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無騒の半音  作者: あっこひゃん
主旋律
6/89

第6騒 はじめて踏まれた日の、制服を着た時。

 俺とアドルドとリラ。

 203号室はこの三人で一組だ。

 四人用の部屋だが、実際、四人で使うには狭いと思っていたので、助かった。

 左右の壁に細長いロッカーと二段ベッドを縦に置いて、ベッドの間、窓の下に横向きに机を一つ挟む。

 それだけで、部屋の壁が埋まる。

 入口直ぐのロッカーだって、扉を開ければ廊下から丸見え。

 反対側は扉を開けると使えない。

 自分専用のスペースがベッドしかない。

 これは、絶対、狭い。

 小柄なリラと、平均的な俺はまだ良い。

 大柄なアドルドは、ベッドから全てが小さい。

 足を伸ばせないことに気付いたアドルドは、これからは床で寝ると言ってきた。

 故郷の習慣で、床の上で寝ることに抵抗が無いらしい。

 ………踏まないように気を付けよう。

  

 本当に狭い。

 鳥小屋みたいな部屋だ。

 しかし、文句は言えない。

 “無料タダ

 なのだから。


 ――無料。

 俺はこの言葉に勝てたことが無い。


 挙げた腕に体が当たったり、荷物を足で蹴られたり。

 狭いと文句を言いながら、至急された服を着る。

 もちろん服も“支給タダ”だ。

 新品なのに素晴らしい。

 裾直しは各自だが、部屋には裁縫箱が完備されていた。

 親切だ。

 リラの、裾直しというには大掛かりな、もはやサイズ直しに近い作業には手間どったが、何とか集合時間までには仕上げられた。

「カラト兄ちゃん神様!ほんま助かったわ!」

 体に合った服を着れたリラは、飛び跳ねて喜んでいる。

 赤ん坊の産着みたいになっていた最初を思えば、感慨深い。

「すごいな、カラト」

 アドルドに褒められた。

 褒められて悪い気はしない。

 喜んでもらって良かった。

 二人とも裁縫は得意でないらしい。

(それにしても、二人は今まで服をどうしていたんだ?)

 俺が服を手直ししている間、興味深そうに覗いていた姿を思い出す。

 はぎれで服を作ったり、貰った服を自分用に作り変えたりしないのだろうか?

 人から貰ったものは、手直ししないと使えないと思う。

「俺は繕うぐらいなら出来るが、作るのはしたことがないからな」

「うちもおんなじや。服は姉ちゃん達がいらんって言うとんのに買ってくるんや」

 ………………。

 そうか。

 服は貰うものじゃなくて、買うものなのか。

 ………………。

 うん。

 よそはよそ。うちはうちだ。

 それにしても、久しぶりの新調品だ。

 使い込んだお古を張り合わせた服とは何もかもが違う。

 特に肌触り。

 服が硬いなんて、どんな厚みの生地を使っているんだ?

 忘れて久しい。新品特有の堅さ。

 今の着心地は良くないが、馴染むと手放せなくなりそうで怖い。 

 とにかく丈夫なのは良い。

 百回転んでも平気そうだ。

 俺は大きなポケットに手を入れた。

 上着にもズボンにも、使いやすいポケットがたくさんついている。

 ポケットなんて、穴があいた時用の生地にしか思っていなかった。

 こんなに便利なものだったとは……。

 さすが軍隊用の服。

 色が深緑なのも、汚れを気にせずに使える。

 もちろん、靴も丈夫だ。

 爪先に鉄板の入った茶色の編み上げブーツ。

 格好良い。

 一目で気に入ったが、履くのがとにかく面倒だった。

 アドルドに手伝ってもらえて、ようやく履けた。

 格好良いのに残念だ。

「リラ、おかしい所はないか?」

 しゃがんでブーツを履いていたリラに声をかけて、全身を見てもらう。

 リラは町中に住んでいるらしい。

 軍人を良く見ているから、着方の点検だ。

「裾はブーツの中やで。下に着ている服もズボンの中。ボタンは襟元まで堅苦しくや」

「わかった」

 指摘された通り、直していく。

 首が苦しい。

 襟首が伸びきった服しか着たことがないので、違和感が。

 首が苦しい。 

「慣れてくるさ」

 とっくに慣れている様子のアドルドが苦笑する。

 あぁ、ブーツも一度紐を解いて直さないといけない。

 ………面倒だ。

 


 ――本当に、慣れるのだろうか。



カラトの家はとても貧乏です。


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