第17話 逃走
汚ない世界だ…
どいつもコイツも…
自分の事しか考えられないのかよ…
………
僕も…そうだ…
だから…悔しくて泣いたのかもしれない…
そんな自分が許せなくて…嫌になったから…僕は泣いたんだ…
僕は…
………
偽善者だ…
僕とマサヤさんは、サオリさん達がいる林の中へと入って行った。
『この林の中に…皆いるはずです…』
僕はマサヤさんに言った。
『ツバサ…無事だといいな…』
マサヤさんが心配そうに言ってくれたが…
それは…本心なのか…?
僕は疑った…
躊躇なく人を殺す男だ…本当はツバサがどうなろうと…知ったこっちゃないんじゃないだろうか…?
ましてやさっき会ったばかりの男なんだ…マサヤさんにとって…ツバサは赤の他人でしかない…
それが普通と言えば普通だ…心配している振りをしてくれているだけでも…善意と受け取るべきなのだろうか…
………
僕らは目的の場所にたどり着いた…
だが…
『あれッ!?…いない…』
そこにいるはずの…ツバサ・サオリさん・チヒロちゃんの姿はなかった…
『み…皆どこ行ったんだ!?…どうしていないんだよッ!?…な…何で…ッ!?』
僕は焦った…
もしかして…何かあったのか…?
『落ち着けフーゴ…本当にここなのか?』
マサヤさんはそう僕に聞いたが…
その場所には…あの時チヒロちゃんが持っていた救急箱が地面に置いてあった…フタは開けっ放しのままだ…
『間違いないです…チヒロちゃんが持っていた救急箱がある…さっきまでここに皆いたんだ…』
何なんだよこの世界は…どこまで僕を苦しめれば気がすむんだ…この世界は狂ってる…
『もしかしたら…どこかに移動しただけかもしれない…』
マサヤさんは僕を安心させるように言ったが…
何で移動する必要があるんだ…?
移動したにしても…やはり何かあったから移動したんだろう…
『僕…探して来ます…』
僕はそう言うと…
林の奥へと駆け出して行った…
『おい待てッ!!』
と後ろの方からマサヤさんの叫ぶ声が聞こえたが…僕は足を止めなかった…
半分…放心状態だった…
今思うと…自分でも何やってんだろうって感じだな…
ここでマサヤさんとはぐれれば…余計に混乱するだけなのに…
………
もしかしたら…僕は1人になりたかっただけなのかもしれない…
僕はみんなを探しに行ったと言うよりも…ただ走っていただけだ…
きっと…全てを投げ出したかったんだと思う…
この狂った世界から逃げたかったんだ…
僕は走った…ただひたすらに走り続けた…
逃げ切れるはずなんてないのにさ…
馬鹿みたいだな…ホント…
気が付けば…僕はまた泣いていた…
僕は…弱い…
いつも泣いてばっかだな…
つか何で泣いてんだよ…
しかも走りながら…
子供かよ…小学生かよ…
ちくしょう…
………
僕は皆を見捨てた…現実から逃げた…
だから僕は泣いてんだ…
………
『あッ!!』
不意に僕の視界に、金網のようなものが飛び込んできた。
ガシャーン!!…
ガギガザザザ…ドンッ!!…
僕は金網のフェンスに勢いよく激突し、そのままフェンスを突っ切りながら、下へと転げ落ちた。
『ッてェ…』
何やってんだか…
ろくに前も見えてないのかよ…
僕はそのまま仰向けの状態で地面に倒れ込み、何気なく空を見ようとした…
しかし…
あれ?…空が見えない…
上には天井があった…
どことなく見覚えのある天井だ…
僕はその場で起き上がり、辺りを見回した。
『ここって…』
何だか妙にホッとした…
ここからなら家に帰れる…そんな錯覚が込み上げてきた…
下にはちゃんと線路も引いてある…
そこは…
駅のホームだった…
誰もいないが…かなり広いホームだ…
どこの駅だ?…ここ…
僕は天井に吊るされている、駅の看板を見た。
看板には、元々○○駅と書かれていたであろう場所に、上から赤黒い血のようなもので《脱落者→(笑)》とデカでかと書かれている。
何だこれ…?
誰かのイタズラ?…
はは…趣味の悪いイタズラだな…
………
そうだ…
早く…帰ろう…
僕は帰る…今すぐ帰るんだ…
………
僕は電車の時刻表を見た…
電車は後10分ほどで来るようだった…
後10分か…
その10分がとても待ち遠しい…
僕は1人…駅のホームで電車が来るのを待った…
電車に乗れば…全てが終わる…帰れるんだ…
長い悪夢だったよな…
ホント…
僕はその場でしゃがみ込んだ。
………
………
………
帰れる…
はずなんてない…
分かってるよ…そんなこと…
僕は…狂ってんだ…
色々な事がありすぎて…
精神的におかしくなってるのかもしれない…
はは…
今のこの状況でさえも笑える…
きっと頭の回路がぶッ壊れたんだ…
僕は…逃げた…
皆を見捨てた…
全てを放り出したんだ…
皆に会わせる顔もねーよ…
『ハハ…ははは…』
笑える…すっげぇ…
馬鹿みたいに…
『はは…ははははッ!!…ハハハハハッ!!……ぅう…う…』
………
何なんだよ…ちくしょぅ…
『うぅ…ぅぅ…』
僕は…涙が止まらなかった…
………
ツバサ…死んだかな…?
サオリさんもチヒロちゃんも…
大丈夫かな?…
みんな…無事だろうか…?
………
『わあああああああーッ!!!!!!』
僕は思いっきり叫んだ!!
もう…他人の事なんてどうでもいいだろ…
ほんの数時間一緒にいただけの人間だ…
仲間でも友達でもない…ただの顔見知りだ…
いなくなったって…どうってことないだろう…
自分の事だけ考えればいいんだ…
他人なんて放っておけよ…
それでいいだろ…それで…
………
ガタンガタン…
ガタンゴトン…
『えっ!?…』
不意に聞き覚えのある音が聞こえてきた。
『電車だ…』
マジで電車走ってんのかよ…
線路の先を見てみると、普段から見慣れている電車が、こちらに向かって走って来ていた。
電車の前面部分には、血のようなもので《おいでおいで(笑)》と書かれている…
運転席には誰も乗っていなかった…
『な…何なんだ?』
すると…
キィーィィィィキーィーィィ…ィィ…ィ
僕のいるホームに、その電車は止まった。
そして…
ガーッ…
と…車両の扉が開いた…
中を覗いて見ると、車両の椅子の端っこに、女の人が1人腰かけていた。
誰だ…この人…?
僕はその女の顔を見た…
えッ…!?…
その女の顔を見た瞬間…
僕は鳥肌が立ち…
一瞬…金縛りのように動けなくなった…
その女の人には…顔がなかった…
顔がない…
が…
のっぺらぼうとは違い…
鼻と耳だけはちゃんとある…
だがそれ以外何もなく…
全体的にツルンとしている…
何なんだ…この人…
それに…この電車も何だ…?
運転席には誰も乗っていなかった…
まるで幽霊が動かしているかのようだ…
僕は…怖くなった…
この電車に乗ったら…
もう帰れないような気がした…
乗るのは…やめておこう…
余計な事に首を突っ込まない方がいい…
今までにも…散々酷い目にあってきたろ…
僕は後ろを振り返り…
この駅から立ち去ろうと…歩き出した…
すると突然…
(助けてょ…)
と…
僕の頭の中で…女の人の声が鳴り響いた…
僕は足を止め…その場で振り返った。
電車の中にいる顔のない女が…僕の方に首を傾けている…
今…
この女が…僕に助けてと言ったのか…?
僕が見えているんだろうか?…
僕に助けを求めているのか…?
………
僕は…電車の中に足を踏み入れた…
中に入った瞬間…
ガーッ…
と…電車の扉が閉まった…
………
この顔のない女は…僕に助けてと言った…
だから…助ける…
それが偽善であっても…
誰かを助けるという行為は…嘘なんかじゃない…
これでいいんだ…
それに…
僕に…この人を放っておく事はできない…
この人を見捨てたら…
これから先も…
僕は誰かを見捨て続ける…
そんな気がしてならなかったんだ…