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十幕

投稿が滞り申し訳ありません。

いつも拙い文章を読んでいただき有り難うございます。

今回はアルファンが何故ユーリットの天敵なのか、その理由の一つが出てきます。


あ、成る程。と思う方がおられたら嬉しいです。

結婚式、仲人にエスコートされながらユーリットは会場の雰囲気がざわついている事に気がついた。

自分の姿を見て、大多数の来賓がガッカリした表情を浮かべていた。


(…やはり、私は花嫁としてふさわしくないんだ)


背は低く胸はぺちゃんこだ。肌も長年剣術やら仕事で荒れて、切傷やかすり傷の痕もある。ギルドにいた時も異性には「お前は、なんか男よりおとこらしいよな」と言われていたから、自分の容姿にも自信が無かった。


年下のアリエル姫の豊かに膨らむ胸を見るたびに貧乳だと痛感していたユーリットは、何だかここにきて恥ずかしくなり、うつ向きそうになるのを必死にこらえる。


…自分にはやはり身分不相応だったのだと今更ながら後悔したが、ここまで来た以上、後には退けない。


ユーリットはキュッと花束を握りしめると、祭壇に眼を向ける。


そこには既に戦神のステンドグラスの前で膝をつき、頭を下げる礼服を着た男の姿が見えた。


祭壇に近づくと仲人の大公に「貴女と彼に神のご加護がありますように」と穏やかな言葉を贈られ、ユーリットは一礼すると大公から離れて祭壇の前に立ち、両膝をついて、手を組み、洗礼を受けるために頭を下ろした。 洗礼が済み、立ち上がり新郎と向き合うとユーリットは軽く眼を見張った。


日に焼けた肌に、黒く艶やかな黒髪、の鍛えあげられた肉体には白い礼服も似合うが黒い軍服や騎士服も良く似合うだろう。


容姿は絶世の美形と言うわけではなく、すっきりした整った顔立ちで、磨き上げられた銀と言うより、鍛えあげられた鋼鉄といった無骨な印象が浮かぶ。


キリリとしたつり上がった目で高圧的に睨まれたら多分、子供は泣くだろう。

おそらく…いや、確実に女にモテるタイプの青年だ。



(……きっと、私はこの人を幸せにする事は出来ないだろうな。)


と、結婚式の途中だと言うのに夫の浮気を既に覚悟していると、誓いのキスの場面になったのだが、ユーリットのベールをあげたアルファンは眼を見開きこちらを凝視していた。

どこが、驚きを隠せないといった表情で 、同時に戸惑うような様子…と言うよりも茫然自失の状態だ。…やはり、貧弱な容姿にガッカリしたのかな。と考えつつも夫の唇が降りてくるのを無言で待っていたが、一向にその唇は降りてこなかった。


「……。」


「……。」


「……。」


「……?」


しかし、いつまで経っても降りてこない唇に焦ったユーリットはある決断を下すしかなかった。






花嫁が男前にも新郎に口づけをする場面を目の当たりにして、父、ローランドは目頭を押さえた。

息子の晴れ姿に感動したからではなく、息子のふがいなさに涙が出てしまいそうだ。


「…あの馬鹿が。」


「…ぶふくくっ」


「殿下。いいかげん笑うのをやめていただけますかな。」


「いや、何、っやっぱりユーリット嬢を選んで正解だったなぁ。」


ローランドは「てめぇやっぱり裏で糸を引いてやがったな」と王子を一瞥したが、聞かなかったことにして、再び顔を真っ赤に染めて混乱して居るアルファンの目の前に居る花嫁を見て目を細めた。


「あの白い髪…殿下、彼女はかなり強い《術士の系譜》を受け継いでいるようですな。」


「彼女の母親の実家は白銀の精霊王フォカリスの初の契約者エリ・コウサカの血を受け継ぐ傍系だよ。どうやら、母親とその影響が強いみたいでね、コウサカの系譜を持つ者の中でも魔力が高いんだ。そのせいか母親は体が弱い。ユーリットに至っては《騎士の家門》の祝福も持つ、《副血統持ち》だ。ギャレット家の世継ぎを産むにはまたとない娘じゃないかな?」


確かにどちらの《血の祝福》を受け継いでもギャレット家の不利益には成らない。アルファンも《騎士の家門》を受け継いでるので《騎士の家門》の血統は次代の子には引き継がれるのは間違いない。

 副血統としてユーリットの副血統か、アルファンの副血統を受け継いだ子どもは間違いなく優秀な跡取りになるだろう。


「…面白半分に選別した訳ではなかったのですな。」


「当たり前だろう?僕の乳兄弟にはそれなりに相応しい娘でなくてはね。」


にしても、とエルンストは言葉を続けると再び笑う。それは掛け金が自分の手元に舞い込む嬉しさと、乳兄弟が目の前で恋に落ちる瞬間がおかしいのか、悪戯が成功した子どものように笑う王太子の様子を横で見ながらローランドは「この悪魔」と内心、毒を吐く。


ステンドガラスから差し込む光があたるエルンストの姿は天使の様で、聖堂中に流れるパイプオルガンの音も彼を神聖な者に魅せるが、その実、その中身は悪魔そのものだ。堕天使が人間の姿をしているのなら、こういう姿なのだろうとローランドはついつい思ってしまう。


 この王子の事だから、おそらく側近達の好みや恋人は粗方把握しているに違いない。その最初の犠牲者がアルファンだった。犠牲者と言うより執行者と言うべきか、エルンストは側近の妻の実家が「自分の邪魔になる貴族」でないことを前提にしているのではないだろうか。現在のエルンストの側近達は次期大臣と目されている有望株揃いだ。その側近達の妻に娘をと群がる貴族達は当然たくさんいる。

 将来其れが側近達の足かせになる可能性があるのなら彼は容赦なく排除するだろう。だから彼は秘密裏に側近達の嫁候補を探しているのだ現在進行形で。その前提は間違いなく「国政に干渉できず、エルンストにすり寄る心配がない家の出の娘」と言うことになる。

 

 ユーリットは血統良し、容姿も良し、干渉の恐れのない他国の貧乏貴族である。エルンストからすればまさに文句なしの花嫁だったろう。しかも、ギルドでも評判を持つ能力を持っており、極めつけは魔剣の主でもある。こんなおいしい娘をどこぞの男爵や伯爵にやるのはもったいない。自分の側近の妻にこそ相応しいと考えたのだ。だから、自国の後宮の制度を利用したのだろう。



本来、女の騎士はママレカと違い、エリストナでは多くいる。ぶっちゃけユーリットの他にもすでに二人の女騎士が護衛として選抜されている。ユーリットを得るために、ママレカの大使に現在の後宮の危険性を話し、自国からのアリエル姫の護衛も必要だと言いくるめ、ママレカ国王に女の護衛騎士の派遣を了承させたのだ。その後、ママレカ王家がとる行動はただ一つ、姫の護衛に相応しい《騎士の家門》の血統をもつ令嬢を捜索することだ。そのなかで、ひときわ実績のある娘はギルドで働いているユーリットしかいない。結果、ユーリットは見事にアリエル姫の護衛騎士になった。その知らせを聞いたこの王太子はさぞほくそ笑んだだろう。

 

ユーリットを見つけた経緯はローランドは解らないが、予想として、「竜殺し」という彼女の評判を聞いて面白そうだからと調べたら、「あれ、この子、アルファンのお嫁にしたら楽しそうじゃない?」と

いった感じで目をつけたのだろう。だが、そこには個人の意志はひとかけらも尊重されてはない。ユーリットに婚約者がいてもこの王太子は確実に破談に追い込むに違いない。

 


この王太子は暴君になる危うさと名君になる素質を内包していた。


ローランドはこの不安定な王太子がこの国にもたらすのは破滅か繁栄かそのどちらかだろうと確信していた。だからこそ、アルファンにはこの横暴な王太子の手綱をきちんと握って貰わねばならない。今は振り回されているが、後はアルファンとその嫁と、エルンストの妻になるアリエル姫次第だ。



幸い、嫁は性格は良さそうだ。無表情なのが欠点だが、アルファンを良い意味で引っ張っていくだろう。意識が戻った息子が、おずおずと花嫁を抱き上げている姿が見えて、ローランドは自分の毛の生えていない頭を「やれやれ」と言わんばかりに軽く撫でた。



***



誓いの口づけをされた側のアルファンは顔が沸騰したように真っ赤になっていた。


「っ……。」


言葉が浮かんでこずにユーリットを見ていると、がたりと言う音が聞こえ、そちらに目をやると花嫁の家族席で座ったまま気絶した中年の男が視界に入った。娘が自分から男の唇を奪ったのがショックだったのか、ユーリットの父は意識を遮断した。その隣にいた息子が気にしないでくれと手を振っている。

 

「…大丈夫です。気にしないでください。」


「いや、気にしないでくださいって言われても」


冷静な口調の花嫁に、すっかり正気に戻ったアルファンは戸惑った表情を浮かべた。


「父君だろう?」


「はい。兄がついてますから大丈夫です。」


「……。」


どこか、他人のような言い方にアルファンは何となく押し黙った。日常茶飯事っていうか慣れているようだ。年頃の娘が「お父さんのパンツと一緒に洗濯したくない」とか「お父さんの体なんか臭いから近寄りたくない」と父親に嫌悪感を出す雰囲気にどこか似ていて、アルファンは何となくつっこんではいけないと理解した。


「オッホン、お二方、式の続きをしてもよろしいかな?」


司祭に二人は顔を向けると、再び互いの顔を向き合うと自然と笑顔が浮かんだ。


「はい。よろしくお願いします。」


その返事に司祭は「結構。」と頷くと助祭の修道士に目配せした。修道士は頷くと前に進み出て、声を張り上げた。


「ご列席されている皆々様、これより新郎新婦が退場いたします。ご起立して、お二方の新しい門出に幸多かれとお見送りくださいませ。」


その声にいち早く立ち上がったのは新郎の直属の部下達と兵士達で、軍隊のように…というか軍隊だが、見事に息がそろった起立だった。その後を貴族達がまばらに立ち上がる。


式が終わるのを待っていただろう花籠をもった少女達が、自分たちの出番だと言わんばかりに目をキラキラとさせてアルファン達の前に立つと、籠の中の花びらをヴァージンロードの上に振りまいていく。


アルファンは深呼吸すると、おずおずと花嫁に手を差し出した。


「改めて、アルファン・ヴィ・ギャレットだ。」


「ユーリット・ファベルです。よろしくお願いします」


結婚式の当日に自己紹介なんて奇妙だが、なんとなくユーリットはそれで良いと思った。

今はまだ知らないことばかりなのだからと。


アルファンはユーリットを壊れ物を扱うように、おずおずと抱き上げる。恥ずかしそうに照れた表情を浮かべた。耳まで真っ赤な顔は何処かっらどうみても善良な青年にしか見えない。


ただ、ユーリットはアルファンに対しての第二印象は「この人は、ちょっと苦手だ」であった。

悪い意味ではない。アルファンじたいは好感が持てるのだが、彼があまりにも純真で、良い人なので蔑ろにはできないのだ。しかもユーリットに対して女性として丁寧に接するアルファンにむず痒さを感じていた。アリエル姫は同じ女性としてユーリットを女性だと扱ってはいたが、異性の男性からこうも女性として丁寧に扱われるのは家族以外で初めてで、実にいたたまれない。


ある意味ユーリットの天敵ともいえる。悪党相手だったら容赦はないが、こういった善良な人物を相手にすると剣が鈍ってしまう。それは人として当たり前だが、ユーリットとしてはこの青年をこれからアリエル姫が嫁ぐまで接触を避けねばならない。密命を知らない彼にこれから自分がすることを思えば罪悪感を感じてしまうのだ。


 ユーリットは頬を染めて嬉しそうに笑う善良な夫に何も応えてやれない事が申し訳なかった。これが冷徹な人間ならそこまで悩まずにすんだが、相手が悪かった。ユーリットはこの人に、嫌われるかもしれないという可能性が脳裏に浮かび、胸がツキリと痛んだ。

 ユーリットは情が深いので、捨てられた子犬だろうと魔剣だろうと拾ってしまう人間です。絶対悪にはなれない良心タイプです。特に善良な人間が苦手です。


自分に害なす人間には冷静ですが、自分を大切にする人間が苦手です。どう応えたらいいか解らない不器用な子なんです。


また、長年荒くれ達のギルドメンバーの中で居たので、普通の女の子として丁重に扱われるのが慣れていないので、最初の頃はアルファンのファミニストっぷりに若干引いてます。ユーリットとしたら善良な人を弄んでいる悪女な気分なのでしょうね。



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