第8.3騒 とある訓練の日のスケジュール
一年間の基本日程です。
見習いの、新兵ですらない仮隊員の訓練は朝から始まる。
――06:00 起床。
06:00に“必ず”起きる。
早くても遅くてもいけない。早く起きて洗面に行こうものなら罰則だ。
皆は寝返りを打ちつつ、動作開始を意味する鐘の音を待つ。
鐘が鳴ると、女子寮では洗面所が戦場と化す。
「はやくどきなさいよ! 手間がかかっても同じ顔にしかならないんだから!」
「ほんま、早起きは辛いわぁ…」
「六時まで寝れるなんて幸せ…」
「毎日同じ時間に起きるのは新鮮だな」
――06:30 自室前にて点呼。
今日の体調と、身だしなみの点検を行う。
一日の中で一番、罰則の腕立て伏せが多く行われる。
念には念を入れても、姑並みの細かすぎる点検に、いつも誰かが餌食となる。
「靴紐が長かっただけなのに! あいつの前髪、いつか切ってやる!」
「前髪、切った方が良いか?」
『絶対切るな』
――06:50 掃除。
トイレ、共同浴室、廊下など、毎月分担が変わる。
自分たちの部屋とベッドも掃除。
ベッドの布団も指定された通りに畳む。折り目の方向も、置く位置も決まっている。
「掃除なんて召使いにさせれば良いものを……便器を汚した奴は誰だ、白状しろ」
「………」
「主婦がおる。とぅとぅ自作の掃除道具使いだしたで」
「こいつがいる限り、掃除は完璧だな」
――07:30 朝の体操。
野外演習場に集合。体操をして、3キロ走る。
この間に指導教官は掃除を点検。出来ていなければ終了後に罰則のち、再掃除。
但し、布団だけは言われない。出来ていないと廊下に放り出される為、晒し者になる。地味に傷つく罰則。
「うわーこいつ布団出されてるぜー。踏んじゃえ、踏んじゃえ」
「気色悪いぐらい、ここの部屋はいつも綺麗だな」
「男の部屋じゃねーな」
――08:00 朝食。
再掃除、訓練が終わった者から朝食。
いつ作られたか不明な固くて黒いパンと、味と具のないスープが定番。これに一切れのチーズと肉が付く。
別名、囚人食。パンとスープは食べ放題。
稀にサンドイッチになると、狂喜乱舞。
「こんな……チーズとハムとサラダを挟んだだけのものに、こんなに感動するなんて……」
「兄ちゃん、またお代わりしてはるし……」
「なんでこの朝飯で満足する?」
「いつもと同じ」
――09:00 座学。
朝一番は座学。能力別になっている。
文字が読めない組、一般組、一般教養組、士官学校卒業組。
文字が読めない組からは、いつも怒声と罵声が飛ぶ。
「昨日もやっただろ? こんな簡単なことも出来ないなんて、お前達の脳ミソは鳥以下だな」
(鶏は頭良い…)
(馬鹿っ! 余計なこと言うな!)
――10:30 集団座学。
全員で屋内演習場に集まっての座学。
軍隊規律、縄の結び方、兵法、応急処置など、実技が入る座学。
軍隊規律の中の、“整列・礼”は、入隊して直ぐに行わる、永遠に続く地獄の訓練である。
全員揃うまで、永遠に行われる。入隊したての新人を締める役目を持っている為、一番厳しい。
毎年、二週間ほど続く。出来るまでやらせる。この期間に限り、最長16:00まで訓練が続く。
昼は食べれない。だいたい初日は歩くだけで終わる。最後は号泣となる恒例の行事。
「正面に向かって! 礼!!」
『………………』
――12:00 昼食。
朝よりましな、パンとスープに、麺類とサラダ、果物が付く。
どれかに肉や魚が具材として入るが、偶に奇想天外な味の仕上がりを見せる。
一日の内で一番油断出来ない食事。パンとスープは食べ放題。
稀に果物が菓子になると、裏取引が行われる。
食べ終わると休憩。(部屋での飲食は厳禁。水のみ可)
「これやるよ。その変わり、今度デートしよーよ」
「!!!!」
「えっ? 兄ちゃん、はじめて菓子食べたん?!」
「………これも食うか?」
――13:30 集団実習。
全員で屋外演習場に集まっての実習。
武器の使い方、手入れ、乗馬、火器の取り扱いなど、危険な実習が多い。
「一歩間違えると大怪我をするからな。慎重にいけよ」
「目立って手際が良いのがいるな」
「ありゃあ、相当、いじってるぜ。小さいのに大したもんだ」
――15:00 訓練。
軽く五キロ走った後、剣、棒、弓、鞭、魔法、体術など、ありとあらゆる戦闘訓練を行う。
偶に二十キロ走らされたり、山の中に連れて行かれたりする。
最後は三キロ走って終了。
山へは半年過ぎた頃に連れ出される。恒例行事の一つ。
3日ほど、ナイフ一つで山中に放置される。部屋単位で行われ、秘密裏に一回目の適正審査を受ける。
「おい、息をしろ! 誰かエフミト少尉を呼んで来い!!」
「訓練で死ぬな! 世間体が悪くなるだろ!?」
「死んだか?」「死んだ」「死んだな」
「クソがっ」
――17:00 特別座学。
文字が読めない組は年間を通して必須。宿題も出る、課題もある。
一般組は、半年ほど。課題あり。
一般教養組、士官学校卒業組は、課題のみ。
課題は全員共通。赤点で補習となる。
別途で4回ほど妙な問題が出題される。
回答によって配置先が変わるらしい。掘り出し者を見つける問題であるようだ。
「体は動かんでも頭は動くだろ! その頭に叩き込め!!」
「あっはっはっはっ! この回答サイコー!!」
「…やりますね」
「ひー! ひー! お腹が痛いっす!!」
――18:00 夕食。
固いが白いパンとスープ、メイン料理ともう一品に、サラダと果物がつく。
残っている場合、全て一回分ずつ、お変わり出来る。
不味いので、お変わりをする者は極少数。
食堂は19:30まで。閉まる直前に来ると、食堂のおばちゃん達に目の敵にされる。
一人だけ、例外的におめこぼしされている者がいるようだ…。
「よう、今日もお代わりか?」
「あの子、最近時間内にこれるようになったわね……」
「頑張ってたもんね……」
「駄目ね。年がいくと涙脆くなって……」
――19:00 風呂。
19:00から21:00の間。自由に入れる。
人数が多いので、常に満席状態。
この時間帯だけ、女子寮に見張りと見回りが付く。
「男の浪漫が……」
「ちょっと、もう少しゆっくり浸かりなよ。はい。いーち…」
「うるさい!」
――22:00 就寝。
一斉に灯りを消される。起きているのを見つかると罰則。
22:30頃に見回りが入る。
(で、誰が一番気になってるの? 白状しなさいよ)
「………………」
「うん。胸は動いとる」
「寝つきと寝相が異常に良いと、死んでないか不安になるな」
彼らは一年を寮で過ごした後、正式な軍人になる。
この共同生活は同期の結束を強め、今後の横への繋がりとなるのだ。
ちなみに、この時期の結婚・恋人成立率は異常に高い。
同期同士はもちろんだが、美味しい飯に飢えている男相手に、料理で胃袋と愛を掴む女性が増える為である。
最近、共同生活を嫌がる人が増えましたね。
生活の多様化なのか、他人を嫌っているのか、干渉されたくないのか、ぼっち上等なのか。合わない人も確かにいますが、同室は本当に永遠の友達です。
なにせ、思考と行動パターンがすべて把握されますからね。
カタッ(メガネを置く音)
相手「もう寝るの?」
自分「なんで!?(図星)」
相手「そろそろ、そんな時間(12時前)」
(テスト期間中)
自分「………今、勉強してないっしょ。ゲームしてる?」
相手「えっ?!なんで?」
自分「さっきから全く動いた気配がない。マンガならめくる音がするはず」
相手「勉強かも知れないじゃん」
自分「ない。だってさっき、ペン転がした」
お互い背中合わせで、間に棚があった上の会話です。振り返っても見えないのに、何をしてるのかバレバレ(笑)