表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無騒の半音  作者: あっこひゃん
主旋律
36/89

第36騒 長い一日の、終わりの時。

カラト編。ラストです。


 歓喜に打ち震えた炎から。

 間抜けな音がした。

 

 一気に空気が抜けたような音。

 目を開くと、炎の姿は消えていた。

 代わりに、白い煙が暖炉の中で渦を巻いて充満している。

「ごほっ、ごほっ」

 咳き込み、漏れてきた白い煙を手で追い払う。

 よく見ると、薪の下で、隠れるように小さく燻っている火があった。

 ひどく頼りない姿になった火の上に、焦げた鞄が乗っている。

 底に穴が開き、取っ手が焼かれ、全体が黒く変色している。

 ぼろぼろだ。

 だが、まるで勝者のように、誇らしげだった。

(おぉ……)

 格好良い。

 なぜだが分からないが、とんでもなく格好良い。

 中の軍服はもはや絶望的で、涙を見せても良いはずなのに。

 買い取りすら出来ないほど、破損がひどいのに。

 利用価値など、何一つないのに。

 どうしてだろう。

 あいつが、無性に、格好良い。

 思わず持って帰りたくなってしまった。

「………」

(おぉ!)

 悩んでいた頭に、手が置かれた。

 節くれだった太い指と大きな手が、頭蓋骨の形に沿って置かれ。

 骨に、指が掛かった。

 うおぉぉ!! いっ! 痛い!!

 指と手の握力だけなのに、頭の骨が卵の殻ように割れそうだ!

「い。痛い」 

「だろうな」

 後ろから、アドルドの、心底呆れの入った声。

(何かしたか、俺?)

 頭を掴まれて振り向けないのだが、振り向いてはいけない気がする。今は。

「俺、何かしたか?」

「お前以外考えられないぐらいには」

(えぇ? 何だ?)

 俺が一体なにをした?

 酒場から入って今までの流れも、全く訳が分からないままなのに。

「カラト。俺がいない間に何をした?」

(何って………………えーと。噴水に落ちて、女の子の家に御邪魔して……)

 今日の唯一の安らぎを思い起こす。

 奥さんは綺麗で優しくて、娘さんは可愛いくて優し……

(痛い! 痛い! 痛い!)

「全部、ちゃんと、思い出した方が良いぞ」

(分かった! だから力をもう少し抜いてくれ!)

 指が骨にめり込む。

 割れてはいけないものが割れる!!

 命の危機を前にして、あらんかぎりに喋った。

「アドルドと別れたら噴水に落ちた女の子の家で服がお茶を貰って途中で掏られた!!」

 喋ったから! 離してくれ!!

「ほぅ」

 急に、頭から手が離された。

 床に蹲って悶絶していると、アドルドとは違う声が聞こえる。

「訳せ」

「少女が原因で噴水に落ちて、服とお茶をもらっての帰り道、鞄をスリに掏られたらしいです」

「………なんだそれは」

 痛みが引いたので、後ろを振り返った。

 真後ろで、軍の先輩が見下ろしていた。

 その二歩ほど後ろにアドルドいる。

(頭を掴んでいたのは先輩なのか……)

 通りで的確に痛かったわけである。

 まだ残る痛さに、思わず両手で頭を撫でた。

 うあー痛かった。

『………』

 もう終わったんじゃないのか!?

 また頭に指がっ!!


 ごめんなさいごめんなさい。と心の中で謝罪を繰り返した。

 長い間、頭に圧力がかかっているので、形が変わってしまったかも知れない。

 片手で締め上げられまま、強制的に座らされている。

 頭上で、色々な人が何かを話しているが、頭が朦朧として良く分からない。

 せめて、話している時ぐらいは指の力を緩めて欲しい。

 感覚と認識の間に、紙が一枚挟まったような。

 他人の体を借りているみたいな、不思議な、感じ。

 気絶をする前に良く感じる現象だ。


「大佐! 大変です! 街中でダイナマイトが発見されました!!」 


 手足の感覚はとっくに。

 徐々に痛みも遠ざかっていく。

 治まらないざわめきは、決して田舎にはなかったものだ。

 初めは騒ぎが起きるたびに不安になっていた。

 今はもう気にならない。

 ずいぶん都会の生活にも慣れたなと、昔の記憶が脳裏に流れる。

 妹が産まれてから、入隊して、今日に至るまで。

 案外短い記憶が途絶える直前。

“軍法会議”という言葉が聞こえた。ような気がした。



これにて0.5部が終了です!

ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました!


文章力の無さに加え、周りをみない主人公にしてしまったがゆえの読みにくさで、どんどんお気に入り離れが進み、一時は凹み、悩みました。

けれど、ここまで付き合って下さった方々には、最後まで楽しんでもらいたいと、心から思っています。


次からは、カラトが過ごした日を、カラトの周りの人たちを中心に、全く違う文章と形で補完していきます。


一人称が抜けるまで少し時間を置きますが、見守っていただけると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ