第15話 死亡遊戯
この男を止めるとなると…腕の一本や二本へし折って…戦闘不能状態に追いやるしかないだろう…
多分口で言って分かる相手じゃないんだ…アイツは自分を被害者だと言い張っている…やられたからやり返している…そんだけ…何の罪悪感もないのかもしれない…
『偽善者かょ…おめェみてーのが一番ムカつくんだよな…』
男は右手に持っている爆弾を、お手玉のようにポンポンと跳ねさせながら僕に言った。
あの男が持っている爆弾さえ全て回避できれば…僕が負ける事はまずない…
男が僕に爆弾を投げつけてきたら…瞬時にそれをかわし…次の爆弾を吐き出す前に…あの男に全力で駆け寄り…男の腕や足に蹴りをかまし…骨をへし折る…そしてまた逃げて…男との距離をおく…これを繰り返す…
トンネルの中で、僕とツバサを襲った怪力男のパンチと同じぐらい、僕のキックが強力だとしたら、あの男の骨を折るのは容易い…
僕の足はそれなりに丈夫だ…あの男の腕や足が折れる事はあっても…僕の足なら耐えられるはずだ。
そんなに上手くいくか分からないが…男の攻撃を確実に回避しながら…かつ殺さずに戦うには…この戦い方が一番だと思う…ヒット&アウェイ戦法…チキンプレイだが…悪くない…モ○ハンでも大体そんな感じだしな…
どんなに傷付けても…命だけは奪うつもりはない…
あの男に自分のやっている事の愚かさを教えてやる為にも…やってやる…
『…第一球目』
男は片足を上げ、野球のピッチャーのようなホームをとった。
…何だコイツ?
『投げましたッ!!(笑)』
男は半笑いでそのまま僕に爆弾を投げつけてきた。
まるでゲームでも楽しんでいるようだ…随分と呑気な奴だ…
僕は瞬時に全力で走り、爆弾をかわした。
バァン!!…
後ろの方から小さく爆発音がした。
やっぱ余裕だ…余裕でかわせる…
とりあえずアウェイは成功した…次はヒットだヒット…あの男が爆弾を吐き出す前に…一発喰らわしてやる…
僕は男に向かって全速力で走った…
が…
すでに男は右手に爆弾を持っていた…
あれ?…もう吐き出したのかよ…
『第二球…オラァッ!!』
男は独自のホームで、爆弾を僕に向かって投げつけた。
『やべッ!!』
僕は全速力で走っていたという事もあり、急に方向転換は出来ず、爆弾を回避する為、仕方なくその場で高く跳び上がった!!
『ぅおッ!!』
僕は団地の三階くらいの高さまで跳んだ。
そして…
バァァンッ!!!
真下から爆発音が聞こえた…
危ねぇ…ビビったぁ…死ぬかと思った…
そう思った矢先、下からとてつもない爆風が僕を襲った…
『ぉわッ!!』
その爆風によって、僕の体はさらに上へと浮き上がり、バランスを崩した。
あれ?…これヤバくねぇか?…
空中じゃ身動きがとれない事に…僕は気が付いた…
僕は空中で落ちながら男を見た…男は右手にまた爆弾を持っている。
『オラよォッ!!』
男は空中にいる僕に向かって爆弾を投げつけた。
うわああああああああッ!!!!!!
無理無理無理無理ッ!!!!
つか何だよッ!?卑怯だぞッ!!
そんな事したら死ぬだろッ!?やめてくださいッ!!
やだッ!!死にたくないッ!!死ぬの怖ぇッ!!
僕は心の中で叫んだ!!
だが…結局…
僕の目の前に…爆弾がやってきた…
そら来るわ…分かってるよ…
爆弾は…
ヴゥーン…と
音をたて…激しく光りはじめた…
僕は気が気じゃなかった…
死んでたまるかッ…こんなとこで…
諦めるか…ちくしょう…
『死ぬかよォッ!!!』
僕は瞬時に光る爆弾を手に取り、男に投げ返したッ!!
『てめェそれ投げ返してくんじゃねぇよッ!!』
男はそう怒鳴ったが…もう遅い…
バァァンッ!!!
爆弾は男のところまで到達せず、僕と男の丁度真ん中辺りで爆発した。
『ぅわッ!!』『ぅおぉッ!!』
僕と男は、爆風で互いに逆方面に吹っ飛ばされた。
ザッ!!
僕は空中でバランスを崩しながらも、上手いこと足から地面に着地する事ができた。
ドン!!
『うッ!!』
男は背中から地面に着地し、背中を思いっきり強打したようだった。
『痛てェ…』
男はフラフラと…生まれたての子馬のように…おぼつかない様子で…地面に立ち上がろうとしている…
あれ?…これ今チャンスじゃね?…
やるなら今しかねーだろ…
僕は全速力で男に駆け寄った!!
そして…
『ぉおッ!!』
僕は走りながら、立ち上がろうとする男の足を、横からなぎ払うように、思いっきり蹴り飛ばした。
その瞬間…
ボギィァッ!!!!
爆弾男の両足が…ありえない方向に折れ曲がった。
『ぅあぁあッ!!!!!』
男はのけ反るように地面に倒れ…僕はカマイタチのように…そのまま向こう側へと走り抜けた…
『はぁ…はぁ…』
僕は自分が怖くなった…人の骨をへし折る感覚…いや…アレは折れたと言うよりも…どちらかと言うと砕けた感じだった…あまりにもモロい…
やり過ぎたか…
僕の中に…妙な罪悪感が生まれた…
いや…でも…ああでもしなければ僕の方がやられていたかもしれないんだ…
僕は…間違っていない…僕は…
僕は恐る恐る…後ろを振り返った。
男は地面に倒れ込んでいる…僕は男の足を見た。
男の足は…スネの辺りから折れ曲がっていて…まるで両の足の間接が…二つずつあるような状態になっていた…
男は折れた自分の足を両手で掴み…力いっぱい引っ張って…折れ曲がった両足を元の方向へと戻した…
グギャ!!…
『ぅう…ッ!!』
男は自分の足を押さえながら…痛みをこらえ…歯を食いしばりながら…何度も立ち上がろうとしている…痛みを必死に乗り越えようとしているようだった…
立ち上がっては倒れ…立ち上がっては倒れを繰り返している…
まるで手足をもがれた虫のように…もがき続けている…
僕はその姿を見て…自分のした事の恐ろしさに気付き…喉に何かが詰まったような感覚を覚えた…
『もういいッてッ!!…勝負はついたろ…終わりだ…』
僕は声を振り絞って、爆弾男に言ったが…
男は突然その場で無理矢理立ち上がった。
『ぅあ…ぅう…』
男はうめき声を上げた…
その瞬間…
スネから足がグニャッと折れ曲がり…男はまた地面に倒れた…
『ぅう…ちく…しょぅ…ッざけんな…』
爆弾男は思いっきり地面を殴り付けた。
『もうやめろよ…最初に言ったように…僕はお前を殺すつもりはない…お前が負けを認めれば…助けてやる』
僕はこの男をサオリさんのもとに連れて行くべきかどうか…考えた…
この男が負けを認め…敵意をなくしてくれれば…助けてやってもいい…むしろ助けたいと思った…
すると…突然…
『ぅヴぅおぉえぇッ!!』
男はうつ伏せの状態で、地面に爆弾を吐き出した。
『まだやる気かよ……お前がその爆弾を僕に投げつけてきたとしても…僕は直ぐ様お前に爆弾を投げ返してやる…今のお前の足じゃ逃げ切れない…やめた方がいい…』
僕は爆弾男にそう言ったが…
男は倒れたまま、僕に向かって爆弾を投げつけた…
僕は走って、簡単にそれをかわした。
バァン!!…
虚しく爆発音だけが、鳴り響いた。
『意味ねぇって…もうやめろッ!!』
『ぅるせぇょ…ちく…しょぅ…』
男は僕を睨みつけている。
『ぜっ…てぇ…殺してやる…』
『僕を殺したところで何になるんだよ?…もうやめよう…』
僕がそう言った直後…
『ぎぁあああああああッ!!!!!!』
突然女の人の悲鳴が聞こえた…
爆弾男はその声を聞いて…ハッとした様子だった…辺りをキョロキョロと見回している…
すると…
団地の影から、全身火だるまになった女が転がるように飛び出してきた。
『シンジッ!!…シンジーッ!!』
女は泣きながら、誰かの名前を叫んでいる。
誰だあれ?…どうなってる?…
僕は突然の出来事に…唖然とした…
女はその場に倒れ込んだ…女の体はメラメラと燃え上がっている…
『メグミかぁ…ちく…しょぅ』
爆弾男は地面を這いずりながら、その女に駆け寄った。
あのメグミとかいう女の体は…あっという間に燃え尽き…火は消え…メグミは真っ黒な灰となった…
『メグミィ…メグミ…ぅう…』
男はメグミの体を揺すりながら…泣いていた…
『あああああああああああーーッ!!!!!!』
男は絶叫した…
たとえ足を折られても…あんなに強がっていた男が…今は子供のように泣きじゃくっている…
男の様子からして…メグミはこの男の仲間か…あるいは恋人だったのかもしれない…さっきメグミは…シンジ シンジと名前を呼んでいた…
おそらくこの爆弾男が…シンジという名前なのだろう…
でも…何でメグミは全身火だるまになっていたんだ?…多分事故なんてことはないだろ…?…て事は…やはり誰かがやった…?…
『お前か…やっぱ…』
シンジは僕の方を見て言った。
僕がやったとでも言いたいのか?…犯人は僕じゃない…それは僕自身が一番よく分かっている…
『やったのは…僕じゃない…』
『ちくしょう…許さねぇ…許さねぇぞッ!!』
シンジはボロボロと涙をこぼしながら言った。
『違うッ!!僕じゃないッ!!』
と僕が言ったその時…
シンジの肩から黒い煙のようなものが立ち上がった…すると…
ボォアッ!!…
突然シンジの肩に火がついた…
『ぅうああぁあッ!!』
シンジは必死にその火を消そうとしたが…あっという間に全身に燃え上がった!!
『あぁあああーッ!!!わああぁあぁあーッ!!!!』
シンジは火だるまになり、地面を転がるようにのたうち回った。
何で…突然火がついたんだ…!?
僕が…やったのか…?…
………
違う…僕じゃない…違う…絶対…
僕はパニックになり…何もできず…その場に立ち尽くしてしまった…
体の震えが止まらなかった…
シンジの体の火は…さらに強まった…
『許さねぇえーッ!!ぜってェ許さねぇからなぁああッ!!!』
シンジは最期にそう泣き叫び…すぐに灰となって…動かなくなってしまった…
まるで…地獄のような光景だった…
何なんだよ…マジで…
訳が分からない…どうして火が…何で?僕のせいかよ?
僕のせい…?…
僕の中で…目眩がするほどの罪の意識が込み上げてきた…僕は…僕をやめたくなった…
ぅう…
『ぅヴッ!!』
僕は膝から地面に倒れ込み…その場で嘔吐した。
『げほッ!!…げほッ…』
しばらく何も考えられず…
『ぅぉえッ!!…ぉぇ…』
その場で何度も吐き続けた…
『はぁ…はぁ…』
すると後ろから突然…
ザッザッザッ…と妙な音がした。
やっぱり…違う…
火をつけたのは僕じゃない…誰かいる…後ろに…
僕は思いきって、後ろを振り返った。