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幕間


様々な感想を頂き、ありがとうございます。


今回はちょっとした番外編というか、小話です。



エリストナ王国のギャレット家の屋敷にはユーリットの花嫁道具が着々と届けられていた。


その目録を手に持ちながらアルファンは、隣で優雅に紅茶を飲む男をみて眉間に皺を寄せていた。



「おい、クロード。なんでここに殿下がいるんだ?」


「今朝早くに、飛竜にのっていらして…その、お通ししたらまずかったでしょうか?」


戸惑う家令にアルファンは頭を抱えたい気分になった。


結婚が1ヶ月をきり、アルファンは王宮を離れ、ベルーシのギャレット家の屋敷を訪れていた。


あの後、父親に抗議しにいったら国王から結婚しろと直々に命じられ、渋々結婚の支度のためにベルーシにやってきたのだ。


けれど何故か乳兄弟の王太子が先にベルーシに到着しており、優雅に茶を飲んでいる。それを見てアルファンは気が遠くなるのを感じた。



「殿下、誰の飛竜に乗ってきたんですか?」


「さあ?貝だか臼だか解らないが、そんな感じの竜騎兵だったと思う。」


「…今度はカイウスの飛竜ですか…」



エリストナ王国が誇る竜騎兵隊。最強と吟われる竜騎兵達は相棒である飛竜をこよなく大事にしている。今頃、この王太子が乗ってきた飛竜の乗り手は泣きながら王宮中を探し回っているに違いない。


可哀想に…



「今、忙しくて…殿下の相手をしていられないのですが…。」


「じゃあ、その間。オフィーリアに相手をしてもらおうかな。久しぶりに彼女にも会いたかったし、堅いこと言わないでよ」


「今、オフィーリアを持ってきますから……お願いですからじっとしてて下さいよ。」



アルファンはエルンストに釘をさすと、客間から出て、自分の書斎へと向かった。


『あら、随分とお久しぶりね我が主。』


書斎に入ると壁際からクスクスと鈴のような笑い声が響き渡り、アルファンは脱力した表情でそれを見た。


女性の声が部屋に響きわたるが、その姿はなく、あるのは壁にかかっているのは美しい白いサーベルのみ。

至高の芸術品のように美しく、ほっそりとした女性のような刀身はこれまた見事な鞘に収められている。



「…オフィーリア。」


その名を呼べば、白い剣から再び笑い声が響く


トリギストフ聖魔十剣のひとつ「抑止の聖剣オフィーリア」

トリギストフの作った剣の中で最も美しいと言われた剣がそこにあった。


アルファンはこの剣と契約していたが、このベルーシの館にずっと放置している。


元々アルファンは華美な装飾の剣は好きではなく、扱う剣も片手剣のオフィーリアとは真逆の両手剣であったため、オフィーリアを特に使うこともなく、ここ数年ずっと壁に飾って放置していた。


『一年ぶりかしらね。今度結婚すると聞いたけど本当?』



「どこからそれを?」


面倒な奴に知られたと言わんばかりのアルファンに、オフィーリアはくすりと笑う



『ここ、

鍛練所の近くだから兵士達の声が聞こえてくるの。《アルファン様が嫁を貰うみたいだが、聞いた話だとそうとう厳つい女らしい。そんな猪女を貰われるアルファン様が可哀想》…だって。上司思いな兵士さん達ですこと』



アルファンは苦虫を噛み潰した顔になった。確かに結婚相手の異名は多々ある。女竜殺し、盗賊ホイホイとか…一部の兵士達からは筋肉質で、腹筋割れてて、上腕二等筋が発達したゴリラ女ではないかと、アルファンの嫁の容姿で賭博をしている輩もいる。

アルファンも内心恐々としており、別な意味での夫婦生活に不安を感じていた。


(とりあえず、後であいつら絞めよう。)


ニヤニヤとしていた館の兵士達をボコボコにしようと決意をすると、アルファンは意識をオフィーリアに戻す


「本当だ。アリエル姫の護衛となる女騎士らしい。」



『素敵、話があうといいなぁ』


「…いっそ俺との契約を破棄して、その女騎士と契約をするか?」


半分本気でそう提案するとオフィーリアは『私が貴方ほどの良い男をみすみす手放すと思う?』とあっさり却下されてしまった。



「…今更問うが…なぜ俺を選んだ?」



『私たち十本は共に在りたいという主を本能的に選んでしまうから…何故と問われても困るわ。』



「…剣としてろくに使ってやれないのにか?」





『仕方ないわ。だってそれは私が選んだ結果なんですもの』


「そうか…。」



『ねぇ、お嫁さんを貰う気分はどうなの?』


話題を変えるような明るい声のオフィーリアに、アルファンは再び険しい顔つきになった。


不機嫌な表情からして気分は最悪なのは伺える



「最悪だ。親父に抗議しにいったら問答無用で殴られたし、陛下に至っては懇切と丁寧に、正式な勅命までだしやがった。」




『あらら…。』



「もっと最悪なのが、陛下は内密に俺の結婚の準備をしていたらしく、先程会った教会の司祭の前で恥をかいたぞ。」




式の日取りの都合はつくか、大慌てでベルーシ大聖堂の司祭に聞きにいったアルファンは、既に父親のローランドが式の予約をとっていたことに驚き赤っ恥をかいたのだ。


オフィーリアは思わずアルファンに同情した。



政略結婚だと言うのにきちんと自分で結婚の準備をしようとするあたり真面目と言うか実直と言うか…貴族でも愛人を囲うものが多い中で、アルファンは確実に浮気なんて出来ないタイプだ。


父親達のした行為は少なからずアルファンの自尊心を傷つけたに違いない。


『かわいいお嫁さんが来ると良いわね。』


「…抱き上げられる背丈だといいがな。」


不安そうにポツリと呟くアルファンにオフィーリアは呆れたように『相変わらず真面目ねぇ』と笑った。



この国の結婚式では式場から家まで、新郎が花嫁を運ぶ習慣がある。



アルファンも、当然花嫁を抱き上げて、式場の大聖堂からこの館まで運ばねばならない。それを政略結婚だというのにきちんとやろうと自発的に決めてるあたり、彼らしい



オフィーリアがアルファンを主に選んで良かったと思う理由はここにある。


くそ真面目で堅物だが、女性に対しても誠実な男だ。そのうえ容姿も整っているせいか、よくモテる。


悪い女に捕まらなかったのは奇跡といっても良いだろう。


彼がオフィーリアを使ってくれないのは、確かに剣としては寂しいが、相棒となったことに一点の後悔はなかった。



「と、ついつい愚痴ってしまったな。エルンスト殿下がお前と話したいと、この館に来ている。すまんが俺の代わりに相手をたのむ。」


『御安い御用よ』



そう言うと、アルファンはオフィーリアを壁から取り外すと、久方ぶりに剣帯に差して気まぐれな客が待つ客間へと再び足を向けた。



***




星銀の甲冑、白い騎士服、白い髪を結い上げた麗しの女騎士。


それがママレカ公国の城でたちまち話題になるのは時間の問題だった。

貴婦人達はみな好奇の目でユーリットを眺め、騎士達は未だに顔をしかめていた。



騎士達がユーリットに厳しい視線を向けるのはアリエル姫が唯一許した護衛騎士であるということだ。


春の妖精ような姫君の護衛騎士になるのは、騎士としての憧れであり夢である。


実際にアリエル姫の輿入れに随行したいと言う騎士達は後を絶たない。


アリエル姫は確かに容姿だけなら姫君としてふさわしいいため、騎士達の中にはアリエル姫にあらぬ幻想を抱いている輩が大勢いる。




現在、その幻想を抱いている騎士達はポッと出の女騎士を僻んでいた。



「…我々は近寄ることも許されていないのに…羨ましい。」

「…確かにエリストナの後宮に入るため女騎士は必要だと言うのはわかる…でも、納得がいかん。」


「そもそも、あの小娘に姫様を護れる技量があるのか…?」


城の廻廊を、優雅に歩くアリエル姫。その後ろを当然の如く歩く少女が何故か憎らしい。




男の僻みほど見苦しいものはないというが、これは酷い。



そんな視線をユーリットとアリエル姫は綺麗に無視しながら廊下を歩いていた。


「…いやだな…」


「何が嫌なんですか?」



ユーリットが聞き返すとアリエル姫は、ハァと息をもらす。

先程までティータイムでご機嫌だったのに、何故か落ち込むアリエル姫にユーリットは心配そうな視線をむける。


「…後宮なんて入りたくないなと…思っただけよ」


「…。」


「絶対他の側妃とドロドロのベタな展開になりそうだし、後宮に入ると自由に身動きできなさそうなんですもの…図書館とかも制限されそうだし…」


確かにエリストナでは側妃が後宮の外に出ることは王太子、王の寝所に呼ばれた時か、許可がおりた時のみだ。


無類の本好きの姫にとってある意味死活問題である。


「…何よりも…エルンスト王太子って変わり者らしくて、嫌な噂ばかり聞くわ。 噂が本当か嘘か会ってみなくちゃわからないけれど、どうにも不安で…。


ねえ、ユーリット。貴女はわたくしより早くに嫁ぐけれど、わたくしのように不安を感じていて?」



「…不安…。」



アリエル姫はどうやらマリッジブルーらしい。後宮なんてない国に育った姫が、後宮に入ることに不安を感じるのは無理もない。


そんなアリエル姫は先に嫁ぐユーリットも不安なのか尋ねたのだが、ユーリットはそれを尋ねられたことに動揺した。


はっきり言ってユーリットは不安を感じる暇がなかったのだ。


別に自分に自信があるわけでも、相手のアルファンの人柄を知っているわけでもない。


ユーリットにとって婚姻はあくまでも後宮に入るための通過儀礼でしかなく、アリエル姫が後宮に入れば、ユーリットも当然後宮で護衛として暮らす事になるから、夫とは暮らせない。

そんな肩書きだけの結婚をするのは、正直相手には申しわけないとは思うが、ユーリットは結婚生活に関してはこの先どうなるかわからなかった。


むしろ、アリエル姫の護衛のほうに気を配っていたので、アリエル姫に尋ねられてユーリットはどうこたえたら良いかわからず言葉を詰まらせた。



「ユーリット?」


「すいません姫様…私には良くわからないのです…。」


「…わからない?」


「はい。…確かにお相手のアルファン様はご立派な方で、私が結婚するには勿体無い方だとは思いますが…不安なのかどうかと聞かれると…」


正直にそう答えると、アリエル姫はきょとんとすると、眉尻を下げて苦笑した。


「貴女は、恋をしたことがないのね?」


そう言われて初めてユーリットは、自分が恋をしたことがないのに気がついた



異性とは確かに近い環境にあった。ギルドにはユーリットと同い年のメンバーもたくさん居たが、まったく恋愛には発展できなかったのだ。


その理由として、ユーリットにはそんな余裕がなかったこともあるが、彼らがユーリットより弱かったせいもある。


ユーリットに好意をもっていても、自分より腕っぷしが強い女に告白するのは男としては複雑だったらしく、ユーリットもユーリットで、そんな彼らに仲間意識や友情は感じていても異性を感じたことはなかった。


普通、恋愛に対する認識は、絵本や両親の影響で早くて5歳ぐらいから芽生えるものだが、祖父との修行でそれどころではなかったユーリットに、恋愛がどういうものか理解できるはずがなかった。



そう、ユーリットは恋と言う感情に焦がれた事がない、恋愛偏差値0の少女だった。


そのせいか、結婚に対する夢もなく、漠然と「子供を産んで、家名を存続させること」ぐらいの認識しかなかったのだ。


「…恋、ですか…。」


「…え…と、そんなに悩まなくていいのよ?ほら、これから恋することはあるかもしれなくてよ?」


思わずフォローをいれるアリエル姫だが、恋愛より先に結婚して女子しかいない後宮に入るユーリットにそんな機会があるか、わからないのにそのフォローはどうかと思う。



結婚に対して真面目すぎる花婿と結婚に対して夢がない花嫁


ある意味両王家の結婚よりこちらの結婚の方が問題があるように思えてくる。



アリエル姫とエルンスト王太子をくっつけて初孫をゲットしようと画策する、バルジ王とロドニー王だが、これはこれで前途多難な結婚になりそうだ。


『ユーリ…姫さんに気をつかわせてどうすんだよ。』


「っ…申しわけありません!」



「いいの。むしろ少し冷静になれたわ。ユーリットもユーリットで大変なのがよくわかったから。わたくしも…嫌だと言っている場合ではないのに、弱音を吐いてごめんなさいね。」


朗らかに微笑むアリエル姫にユーリットもつられて微笑むと二人は再び歩きだした。




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