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無騒の半音  作者: あっこひゃん
主旋律
23/89

第23騒 長い一日

タイトル通り、長い一日が始まります。

 寝起きの頭を振って、空を見上げた。

 曇空のように澱んだ心とは正反対。雲一つ無い。

 実に良い天気だった。


(………気が重い) 


 あれほど恋焦がれていた公休日が、全然嬉しくない。

「………」

 空が晴れなのも昨日の補習で課題を出されたのも寮の御飯がおいしくないのも。

「………ト」

 妹の手紙が少なくなったのも天使に会えてないのも夢見が悪かったのも。

「……カラ」

 アドルドとリラの説教が昨日を越して今日になるまで続いたのも。

 あれもこれもそれもどれもなにも。


 全部。フィラットのせいだ。


「カラト。俺の話を聞いているか?」 

「悪い。聞いていなかった」

 いけない。考えに没頭しすぎた。

 アドルドが声を掛けてくれていたことに全く気付かなった。

「悪い」 

「……いや、そうじゃないかと思っていたんだ」

 呆れられたのか、納得されたのか。

 いまいち分からない表情をされた。

「フィラットとはどこで待ち合わせなんだ?」

「街の入口だ」

 とは言っても、軍施設に続く道の入口ではない。

 馬車が止まる、本当の街の入口だ。

「………本当にそこか?」

「前もそこで待ち合わせをした」

 前は俺も、軍用の道の入口だと思っていた。

 しかし考えれば、軍施設へ続く道を街の入口と言っているのは軍人だけ。

 正式に入口と言えば、街の正面しかない。

「途中で噴水もあるだろ? なんでそこじゃないんだ?」

 街のど真ん中に、大きな噴水がある。

 教えてもらった時は、驚いた。

 さすが都会。さすが首都。

 水がただで溢れているなんて。

 俺の田舎では、水は支給制で、貴重なものだった。

 首都シャアラブルの象徴みたいな噴水は、大きくて分かりやすい。

 良く待ち合わせに使われている。らしい。

「………なんでだろうな?」

 言われてみればその通り。不思議だ。

 街の入口より、噴水の方が近いじゃないか。

「俺が聞いているんだぞ? とにかく正面に行くか」

 大きな歩幅で、表通りではない、裏通りへ進むアドルド。

(この道。はじめて通ったな)

 大きな背を追い続けると、表通りとは明らかに違う市場に出た。

 人も物も店も。全てが表の市場に比べると汚い。

 そこが良いと思う。実に馴染み深い雰囲気だ。

 朝の活気溢れる市場を通り抜け、街の入口へ向かった。



「なんで保護者同伴なんだ?」

「………」

 待ち合わせをした街の入口。

 合った途端、挨拶もなく、露骨に顔を顰められた。

 フィラットの視線には、明らかに苛立ちが混ざっている。

「なにか都合の悪いことでもあるのか?」

 アドルドが代わりに言い返してくれた。

 さすが、アドルド。

 俺が言ったら確実に殴られている。

 頭一つ高い位置で、二人の睨みあいが始まった。

 同じような体格、同じような身長の二人。

 だけど、フィラットよりアドルドの方が剣も拳も強い。

 付け加えるなら、顔も性格も上だ。

 アドルドがいれば、フィラットが手を出してくることはないと思っていた。

 思った通りだった。よくやった自分。

「………ふん!ほら荷物だ!」

「ぐっ」

 押し付けるように、乱暴に鞄を渡される。

 相変わらず強引だ。

 どこにでもありそうな、茶色い四角の鞄。

 両手で抱えるように受け取る。思ったより重い。

「紙も入っているからな!水には気をつけろよ!」

「わかった」

 重みの原因は紙だろうか。束になった紙は意外と重量がある。

 前回の箱とは違い、持ち手があるので持ちやすい。

「じゃあな!!」   

 用事は済んだとばかりに、フィラットは早々に離れていった。


(さて、行くか) 

 フィラットは街から出る方向へ歩いている。

 同じ方向へ行きたいのが本音だ。

 行きたいが、仕方ない。

 反対の方向。街の中へと足の向きを変える。

「………?」

 同室が止まったまま、歩き出さない。

「アドルド?」

 見上げて声を掛けると、どこかを見ていた黒い目が戻ってきた。

「カラト。びっくりさせるな」

「………?」

「あぁ悪い。………ちょっとまってくれ、靴紐を直す」

 しゃがんで靴紐を直す大きな体が、何かを思い出して震えた。

 ………きっと。

 自分の靴紐を自分で踏みつけて盛大にこけた誰かを思い出しているのだろう。

 はやく忘れてくれ。

 アドルドから視線を逸らし、フィラットの去った方へ顔を向けた。

 まだいたのか。

 とっくにいなくなったと思っていた。

 乗合馬車の人混みの中、フィラットらしい姿がまだあった。

 フィラットはいつもあんまり目立たないのに、街中にいると目立つ。

 軍人らしい体が遠くに行き、人に紛れて分からなくなった頃。

 アドルドが立ち上がった。

「行くか」

 力強い言葉に、俺は頷いた。


「あれ? カラトは?」

「ヌシなら今日はアドルドと出かけてたぞ」

「ふーん。最近たま~に出かけるな、あいつ」

「ヌシのくせに女かっ!」

「………」

「ん? どうした? お前? カラトのこれ、知ってんのか?」

「あいつ、ようと、ひとがかわる」

「………よし。今度飲みに誘おう」

「俺も行くぜ!」

「………おれは、いかない。ぜったい」

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