するのがヘタクソだ…てかまぁ言わなくても…この女は僕の考えている事が分かんだっけか…でも…


『つかアレだ…とにかく死んだらそこで終わりだ…奇跡も起こせないッて…まぁ自殺なんていつでもできんだし…後回しにするッつーか…いつでもできるから…今死ぬ事はないんじゃないか?…今死ぬのをやめて…ただ先伸ばしにするだけだと思えば…気持ち的にだいぶ楽になるんじゃないか…?』


僕は言ったが…


(…)


顔のない女は…黙ってしまった…


その無言がメチャクチャ怖かった…

言葉のチョイスミスったな…

自分でも何言ってるか全然分かんなかった…

もしかしたら物凄い的外れな事を言ってしまったかもしれない…



すると女は…突然顔を上げ…


(じゃあ…人は何の為に生きてんの?)


顔のない女は僕に聞いた。


何の為に…生きてるか…?


『…』


僕は…答える事ができなかった…


………


(はっ(笑)…やっぱり…結局生きる意味なんてないじゃないッ!?あんたは死ぬ事が悪い事だと勝手に決めつけてるだけでしょッ!!)


『分かんないけど…とにかく生きんだよ』


(偽善者が…くっだんねェ~)


『死んだら…もう戻れないんだぞ…てか今すぐ死ぬ必要なんてあンのかよッ!?』


(今日死ぬのも明日死ぬのも変わんないだったら…私は早く楽になりたい…でも1人で死ぬのはイヤ…だから私は今日までグダグタと生きてきた…だけど…それも今日で終わりにしたい)


『チョっト待ッてくんねーか!?明日ッ!!明日まで待ってくれッ!!』


(明日…?)


『今死ぬ事はない…死ぬか死なないかは明日決めよう』


(だから私は早く楽になりたいんだッてばッ!!)


『君が人に絶望したってんなら…今日1日人を見ててくれ』


(誰を見るの?…)


『僕でもいい…とにかく見ててくれ』


(何ソレ?ただの時間稼ぎにしか思えないわ…)


『そうかもしれない…ただ君が思ってるほど…世の中酷い人間ばかりではないぞ…自分を犠牲にしてでも誰かをかばったり助けたり…そんな人間もいるって事を教えてやる』


(嘘ばっか…あんたの中には誰かを見捨てたという罪悪感が見えるよ…あんたも悪者…そうでしょ?)


『……そう…だ』


この女の言うとおりだ…結局は僕も偽善者…偉そうな事は言えない…良い人ぶってるだけじゃないか…僕は皆を見捨てて逃げた…それは事実なんだ…


(ふーん)



ガタン…ガタン…



ガタン…ゴトン…



キキィーィーィィ…ィーィィ…ィ…



気が付くと、次の駅のホームで電車は止まった。


見た感じ普通の駅だ…


今降りれば…まだ助かる…


どうしよう?…


と僕が考えていると…


突然…


顔のない女が、椅子から立ち上がった。


すると…


(じゃあ…明日…明日まで…生きてみるわ)


顔のない女は、確かにそう言った。


『マ…マジでッ!?』


僕は嬉しかった。


僕の言った言葉が、心に響いてくれたんだろうか?


正直明日までってのが引っ掛かるけど…今すぐ死のうとしてた人を、引き止める事ができたんだ、僕のした事は無駄じゃない。これが生きる切っ掛けになってくれれば、最高なんだが…


(どちらにしろ明日死ぬんだから…変わんないよ)


『今日と同じ事を毎日繰り返せば変わんだろ…明日も明後日も…僕は君が死ぬのを止める…そうすりゃ君は無限に生きてんじゃないか?』


(何言ってんだ?)


『…とにかく…死なないなら電車を降りよう』


そう言って…


僕は先に電車から降りた…


しかし…


『あれ?』


僕はまだ電車の中にいた…



どういう事だ…?


(どうしたの…?)


顔のない女が、心配そうに僕に聞いた。


『いや…何でもない…』


と僕は返事をし…


僕はまた電車から降りた…


だが…


僕はまだ電車の中にいた…



え?…


電車を降りたはずなのに…僕はまだ電車の中にいる…


いやいやいやいや…ないないないない…おかしいおかしいおかしーッてッ!!


(出れないの…?)


『…うん』


(私が試してみる…)


そう言うと…


顔のない女は電車を降りた…


だが…


女は何故か電車の中にいた…


(あら…?)


何だ今の…


顔のない女は…何か見えない力で…電車の中に引き戻されたようだった…


(何だこりゃ?)


そして…


プシュー


という音が鳴り…

電車はまたゆっくりと走りはじめた…


ガタン…ガタン…


ガタン…ゴトン…


(どうすんの?)


顔のない女は僕に聞いたが…


『…分からない』


僕の頭の中は…真っ白だった…

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