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無騒の半音  作者: あっこひゃん
主旋律
9/89

第9騒 公休日

お気に入り登録ありがとうございました。

感謝感激です。これからも精進していきます。

 茹でた野菜を頬張る。

 水分を含み過ぎた野菜は噛む必要が無く、とても歯に優しい。

 スープを啜る。

 薄すぎる出汁と残骸のような具からメニューを推測する。

 今日はコンソメスープだ。

 メニュー板を見る。

 卵スープだった。

 ………卵はどこだ?

 気を取り直して、本日のメイン。

 厚みのある肉を水で流し込む。

 レア好きには堪らない火加減。

 ウェルダムを好む俺は毎回泣きそうだ。

 パンを砕く。

 欠陥品を買い叩いたとしか思えないほど固い。

 このまま食べると顎が死ぬ。

 スープか水でふやかすのが鉄則だ。

「………」

 なぜだろう。

 食事で体力を回復させるはずなのに。

 食事をする為に体力を使っている気がする。

「………」

 咀嚼し続けていた肉に飽きて、強引に喉に押し込む。

 木製の匙を口に咥えたまま、閑散としている食堂を見渡した。

 いつもは満員御礼の新入隊員専用の食堂だが、今は片手ぐらいの人しかいない。

 今日は休日。公休日だ。

 街の治安も兼ねている軍人が、一斉に休むことは本来なら有り得ない。

 だが、俺たちはひよっこ。

 配置先すら決まっていないので、規定通りの公休日を楽しめる。 

 泊まりは許可されないが、門限は日の出までなので、夜遊びだって出来る。

 寮で禁止されている飲酒も、街に出れば解禁だ。

 浮き足立つ連中の気持ちも分からなくない。

 むしろ。

「休みの日にまでこんな不味い飯を食べる人の気がしれないよ」

 心境を代弁した声が聞こえた。

 歪な形をした食器に影がかかる。

 俺は顔を上げた。

「こんにちは。カラト」

「………どうも」

 知らない相手ではない。

 挨拶ぐらいはする仲だし、一人でいたから一緒に食べるのも問題は無い。

 けれど俺は、首を捻る。

 本人が言った通り、公休日にまで食堂に来るような相手では無いからだ。

 野戦料理が御馳走に見えると評判の飯を、公休日まで食べる人間は限られている。

 物好きか、味覚音痴か、極貧か。

 俺の理由はともかく、目の前の相手はどれにも該当しない。

「前いいよね?」

 アッシュブロンドに青い瞳。

 毎日懲りずに、俺に嘲笑と侮蔑を投げつける、にっくき苛めっ子サミエル。

 ではない方だ。

 彼はナディ。サミエルの従兄弟だ。

 兄弟と言っても通用するほど外見が似ているだけに、妙な違和感を覚える。

「………」

「言っておくけど、君を目の敵にしてるのはサミエルだけで、僕は普通だよ?」

(目の敵にされているのか)

 基本、サミエルは排他的だ。

 俺だけを贔屓にしているわけではないと、どこかで思っていた。

(やっぱり、俺はサミエルに苛められているのか)

 訓練途中で、何度も踏まれたり蹴られたり、俺がへばる最高のタイミングで野次を飛ばしたり。

 ………全部わざとだったのか。

「サミエルは、どうして俺を目の敵にしているんだ?」

 出会った瞬間から“敵”と認識された気がする。

 何度も言うが、俺は、本当に、何も、していない。

 理由もなく人を嫌うなんて、俺には出来ない。

 だから理由があるはずだと思っている。

 しかし、その理由が全く思い当たらないのだ。

「僕にも分からない」

 パンを租借しながら、ナディの眉間に皺が寄っているのを見た。

「サミエルとは士官学校時代から同室だけど、別に馴れ合ってるわけじゃないからね。同室や従兄弟と言っても、僕たちお互いに干渉しないし」

「……そうか」

「そうだよ。下手な相手よりはサミエルの方がマシって程度」

 言葉と一緒に小麦粉の塊を水で流し込むナディ。

 パンで顎が疲れて腹立たしいのか、別の理由でかは知らないが、その動作は荒い。

(………実はあんまり仲良くないのか?)

 もしかして、サミエルは友達がいないのかも知れない。

 いたらいたらで驚く。

 しかし、ナディにも分からないとなると、後は……。

(本人に聞くしかないのか)

 ………それは、とても、気が重い。

(聞かなくても日常に支障はないし)

 今まで通りだと思えば、特に気にすることは無いと思う。

 自分から、自分を嫌っている相手に近づくのは度胸がいる。

 嫌な思い、我慢をしてまで、仲良くはなりたくない。

 だから放っておこう。サミエルのことは。

「どうしてナディは俺の所に?」

 俺の質問がよほど想定外だったのか。

 ナディは青い目を丸くして。

 笑った。

「いやだなー。君に興味があるからに決まってるじゃないか」

「………………?」

 鍬を振ったら上から雪が落ちてきた時と同じ感じ。

 しばらく意味が分からなかった。

「だって君、今年の新入隊員の中では有名だよ?」

「………」

「え?知らない?体力無さ過ぎてどこもいらないって逆に目をつけられてるんだよ?」

 興味をもたれる覚えは全くなかった。

 だが、そういうことなら納得出来る。

(なんてひどい注目のされ方だ)

 確かに俺は、体力がないし、頭も悪いし、役に立つところはひとつもないけれど。

(いや、だからか?だからこっちにくれるなと言われてるのか?)

 軽く衝撃を受けた。

 知らない間に盥回しになっている!

「他は、アレだよ。君、妹の為に学費工面してるんだろ?自分の生活費削ってまで」

 ナディが匙で食器を叩く。

 貴族出身の肥えた舌では半分が限界なのか。

 食事の手が完全に止まっていた。

「そっちも有名で、いらないって言われてるわりに人気は高いんだよ?」

 どんな人気だ。

 独り身の俺の、目に余る極貧生活に、借金まみれかと心配してくれた人の顔が浮かぶ。

 あまりに大勢いたので、全員は思い出せないが。

 まさか噂にされているとは思わなかった。

 正直に話し過ぎたか?

「僕は士官学校出てるから、そういった噂が良く入ってくるんだよね、上から」

「………」

(………上?)

 話したのは同期だけのはず、だ。

 なぜ先輩からナディへ流れているのだろうか?

 良く分からない情報網があるようだ。

 俺としては、そんな噂より、いつ見捨てられるかの方が心配で重大だ。

(盥回しが終わって、どこもいらいないって決定されたら首かな……)

「………………」

 考えるのは止めよう。

 明日からの訓練の辛さが倍になる。

「あっ、ごめん。ちょっと無神経だった、かな?」

 俺の顔に何を思ったか、ナディが狼狽えた。

「まぁ、そんなに悪い噂ばかりじゃなかったから大丈夫だよ」

 まだあったのか。

「そんなことより、このまえの授業のことだけど……」

 あからさまな話の転換。

 追及はしない。

 俺の傷が深くなりそうな気がしたからだ。



 話の中で分かったが、ナディと俺は同じ年だった。

 ついでにサミエルも同じ年だった。

 リラやアドルドより年齢が近いせいか、他愛ない話を続けていくうちに、随分打ち解けた。

 食事は偉大だと感心しつつ、新しい友人の背を見送る。

 いくら不味い飯だろうと、腹一杯に食わなければやっていけない。

 おかわりを食べる為に席を立つ。

 踏み出した踵が床に着く前に、後ろから肩を引かれた。

 トレイが危険な角度に傾く。

 慌てて持ち直す。

 危なかった!

 食器が落ちたらおかわりが出来なくなる!!

 目を吊り上げて振り返った俺に、犯人は悪びれもせずに言ってきた。


「なあ、小遣い稼ぎしないか?」

カラトがすごく喋ってる!!(@_@;)

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