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無騒の半音  作者: あっこひゃん
副旋律
68/89

第20.15話 アドルド達の計画


 靴紐を結び直しながら、アドルドは周囲の気配を探った。

 立ち去ったはずのフィラットが後ろから付いてきているのはすぐに分かった。

 隠れているつもりだろうが、街の中で軍人は目立つ。

 軍服を着ていなくても、雰囲気や目つきや視線、ほんの少しの差異でそれと分かる。

 同じように裏の人間も分かりやすい。

 情報部隊の人間は他の軍人よりも見分け辛いが、一瞬感じた気配と、目についた人数が合わないので、何人か潜んでいるのは確実だろう。

 嫌の方に当たった。とアドルドは口に出さずに呟いた。


(本当に巻き込まれているなんてな……)


 前日の夜。

 説教に潰れてベッドに意識を沈めている同室を横目に、アドルドとリラは狭い部屋の中で話し合った。


「カラトの勘や話が本当だとすると、横領の運び人役か? カラトが囮の可能性もあると思うが……」

「荷物の中身は見られへんかな?」


 二人揃って、床に胡坐をかいて頭を突き合わせる。

 ほかの部屋は知らないが、この部屋に限って床は清潔だ。

 床は愚か壁も天井も綺麗で、ほかの奴らから「神殿の空気がする…」と言って、偶に懺悔をする為に借りに来るぐらいには綺麗だ。

 

「中身をみるぐらいなら飯の時いけるだろう」

「確かに。カラト兄ちゃん、ご飯が一番大事やさかいな」


 リラが肩を揺らす。

 〝あの”寮の飯でさえ、文字通り這ってでも食いに来る奴だ。

 加えて飯に集中しているせいか、食事中の話は殆ど聞いていない。

 肩を叩いてようやく気付くぐらいだから、手放した荷物を見るのは造作もないだろう。

 そんなことを考えていると、リラが急に真顔になり、こちらを伺った。


「なぁアドルド兄ちゃん、カラト兄ちゃんの中身がやばいやつならどないするん?」

「どうするもなにもないだろう」


 カラトの持っている荷物が『やばい』可能性は十分にある。

 持ち出し禁止の機密書類か、薬物か、武器か。

 ………ないとは思うが、実験動物や合成魔物の場合もある。

 なんにしても、はっきりしていることは。


「カラトが持っていて不味いものなら取り上げるべきだろう」


 幼子の行動を見守る保護者の態度そのものに、リラは『過保護』と思わないでもなかったが、アドルドの心中が十分に理解出来るので、心の声を告げることはなかった。

 変わりに別のことを聞く。


「アドルド兄ちゃんが持つん?」

「いや、たぶんあいつは自分で持つ。責任感が強いしな」


 アドルドは溜息をついた。

 実力は最下位だが、責任感は強いのだ。

 真面目というのもあるだろう。実力は最下位だが。

 真面目で正直で実直。直進しかない要素が天然のせいで折れ曲がって、なのに無口で勝手に脳内完結してしまう為にとんでもない行動に出る。

 本人は至って真面目で、更に責任感が強いから始末に負えない。


「せやな。ほな中身だけ交換するん?」

「ものによるだろうが……全く同じものを用意できればいいな」


 外も中も重さも。見た目ではわからないぐらいの替え玉が欲しい。

 それを丸ごとカラトの荷物と交換したい。

 そう告げれば、リラは納得したように頷いた。


「街はうちの庭やし、雑貨屋さんとか卸しの顔見知りは多いさかい、大抵のものは用意できるで」

「頼もしいな」


 思わず呟けば、任せてや!と自分の胸を叩くリラ。


「明日の朝は家にいかないかんさかい、朝は任せたわ。昼頃どっかで待ち合わせん?」

「カラトを置いてか?」

「カラト兄ちゃん、食べ物与えとったら大人しいで」

「餓鬼か……」


(いや、餓鬼より大人なぶん、性質が悪いか……)


 年下のリラに更に子供扱いされている同室を不憫に思った。

 それも日頃の行いのせいだとすると、仕方のないことだろう。


「ほんまに荷運び役なら上層部の目がついてるやろうし、うちはそれより、カラト兄ちゃんと一緒に荷物受け取ったらアドルド兄ちゃんも監視されへんか心配やわ」

「あぁ……そうだな」


(その可能性も十分にあったか)


 どうも腹の底では、カラトの言葉を全面的に信じていなかったようだ。

 その可能性を全く考慮していなかった。

 しかし緊急時に最悪を想定して動くのは傭兵の定常だ。

 ここは基本に立ち返ろうと、アドルドは思考を巡らせる。 

 もしカラトとリラの言う通り、危険物の運び役だったら……。


(誰にもバレずに中身を確認。不自然に見えずにカラトと別れ、リラと会う。リラと二人で監視にバレずに替え玉を用意し、監視にバレずにすり替える)


 監視――裏と軍と情報屋――全員の目を盗んで行動しなければならない。

 

(面倒だな)

 

 考えながら、無意識に胸元の傭兵の証(フィートシンボル)を探る。

 一般的な傭兵と比べるとは異例の速さで手に入れて以来、肌身離さず付けていたせいか、考え事をすると無意識に手が伸びる。

 しかし、外している今、慣れた感触が見つかるはずもなく。

 治らない癖に内心で悪態をつきながら手が落ちる。

 そこで、アドルドは閃いた。

 前を向くと、俯いて考え事をしているリラの頭の旋毛が見える。

 「リラ」と呼びかけると、小動物のように頭が跳ね上がった。


「カラトと分かれた後にリラを連れて戻ると警戒されると思うか?」

「同室やし、会う約束してたっちゅーなら大丈夫やと思うけど、結局カラト兄ちゃんと合流すると警戒されるやろうな」

「なら合流するのはやめておこう。リラは首都出身だ。地理も明るいし、顔も利く。監視の目があると遣り辛いことをやってくれないか?」

「ええけど、荷物はどないして取り換えるん? アドルド兄ちゃんだけやと、カラト兄ちゃんにはばれへんでも周りにばれるで」


 リラの言葉に、アドルドは笑う。


「そこは、傭兵の力を借りようと思う」

 

 監視の目がどこまであるか分からないが、荷物を持つカラトが一番厳重なのは間違いない。

 次は同行者、そして次は……という所までくると、緩くなるのは必然。

 ようするに、監視に分からないように会話をすれば良いのだ。

 傭兵への依頼も、元チームなら独自の合図があるので、口頭でなくとも伝わる。

 監視を掻い潜るのは無理でも、監視を騙すことは出来る。 


「リラにも監視がつく可能性がある。なるべく行動は隠密にしてくれ」

「まかせてや! うちんとこにも商売人だけが使う合図があるさかい!」


 同業者にしか理解できない合図というのは、どこにでもある。

 監視をする者が知っていればそれまでだが、やらないよりはやる方が良いに決まっている。 


「横槍入れられたら面倒やさかい、うちの知り合いの雑貨屋さんで会おうか」


 リラの提案に、アドルドは頷いた。

 生まれた時から傭兵の間で育ったアドルドと、生まれた時から商売人の間で育ったリラ。

 二人が使う合図は新入り同業者では理解不可能な高度の物だ。当然、口で会話をしながらそれらを自然に交えて話せ、理解出来る相手も玄人で。二人の人脈と技術スキルによってこの替え玉作戦は成功する。


 ――しかし”天然”という天性の性格スキルによってとんでもない結果になることを、まだ二人は知らない。



 


投稿スピードアップをするといってのこの様。誠に申し訳ございません。

精進しますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。

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