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第12話 緑色の何か

リビングの窓から見える外の光景は…まるで戦場のようだった…


地面には顔と胸の部分がエグられた死体が転がり…


その近くには…全身火だるまになり…泣き叫んでいた男…今は地面に倒れ…動かなくなってしまった…


僕は目の前で起こっている事が信じられなかった…


映画やゲームの中でしか見たことのない光景…それが今、僕の目の前で起こっている…


戦争ってこんな感じなのか…?…ひでぇ…


何でこんな事すんだよ…?…やめろよ…マジで…


こんな事して楽しいか?…馬鹿だろ…


人の命がこんなにも重く感じた事は今までになかった…


死にたくない…僕は本気でそう思った。



つか何なんだよ…


何で僕はこんな戦争みたいな事に巻き込まれてんだ?…意味分かんねぇ…ふざけんなよ…


帰りたい…もう嫌だ…


こんな夢…早く覚めろよ…


帰らせてくれ…ちくしょう…


『早く目ェ覚めろよ…起きろよ早くッ!!!』


僕は思いっきり叫んだ!!


実際に口に出して言えば…現実に帰れるんだと…馬鹿な期待をした…


『目ならもう覚めてんだろ…夢じゃねぇんだよ…』


ツバサが僕に言った。


『…夢だろ…リアルな夢を見てるんだ…』


僕はツバサに言い返した。


『これが夢だなんて本気で思ってんのかよ?』


『そうだよ…サオリさんも言ってたろ?…これは誰かの夢だって…』


『じゃあ窓の外で人が死んでんのも…全部嘘かよ?…死んでるように見えるだけってか?』


『…それは…分からない…』


多分死んでると思うが…そう断定はしたくなかった…


たしかにツバサの言いたい事も分かる…これは夢というよりも…明らかに現実に近い…


夢を見てるのではなく…どこか違う世界に飛ばされた…と考えた方がしっくりくる…本当にそうなのかもしれないな…


だが…そんな事は重要じゃないんだ…どちらにせよ…僕らはこの世界から脱け出さなくてはならない…


とにかく…今のこの状況を一つ一つ理解していく事が…この世界の脱出に繋がるんだ…そう考えなければ…希望さえなくなってしまう…


『マサヤさんは?…』


不意にサオリさんが現れた。


チヒロちゃんの姿はない、外で待たせているのか。


『マサヤさんは…分からないです…』


僕は言った。


そういえばマサヤさんはどこに行ったんだ?…窓の外の死体を見たショックで…マサヤさんの事は頭からぶっ飛んでいた…


外で死んでいる二人は…おそらくマサヤさんではない…という事は…あの外の二人を殺したのは…マサヤさんなのだろうか?


1人は顔と胸がなくなった状態で死んでいる…多分さっきの爆発で弾け飛んでしまったんだと思うが…それはマサヤさんの能力でやったのだろうか?


それにもう1人は…全身火だるまになって焼死してしまった…さっきの爆発が原因で…火が体に引火し…全身に燃え上がったのか?


マサヤさんがやったとすると…やはりこの部屋に敵がいたという事か…


外に死体があるのは…おそらく爆発で外に吹っ飛ばされたんだと思う…それ以外に思い付かない…


だが…その肝心のマサヤさんはどこに行ったんだ…?


マサヤさんも爆発で外に吹っ飛ばされたのだろうか?…でも自分でやっといて…自分も爆発に巻き込まれるって…マサヤさんにしてはアホすぎる気がする…いや…マサヤさんはアホなのか?…う~ん…


『サオリさん…マサヤさんがどんな能力を持っているか知っていますか?』


僕は思い切ってサオリさんにその事を聞いてみた。


『えっと…何か…殺傷能力のあるものだと話しに聞いたけど…実際に見たことはないよ』


サオリさんはそう答えてくれた。


殺傷能力のあるものか…やっぱさっきの爆発はマサヤさんの力なのだろうか?…


だとしたら…人体を弾け飛ばすほどの威力だ…マサヤさんは やはり僕らの敵う相手ではないようだが…


それにしてもマサヤさんの姿が見えない…やっぱ外に吹っ飛ばされたんだろうか?まさか自分の能力で死んだなんてことはないと思うが…大丈夫か…?



気が付くとサオリさんが窓の外を見つめていた…


『あの服…春哉くんだ…』


とサオリさんが言った途端…


サオリさんは体を震わせ…その場で泣き崩れてしまった…


どうやら…あの顔と胸がなくなった死体は…ハルヤという男だったらしい…サオリさんの様子からすると…サオリさん達の仲間だったのだろう…


だとすると…さっきの爆発はマサヤさんが起こしたものではないのか?…マサヤさんが平気で仲間を巻き添えにするほど…非道な男なら話しは別だが…


マサヤさんはそこまで冷徹な男だろうか…?


マサヤさんがツバサと口喧嘩をした時…僕はマサヤさんがそんなに悪い人だと思えなかった…それにマサヤさんは足の折れた僕を背負って…ここまで運んでくれた…それに飼ってもいない犬の話しにも食い付いてきた…


本当に非道な男なら…少なくとも僕を背負ったり…チワワの話しに耳を傾けたりなんかしない…いや…正直なんの根拠もないんだけど…とにかく僕はマサヤさんを信じたかった…


あの顔と胸がなくなった男が、サオリさん達の仲間だとすると…もう1人の、火だるまになって死んだ男は誰なんだろう?…あれも仲間なのだろうか?


その事を、泣いているサオリさんに聞く勇気は…僕にはなかった…


それに今は全身黒焦げで…多分誰だか判別はつかないと思う…


そういえば…


不意に僕は思い出した…


死体は2人…たしかチヒロちゃんは団地の階段を上る前…この部屋に5人はいると言っていた…他の3人はどうした?…


もしあの火だるまになった男が…敵でなかったとしたら…あのハルヤとかいう男を爆死させた犯人が、近くに潜んでいる可能性は十分にある…


チヒロちゃんを1人にしておくのはヤバいんじゃないか…?


僕はすぐに玄関に向かおうと思ったが、サオリさんを置いて行くわけにはいかない。できるだけみんなで固まって行動した方がいいだろう。


僕はサオリさんを見た…


サオリさんはその場に座り込み…まだ泣いていた…


こう言う時なんて声をかけたらいいか…僕には分からなかった…


でも…とりあえずこの部屋から出た方がいいと思い…僕はサオリさんの肩に手を置き…


『サオリさん行きましょう…チヒロちゃんを1人にしておけないですし…マサヤさんを探さないと』


とサオリさんに言った。


『……そうだね…』


とサオリさんは一言だけ返事をし…涙を拭って立ち上がった。


サオリさんは思ったより強い人だった…こうでもなければ…この世界で生き延びるのは難しいのかもしれない…


『とにかく一旦外に出ましょう…チヒロちゃんが不安ですし…それに多分マサヤさんも団地の外にいるんだと思います』


僕はサオリさんとツバサの顔を見ながら言った。


『そうだな…とりあえず団地の周りを一周して…マサヤを探してみようぜ』


とツバサが言い…サオリさんもコクリとうなずいた。


そして…僕らがリビングから 廊下の先にある玄関に向かおうとした時…


バシャーッ…ピッチャピッチャ…と


廊下の両側にあるどこかの部屋から…妙な音が聞こえてきた…


『な…何?』


サオリさんの顔がこわばった。


今の音は…水が跳ねるような音だった…もしかして風呂場か…?


僕は風呂場に目を通していなかった事に気が付いた…


ペッチャペッチャペッチャ…と…誰かが歩いている音がする…何だよ?…こえーよ…


ビチャッ…と…誰かがフラフラと廊下に現れ…そのまま壁にもたれ掛かった…


『マサヤじゃねぇの?』


と とっさにツバサが言ったが…着ている服からして…マサヤさんではないようだった…


もしかしてサオリさん達の仲間だろうか…?…だがサオリさんはただ呆然と見ている…


壁にもたれ掛かったその人は…こちらに向き直り…ペッチャペッチャ…と…僕らの方に近づき…僕らのいるリビングに入ってきた…


僕らは少し後ずさり…その人を見た。


それは全身びしょ濡れになった男だった…


あッ…


僕は男の顔を見て…気が付いた…


その男の顔は…僕が窓越しに見た男そのものだった…


『あなた…誰?』


サオリさんはその男に訪ねた。


『…』


男はサオリさんを睨み付けただけで、何も答えなかった。


サオリさんが知らないという事は、やはりこの男は仲間ではなかったようだ…


…ん?


僕はその男を見て、さらに妙な事に気が付いた…


この男の服はびしょ濡れだが…少し焼け焦げたような跡が残っている…


首の裾の辺りは…酷く焼け焦げていて…男の首から顎にかけて…火傷の跡がある…


前にもこんな怪我をした人を…僕は見たことがある…


最初に僕の事を追いかけて来た…あの白い服を着た女だ…あの女と何か関係があるのか?…もしかして…


『君たちのお仲間さぁ…マジ頭おかしーってェ…ありゃ反則だ』


男が突然口を開いた。


仲間…?…マサヤさんのことだろうか…?


『マジ風呂に水たまってなかったらさぁ、俺死んでッからねェ!!』


その男は僕らを睨み付けながら言った。


『何だお前?…ゴチャゴチャうっせーなぁ…』


ツバサが素直な感想をもらした。


『はぁ?…今カチンときたぜ…おい露出狂…まずはお前からだ』


と言うと…


男はツバサを一瞬見やり…


『ぅヴおぉぶぇえッ!!』


突然その場で嘔吐し…何か緑色のモノを口から床に吐き出した…


『何だコイツッ!?マジ汚ねーッ!!』


ツバサはその場でさらに後ずさった。


僕とサオリさんは唖然とし…すぐに身動きがとれなかった。


男はその嘔吐物を右手で拾い上げ…ニヤニヤと笑いだした…


その緑色の嘔吐物は…ドクンドクンと…まるで心臓のように鼓動している…


何だ?…あれ…?…


『まずは1人目…』


とその男は言い…


手に持っている緑色の嘔吐物を、ツバサに向かって投げつけたッ!!

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