六幕
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公太子ウーセルは淡々と盤上を見ながら銀縁眼鏡の位置を指で直し、長考する父王を呆れたように青色の目を細めた。
「…いつまで長考しているんですか。父上」
「っ…ぐぅ…」
ロドニーⅡ世は金色の髪をかきむしり、向かいに座る同じく金色の髪の息子を睨み付けた。
「お前、強すぎるぞ!手加減しろ!」
「…既にしてます」
いかにも熱血漢で熊な父といかにもクールビューティ系で明らかに母似の息子。全くもって似ていない親子だ。似ているのは髪色と瞳の色だけだろう。
執務を終えたウーセル公子は父親と久しぶりのチェスに興じていた。
「なぁ、ウーセル。お前にクリエストロから結婚の申し込みがあったがどうする?」
「どうするもなくも、受けるおつもりでしょう?まあ、私も24ですから、身を固めておいた方がよいですし。あ…王手。」
「ムッ…ちょっとまて。」
「待ちません。そう言えば、毛の色が変わった娘がアリエルの護衛になったらしいではないですか。」
その言葉にロドニー王は顔をチェス盤からあげて、淡々とした息子に呆れた表情を向けた。
「お前なぁ、いい加減、妹離れしろよ。アリエルが心配なのはわかるが、もうあの子は嫁に行くんだぞ?」
「…別に私はただ王家のことを考えているのであって、アリエルに依存しているわけではありません…。」
プイっと顔を横に反らすウーセル公子に、ロドニー王はニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべた。
「とか言いつつ、アリエルが図書館に引きこもると、食事やらお菓子やら持ってくのは何故だろうなぁ。」
「…仮にも王女が、餓死されては王家の醜聞になると思っての行動であって、他意はありません。」
「では…アリエルが好きそうな本を毎年匿名で誕生日に贈るのはどこのどいつだ?」
「さあ、まったくもって見当がつきませんが、何処の誰でしょうね?」
あくまでも白をきるウーセル公子に、ロドニー王はそれ以上追求するのをやめて、目を細める。
「で?家族以外の人間に興味がないお前が、護衛の娘が何だと言うんだ? 」
その言葉にウーセル公子は視線を父親に戻すと、眼鏡の位置を直し、スッと見据える。
「…本当にアリエルを守るのに足る娘なのですか?」
「なんだ、実力が知りたいだけか。身元調査なんぞお前の事だからとっくにやっているだろう?調べてもわかるとおりの実力者だ。」
「…11歳でギルドに入会し、15歳で魔法騎士に昇格。竜退治15回、盗賊、捕縛18回。ギルド屈指の上位ランカー。…そんな無茶苦茶な経歴を、17歳の小娘が持っているとは到底信じられません。」
「…そりゃあ、まあ…」
「しかも、嫁ぎ先も貧乏貴族であるファベル家にはいささか不釣り合いなギャレット家。ファベル家より上位の貴族達からの非難も多いと聞きましたが?」
そう、ユーリットの結婚には思わぬ弊害が生じていた。
国の思惑より、自分の家の面の皮を重んじる貴族達からしたら、今回のユーリット達の縁談は衝撃的なものだった。
【軍事同盟強化のためとはいえ、なぜファベル家の娘が選ばれたのだ?うちの娘ではいけないのか?】
という声が出てきたのだ。
貧乏貴族であるファベル家に突然舞い込んだ縁談は破格なものだった。
相手のアルファン・ヴィ・ギャレットは現王太子の乳兄弟で近衛師団師団長で、25の若さで階級は少将。
容姿もよく人柄も真面目、家柄は侯爵位をもつ大貴族。
はっきり言って貧乏伯爵の娘には勿体無さすぎる優良物件だ。
そんな人物と結婚することを知った貴族達の中には、ユーリットに対抗しようと、剣も握った事がない娘に無理矢理剣を持たせて、アリエル姫の護衛騎士にと推薦してくる輩も出てきた。
「あのなぁ、ユーリット嬢の結婚相手をギャレット家の小僧に決めたのは5ヶ月も前なのに、今更文句を言われてもねぇ」
「私に言っても仕方ないでしょう…五月蝿い貴族共におっしゃって下さい。」
そもそもこの縁談が成立したのはアリエル姫に護衛騎士になれる人間がこの国では、ユーリットしか該当者がいなかったせいだ。
嫁ぐ理由がアリエル姫の護衛騎士になると言うのなら、本当に強いのか見せてみろとウーセル公子のように難癖までつけてくるに決まっている。
「…あー…面倒くせ。わかったわかった。3日後の騎士団の公開訓練に彼女をださせるから、実力とやらを存分と見るがいい。」
天の邪鬼な息子の相手が面倒臭くなったロドニー王は、丸投げするようにそう言うと、チェス盤に目をむける。
父親からあっさりお許しがでて、逆にウーセル公子は困惑した表情を父親に向けた。
「本当によろしいのですか?」
「よろしいに決まってんだろうが。うちの騎士団の馬鹿どももうるせぇし、ちょうど、お披露目しようと思っていたとこだ」
「どうして…それほどまでにユーリット・ファべルを信用なさるのですか…?」
そのウーセル公子の言葉に、ロドニー王はニヤリッと口元を吊り上げる。
「信用?ちがうな。これは確信だ。なんせあのエドワード・ファベルが将軍職を辞してまで育てたいといった娘だぞ?強いに決まっている」
はっきりと言い切った父親に、ウーセル公子は不愉快そうに眉を吊り上げだ。
「ならば、篤とその実力とやらを見るとしましょう。」
「おう、そうしとけ」
ウーセル公子はソファから立ち上がると、ロドニー王に一礼すると、部屋を後にした。
出ていった息子の後ろ姿を見ながら、ロドニー王は苦笑した。
「…アリエルを側妃として嫁がせることがまだ気に食わないのか。…まったく、困った公太子様だなぁ」
15歳の妹の結婚に反対したのはウーセル公子と幼い兄弟だけだ。一見、冷たい印象のウーセル公子だが、ああみえて家族想いな性格をしている。
抑えようとああ冷たい態度や言動をするが、端々にだだ漏れだ。
今回、ユーリットの話題を持ち出してきたのも、妹の婚姻を勝手に決めた父親への八つ当たりだ。
公王になるには未だに未熟だが、変に父親のいいなりになる優等生じゃないだけましだ。
(…さて、見ものだなエドワード。お前が孫に何を教えてきたか…じっくりと見させてもらうか。)
ロドニー王は、わくわくした子供のような笑顔を浮かべると、王手をかけられた駒を指で弾き倒した。
***
「騎士団の公開訓練ですって?」
アリエル姫はその話を兄から聴いて、顔を真っ青にさせた。
「…父上が是非とも参加しろと仰せだ。問題のファベル伯爵令嬢は?」
「ユーリット殿は、ハミエラ妃に呼ばれて席を外しております。それより、3日後とは随分と急な申し入れですが」
「仕方なかろう?時間がないのだから」
「兄様!ユーリットは結婚前の花嫁ですのよ! 怪我をしたらどうするんですか!」
「…医師と僧侶も手配済みだ。なんだアリエル、やけにファベル嬢のが気に入ったのか?」
その兄の言葉にアリエル姫はうつむくとスカートの裾を握る。
「…ユーリットは、性格も優しいし、話してて凄い気が和らぎます。聞き手上手で…」
ポツリポツリと溢すユーリットの想いにウーセル公子は目を細める。
「《※麗しの蜜夜(※恋愛小説全58巻)》の話を内容を話しても引かなかったし、《※青の聖戦(英雄騎士伝説系・全175巻)》を愛読する同志よ!!し・か・も!《※華燭の宴(恋愛小説全25巻)》のアバインと友のコルトスとの死別の話をすると一緒に感動して泣いてくれたのよ!!あんなにわたくしの趣味に付き合ってくれる人…今までいなかった!!」
「……。」
「……。」
目をキラキラさせて恋する乙女のようにユーリットを語るアリエル姫に、サリアは頬をピクピクと痙攣させ、ウーセル公子は眉間に皺を寄せた。
「だから、あんな野蛮な訓練に参加させるのは断固反対いたしますわ!嫁入りまえのユーリットを傷つけることは…同志として、主として見過ごせません!」
いつの間にか己の知らぬとこで、人見知りが激しい妹がここまで懐くとは…常に冷静を心がけるウーセル公子も流石に内心驚愕したようで、その瞳に嫉妬の炎が宿る。
「…同志だと?何を馬鹿な…私は認めんぞあのようなポッと出の田舎者。お前の面汚しになるに決まっている。
大体なんだあの乏しい容姿は!胸も尻もない、愛嬌もない、品もない。ないない尽くしのがさつな女が王族の護衛騎士とは笑わせてくれる。」
つい、思ってもいない言葉を言うとアリエル姫は、目を見開きキッと兄を睨み付けた。
「まあ!酷い!ユーリットを貶すなんて…いくら兄様でも聞き捨てなりませんわ!わたくしの大事な騎士を貶す兄様なんて…嫌いよ!」
プンスカと怒り狂うアリエルにウーセル公子は無表情のまま、目線を反らし立ち上がる。
若干、目元が潤んでいるのは気のせいだろうか。
「…父上の伝言は伝えた。時間は朝9時、場所は第三演習場だ。遅れるなよ?」
「まって兄様!ユーリットを参加させるとはまだ…!」
淡々と伝えると、足早にアリエル姫の部屋をでていくウーセル公子の背中を見ると、アリエル姫は嘆息した。
「…何もあんなに早足で出ていかれなくとも」
「ブフッ!」
「サリア?」
ウーセル公子の様子を一部始終みていたサリアは思わず吹き出してしまったが、咳払いをしてなんとかごまかすと、アリエル姫に向きなおった
「…とアリエル姫、これはユーリット殿のお披露目なんですよ。」
「お披露目…?」
「はい。王宮内では未だにユーリット殿の力量を疑う輩がたくさんいるんです。
中にはユーリット殿を引きずり降ろしたいと考えている者もおります。」
「…ユーリットを…」
「ユーリット殿の実力を見れば、はっきりと婚礼の本来の目的を思い出すことでしょうね。」
そう言うと、サリアは口元を吊り上げる。
平和な気持ちのままで生き抜けるほどエリストナ王国の後宮は甘くはない。
剣術や武術を付け焼き刃で覚えた「平凡」なお嬢様では、アリエル姫の護衛は荷が重いと、この訓練で知ることになるだろう。
「さて、姫様にも少し我慢していただかねばなりませんね。」
「我慢?」
「ユーリットの実力を見て貴族達は黙る事になるでしょう。生半可な腕ではアリエル姫を守れるはずがないと知らしめるのが今回の目的です。…まあ、姫様の護衛騎士になりたいと夢見るムサイ独身騎士共もいい加減諦めるでしょう。」
「…へ?」
「…姫様も見学しているなかでユーリット殿にボコボコにされたなら、精神的効果は二倍になるかしら…」
「さ、サリア?もしかして、わたくしに…あのマッチョの固まりが集まる集会に私も出ろと?」
「はい、エリストナ王国に輿入れするときに騎士団も随行しますし、今のうちに慣らしましょうね。」
にこやかな笑みを向けるサリアに、アリエル姫は顔面蒼白になりながら思わずカタカタと震えはじめた。
そして、何かがぷちんと切れる音が聞こえた
「い、イヤァーーーー!マッチョきらぁああい!!」
その日、泣き叫ぶ姫の声が城中に響き渡り、姫の下の弟王子達が爆笑していたという。
アリエル姫の叫びを聞いたユーリットは慌ててハミエラ妃の部屋から出ようとしたが、女官たちに阻まれた。
「ユーリット、そんな格好で何処にいくの?」
「妃殿下…」
ユーリットの今の姿は純白のドレス…つまり、ウェディングドレスの姿をしている。
ユーリットがアリエル姫の元から離れて、ハミエラ妃に呼ばれたのはウェディングドレスの仮縫いのためだ。
「うらやましい…コルセットなしでその体系…」
「肌も白くてスベスベ…もっちり肌が素晴らしいですね」
「コンセプトは《雪の妖精》にしましょう!」
「生地はエルニア産の絹にしましょう!やや水色が入った白が良いですわね。装飾は真珠と銀の刺繍糸…お花は百合にしましょうか」
「型はマーメイドより、清純なAライン?」
「馬鹿ね、ユーリット様は小柄で華奢だからエンパイヤラインとベルラインみたいに、裾をふんわりさせるのが良いわ。ネックラインはパフスリープね!これだけは譲れない!」
やる気満々のお針子達だが、飛び交う単語が既によくわからない。
マシンガンのように飛び交うお針子達の声に、ユーリットは若干引き気味な表情で、ハミエラ妃をみれば本人はニコニコとして、お針子達を見ている。
「あの…妃殿下?」
「ユーちゃんのウェディングドレスはね、エリーゼさんの希望なの。うちのお針子達は優秀だからデザインは任せてね」
ウェディングドレスは質素なもので…と言おうとしたら先に牽制されてしまいユーリットは押し黙る。
母の希望なら仕方ないとユーリットは半ば諦めた。
「…あと、このウェディングベールも貴方のお母様から預かってきたのよ。わざわざ手製のベールを貴女に贈るなんて…素敵なお母様ね」
ハミエラ妃の手の中にある美しい白百合と蔦柄の刺繍が施された白いベールをみて、ユーリットは病弱な母を思い出し、キュッと唇を噛む
本当なら母のエリーゼがウェディングドレスを娘のためにあつらえたかったに違いない。
母が娘のウェディングドレスを選ぶことは、この国では別れの儀式であり、母親が最後にしてやれる祝福だ。
エリーゼは体が弱くとてもじゃないが、王都になんて来れない。責めてもの祝福を精一杯、ベールにこめたのだろう。
「……。」
「…結婚式には来れそう?」
「…多分…無理でしょう。」
結婚式に出るのは兄二人と父と親戚の従姉妹と伯父夫婦、あとは仲人である王弟・メルウェル公爵と護衛の騎士団が参列するぐらいだろう。
本来は母にも参列して貰いたいが、王都にも来れない母に、さらに遠いベルーシに「来てくれ」なんて到底言えない。
「…そう」
ハミエラ妃は残念そうに目を伏せると、ユーリットの頭にそっとベールをかけてやる。
ユーリットの白い髪の毛をすっぽりと覆うベールは粉雪のように淡く、ユーリットの顔立ちを柔らかく見せる。
本当に雪の妖精のようだ。
「まぁ、素敵!…さあ、皆さん。このベールに合うウェディングドレスにしてね。」
「「はい、公妃様!!」」
その返事にユーリットは再び苦笑いを浮かべ、突進してくるお針子達をどうかわそうか思案しながら、ドレスの裾に手を伸ばした。
更新が滞り申し訳ありません。
今回登場したウーセル王子の容姿を詳しく説明すると三つ編み眼鏡です
緩い感じの三つ編みに眼鏡です。容姿は母似で、非常に美人です
性格はツンデレで過保護でシスコンです。多分嫁さんは苦労するタイプ
アリエルに嫌いと言われただけで涙ぐむ、ちょいヘタレ具合が弄りキャラになりそうです。
ウェディングドレスのイメージ画を活動報告に載せてみます
(できなかったらすいません。)
閲覧ありがとうございました