第13話 嘔吐爆弾
緑色の何かが、僕の顔の横を通り過ぎた…
それは一直線にツバサに向かって行く。
どう見ても…やべぇよな…
『ツバサ避けろッ!!』
僕はツバサに向かって叫んだ!!
ツバサはえ?という顔をしたまま、その場に立ち尽くしてしまった…
するとそのまま…
その緑色のモノは、ツバサの胸辺りに当たった。
『ぅおッ!!きったね!!』
とツバサが言ったと同時に…
その緑色のモノは
ヴゥーン…と音をたて…
突然激しく光りはじめた…そしていきなり…
バァァンッ!!!!
耳がキーンと鳴り響くほどの、とてつもない爆発が起こった!!
『ぅわッ!!』『きゃッ!!』
その瞬間、僕とサオリさんはその爆発によって巻き起こった爆風に吹っ飛ばされ、リビングの壁に思いっきり叩き付けられた。
ドン!…
『痛ッ』
あまりの衝撃に…僕はそのまま床に倒れこみ…少し意識がモウロウとしていた…耳からはキーンという音が鳴り響くだけで…なんの音も聞こえない…一瞬鼓膜が破れたのかと思ったが…多分そんな事はないと思う…
つか何だよ…爆弾?…なんつー爆風だ…おかしーッつーの…やはり窓の外の死体もコイツがやったのかよ…てかみんな無事かッ!?
ツバサ…サオリさん…特にツバサは僕らよりもモロに爆発を受けたはずだ…アイツ大丈夫かよ…僕はまた泣きそうになった…
僕は右足が折れているという事もあり、すぐには立ち上がれず、その場でうつ伏せの状態で部屋の中を見回した。
リビングの中は白い煙が立ち込めていて、みんなの無事を確認することができない。
『ツバサッ!!サオリさん!!』
僕は必死に二人に呼び掛けた!!
『…』『…』
だが…なんの返事も返ってこなかった…
まさかな…
僕はその時…一瞬頭の中で最悪の状況を想像してしまった…
返事が返ってこないという事は…みんな死んだのか…?…いや…死んでいないにしても…もう手遅れな状態なんじゃないだろうか?…そんなネガティブな事をつい考えてしまう…
いや…違う…さっきの爆発のせいで…みんな耳がおかしなって…僕の声がちゃんと聞き取れていないんだ…だから返事が返ってこない…それだけだ…僕は嫌な考えを頭から必死に振り払った…
諦めるな…もしみんな大怪我を負っていたとしても…生きてさえいれば…まだ助けられる…最後まで諦めない奴は救われるんだ…僕はそう信じる…その希望だけは失いたくない…
僕はその場で両足で立ち上がった…右足は折れているはずだが…なんの痛みもなかった…もう治っているのだろうか?…それとも僕の足の感覚が麻痺してるだけなのかもしれない…
僕は辺りを見回した…部屋の中に立ち込めていた煙は…薄れはじめていた…
僕がいる反対側の壁際に…サオリさんが倒れているのが見えた…サオリさんの頭はパックリと割れ…ダラダラと血を流していた…
ちくしょう…死なせるかよ…
僕は泣くのを必死に堪えた…
僕は直ぐ様サオリさんのもとに駆け付け…
『サオリさん!!』
肩を軽く揺すりながら呼び掛けてみた…反応はなかったが…ちゃんと呼吸はしていた…気絶しているようだ…
僕はサオリさんを背負い…ベランダに向かった…
このままベランダから飛び降りて…サオリさんを安全なところまで連れて行く…僕の足なら団地の三階から飛び降りても…問題ない…大丈夫だ…
絶対に助けるんだ…絶対…
ん?…
ベランダにはツバサがいた…ツバサはベランダの床に座り込んでいたが…見た感じ無傷だった。
『ツバサ無事だったか!!良かったッ!!』
僕はホッとした。
『ああ…俺は不死身だからな』
とツバサは言い…その場で立ち上がった。
『お前…』
僕はすぐにツバサの異変に気が付いた…
ツバサは背中からボタボタと大量の血を流している…ツバサの背中のヤツは…表面が酷くエグられていて…もうボロボロだった…
おそらく爆発が起きる寸前…ツバサはあの背中のヤツで…自分の身を守ろうとしたのだろう…
僕はそんなツバサを見て…どうしていいのか分からず…ただ目に涙が浮かんだ…
とにかく…今は逃げるしかない…
『ツバサ…逃げるぞ!!…お前は下の階のベランダをつたいながら降りて…ここから逃げろッ!!』
僕は涙声でツバサに言った。
『ああ…逃げてくれ…俺は逃げねーけどな』
ツバサはそう言った。
『はぁッ!?…何言ってんだッ!?お前も逃げるんだよ!!』
僕はツバサに向かって怒鳴った!!
するとツバサは…一旦リビングの中の様子を見てから…僕の目を見てしゃべりはじめた…
『もしかしたらよォ…マサヤはアイツに殺されたんじゃないか?』
とツバサは言った。
僕もその事は気掛かりだったが…あまり考えないようにしていた…あのマサヤさんがやられたとは…僕は思いたくなかった…
『それは僕にも分からない…とにかく今は自分の命を優先しろ…』
と僕はツバサに言ったが…
『もしそうだとしたら…アイツにもマサヤと同じ目に合わせてやるよ』
ツバサの目は本気だった。
『馬鹿な事を考えんな…ツバサ…それにお前じゃアイツには勝てないッ!!』
僕はとにかくツバサを止めたかった。
『正義は勝つんだぜ…知らねーのか?』
ツバサは冗談混じりの口調で言った。
『今から人を殺そうとしているお前の…どこが正義何だよッ!?それにお前…このままじゃ出血多量で死ぬぞ!!ちゃんと状況を考えろよッ!!』
僕は必死に怒鳴った!!
『俺は不死身なんだ…絶対負けねぇ…』
とツバサが言った後…すぐに
『はは…仲間割れかよ…笑えんなァ』
と あの爆弾男の声と共に
ゴロゴロ…と
緑色の嘔吐爆弾が、僕らの足下に転がってきた。
ヴゥーン…と音をたて…
爆弾はまた激しく光りはじめた…
『飛び降りるぞツバサッ!!』
と言い…僕はサオリさんを背負ったままベランダから外に飛び降りた…
が…
ツバサは部屋の中へと駆け出して行ってしまった…
『ちくしょうふざけんなッ!!』
僕は空中で叫んだ!!
その瞬間…
バァァン!!!!…と
僕の後ろからとてつもない爆発音が鳴り響いた…
絶望の音だ…
ふざけんな…ふざけんなよ…アイツ…馬鹿だろ…死にたいのかよ…
その音とほぼ同時に…すごい爆風が僕とサオリさんを襲った…
僕らは下に落ちながら前へと吹き飛ばされた…
その爆風のせいで、着地しようとした地点を大きく通り過ぎたが…
タッタッタッタ…と
走るように…なんとか無事に地面に着地する事ができた。
無事に着地できたことから…やはり僕の右足はもう治っているようだ…
なぜこんなに早く治ったのか…僕自身にもよく分からなかったが…これならすぐにサオリさんを安全なところまで連れて行ける…もちろんツバサの事も心配だが…今はとにかくサオリさんの無事を確保することが…僕の役目だと思った…
僕は少し走り…団地の周りにある林の中で…サオリさんを背中から降ろし…地面に寝かせた。
ここなら他の敵が来たとして、見つかりにくいし、安全だろう。
とりあえず、僕はサオリさんの頭を止血した方がいいと思い、サオリさんの頭に目をやった…が…
あれ?…
さっきまでパックリと割れていた頭の傷が、全くと言っていいほどなくなっている…
たしかに血の跡は残っているが…傷は全く見当たらなかった。
もう…治ったのか?…いくらなんでも早すぎるだろ……まさか…
僕は思った…
もしかしてこれがサオリさんの能力なのか?…自己再生能力…いや…そういや僕の足も割と早く治ったな…
僕はズボンの裾をめくり…自分の右足を見た…足の骨はほぼ完治しているようだが…まだアザは残っていた…
それに比べ…サオリさんの頭の傷は…跡も残らず綺麗に治っている…
やはりサオリさんの力なのだろうか?…僕の右足が早く治ったのも…サオリさんのおかげなのか?
サオリさん本人はその能力を自覚しているのかどうかは分からないが…もし…サオリさんの近くにいるだけで…治癒力が何倍にも増すんだとしたら…そんな都合の良い力があるのかは疑問だが…ないとも言い切れない…
もしそうなら…ツバサの背中のヤツの傷も治せる…
どちらにしろ…ツバサはあのままじゃ絶対に助からない…あのボロボロの体で…アイツを倒せるとは思えないし…それに早く止血しないと…出血多量で死んでしまうだろう…とにかく治療する為にも…無理矢理でもツバサをここに連れて来よう…
連れてくると言っても…あの爆弾男も一緒に来てはもともこもない…あの男を何とかしなくてはならないが…
………
僕は走って、団地のベランダの下のところまで戻ってきた。
バァン!!!!
あの爆発音が聞こえた…どうやらツバサはまだ戦っているようだが…ツバサは大丈夫だろうか?…今ので死んだなんて事はないよな…
僕は301号室のベランダを見た…
ベランダには誰もおらず…さっきの爆発のせいか…ベランダが少しグラついていた…
だが…僕のジャンプ力なら、ここから直接301号室の部屋まで跳べるはずだ。
僕は左ひざを地面に着け…両指を地面の上にそえた…
僕はその場でクラウチングスタートのポーズをとった。
頼む…生きててくれ…
ダッ!!…
僕は全速力で駆け出した!!
そしてそのまま…
ザッ!!…
301号室へと向かって跳び上がった!!
行けるッ!!…
……ッてあれ?
僕の体は301号室ではなく…その上の401号室へと勢いよく向かっていた!!
やべぇ…跳びすぎた…
ちくしょう…ありえねー…自分でもビックリだ…
我ながらアホすぎる…僕は馬鹿だったのか…
ドォ~ン!!
僕は401号室のベランダの柵の部分に激突した!!
『ごほッ!!』
僕は痛かったが…とっさにベランダの柵を両手で掴んだ…
カッコ悪…マジダサすぎ…
僕はベランダの柵を掴んだまま…スルスルと下に降り…401号室のベランダにぶら下がる形となった…
よし…まだ挽回できる…
僕は自分の体を振り子のように揺らし…勢いをつけ…パッと手を離し…そのまま301号室の窓から部屋の中へと飛び込んだ!!
ダンッ!!…
上手いこと着地する事ができた…良かった。
『うぉッ!!……はは…お仲間が助けに来たぜ』
あの爆弾男の声が聞こえた。
僕は部屋の中を見回した…
僕から見て…部屋の右側の壁際にツバサがいた…ツバサは壁にもたれ掛かるように座り込んでいる…
頭と鼻からダラダラと血を流し…意識はほとんどないようだった…
大丈夫かよ…
ツバサ…何でお前は逃げないんだ…
僕はその姿を見て…泣きたくなった…
ツバサはゆっくりと首を傾け…僕の方に目をやった…
ツバサの顔には表情がなく…ただ呆然と僕を見つめていた…目からは涙が流れている…
ツバサはもう危険な状態だった…
今すぐにでもサオリさんのところまで連れて行かなければ…助からないだろう…
『ツバサッ!!一緒にサオリさんのところまで逃げるぞッ!!その後に僕がこの男を倒してやるからッ!!』
僕はツバサに聞こえるよう、大きな声で叫んだ!!