第29騒 長い一日の、再会の時。
やっぱり掏られたよ。でも大事な方じゃないのでまだ大丈夫(笑)
落ちた噴水の近くで、既にアドルドが待っていた。
アドルドは大柄だ。
男の平均身長より頭一つ高い。
体つきも良い。
見ただけで、喧嘩を売る気を無くす。
むしろ腰を低くして道を開ける。
漁師や木こりも体格が良いが、何か違う。
筋肉の質とか形とか。
(一番は雰囲気。かな?)
軍にいたら目立たないアドルドも、街に出れば目立つ。
なんとなく。
浮いているのだ。
周りから。
お蔭で遠くからでも良く分かる。
(アドルドに会う前に気を引き締めないと……)
女の子とは、アドルドを見つけた時点で別れた。
女の子は、最後まで気を使ってくれた。
最後まで鞄を死守してくれた。
その姿は使命感に溢れていた。
(持つって言っても結局持たせて貰えなかったしな……)
情けない。
鞄を受け取る時も、念入りに釘を刺された。
確かに気が抜けていたと思う。
(よし! 気を引き締めるか!)
取られたのが“あっち”の鞄で良かった。
“こっち”の鞄を取られたら一大事だった。
(いくぞ!)
気を引き締め直した所で、アドルドに声を掛ける。
噴水の縁を背後に、首を廻らせて待っている同室。
丁度俺が落ちた所で立っているのは、ただの偶然だ。きっと。
(大丈夫! いけ! 俺!)
「アドルド」
恐れを断ち切る勢いで手を上げ、注意を引く。
振る手に気付いたアドルドが、一瞬、目を細め。
大股で近づいてきた。
険しい顔に、思わず逃げ腰になってしまった。
「なんで朝と服が変わっているんだ?」
(不味いな)
それは直感だった。
「………色々、あったんだ………」
「その割には随分、落ち着いているな。何があった?」
遠目では分からなかったが、急いで野暮用を済ませてきたようだ。
お疲れなのだろう。
(やばい、アドルド、機嫌が悪い)
正直に話すつもりだったのだ。本来なら。
だけど。
急がせた張本人が。
人様の家で子供と戯れながらこれ以上も無く寛いでいたと知られたら………。
「………帰ったら、話す」
今話すのは、とても危険な気がした。
鞄を、強く、握り直した。
「アドルド。少し休もう」
自分の気持ちを落ち着けたいのが理由だが、疲れた相手への気遣いもある。
頭を抱えて座り込んだ同室を、申し訳ない気持ちで見下ろした。
「あそこで休もう」
指した先は、ベンチでは無い。
れっきとした店だ。
店の外と中に丸いテーブルとチェアがある、色鮮やかな店だ。
「一体どうした?! 本当に店に入るのか!? 何があった?!」
不味い。積極的に店に入る発言で何かを疑われている。
先程のスリのせいで慎重になっているだけなのに。
不用意に、道やベンチに座るのは危険だと思っただけなのに。
(でも正直に言えない!)
アドルドが疑っているのは、節約主義の俺が店に入ろうと言ったからだ。
だったら答えようはある。
「アドルドが何かを頼んだら、俺は頼まなくても良いよな?」
「………そうか………」
諦めた声だった。
納得してくれたのだろうか? 言い訳も本音だが。
「行こう。どこでも良いから座って何かを飲みたい」
(本当に疲れているんだな)
ならやはり、店に入った方がゆっくり出来るだろう。
心の中で謝り倒しながら、店に入るアドルドの後に続いた。
「お帰りルーナ。しっかりお使い出来た?」
「うん! ルーナね! しっかりさいごまでお使いしたよ!」
「ルーナはえらいわねぇ」
「うん! 男の人はいつまでたっても子供だから、ルーナしっかりしないと!」
「それはいいことね(何があったのかしら?)」