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無騒の半音  作者: あっこひゃん
主旋律
22/89

第22騒 頭を使われた日の、説教をされる時。

 時々思う。

 寝て起きたら何もかも夢ではなかったのかと。


「………ごめん」

 幾度目になるのか。

 他に言う言葉が思い浮かばず、体を小さくして謝った。

 ………………。

 長く続く静寂。

 風呂に入った体が、完全に冷えてしまった。

 それでも姿勢は崩さない。いや、崩せない。

 ………………。

 ………。

 ………………………………。

「はあぁ~あ~~」

 リラの全力のため息。

「まったく………」

 アドルドの心底呆れた声。

「ごめんなさい」

 床に頭を擦り付けて、心から詫びを入れるしか出来ない。

「カラト兄ちゃん……ほんま、それはないわ」

「抜けすぎにもほどがあるぞ」

 アドルドのベッドにいる二人の視線が、後頭部に刺さる。

 突き刺さるような視線ではなく、頭を潰すような重い視線だ。

 怒るよりも全力で呆れられている。

(うぅ)

 そうだ。全面的に悪いのは俺だ。 

 何となくやばそうな荷物運びを頼まれた。

 嫌だから、どうしたら良いか。という相談をしたのだ。

 いつ?と聞かれた。

 明日と答えた。

 ――怒られた。

 想像以上に本気で怒られた。

 軽く泣きが入った。

 自業自得といえばそれまでだが。

 今日の訓練の後にフィラットに念押しされなければ、忘れたまま死ねたのに。

 思い出せば二週間前に脅迫されていた。

 どうして忘れていたのだろう?――不思議で仕方無い。

「カラト兄ちゃん。もうええわ」

 並んで座っている二人の顔色を伺いつつ、床から頭を離す。

 不機嫌ではあるが、怒っている様子では無い。

 微妙だ。

 すっぱいものを口に入れた。そんな感じに見える。

「今更どうしようもない文句は置いておいて………話は分かった」

(ふぅ……)

 小さく細い息を吐いた。

 説教の時間が終わったこと。アドルドがいつもの頼れる兄貴に戻ったこと。

 これでどうにかなるかもしれないという、安堵である。

「そもそも、どうしてそんなに嫌がる?ただの荷物運びだろ?」

 確かに。普通に考えれば嫌がる必要は無い。

(どう説明しよう……)

 大事なことを隠したままだが、巧く話せるだろうか………。

「前に、ひどい目にあった。から」

「あぁ、あの時の……」

 包帯だらけで帰った記憶は強烈だ。

 四ヶ月たった今でも二人は覚えていた。

「今回も、嫌な予感がする」

「聞いた感じ、変な話ではなさそうだが?」

「何度も断ったのに、強引に無理やり押し付けたんだ」

 思い出して、声に怒りが混ざった。

 強引なのは性格かも知れないが、二度目は明らかに脅迫だ。

 そこまでするからには、前回同様、裏があるに決まっている。

 予感、ではない。確信、なのだ。

 しかしアドルドとリラは肩を竦めた。

「強引だからおかしいといっても、フィラットが嫌がってカラトに押し付けた可能性は高いしな」

「カラト兄ちゃん、公休日たいがい寮にいてるし」

 ………そ、そうか。

 用事は方便で、面倒事を押し付けられた可能性もあったのだ。

(そこまで考えていなかった!!)

 自分の用事を他人に押し付けるのは、普通によくあることなのか!?

 これが都会と田舎の差なのか………。

 思いもよらない考えに、思考が飛んだ。

「そこまで大事な荷物なら自分で行くはずだろうが………いや、怪しいな」

 言いながら、何かに気づいたのか。

 俺を見つめて、急に前言を撤回した。

(………?)

「何が怪しいん?アドルド兄ちゃん」

「いや、わざわざカラトを指名する辺り、とんでもなく怪しいと思い始めてきた」

「………確かに。よう考えるとごっつ怪しいわ」

(どういう意味だ!?)

 アドルドとリラは二人で納得しているが、俺は納得出来ない!

 どうして俺に頼むのが怪しいんだ?!

「今日の明日ではもう断れないだろう。気になるから明日は付き合ってやる」

 話の流れが、理由が、まったく、分からない。

 けれど、もう良い。

 アドルドが一緒に付いて来てくれるのなら、些細なことだ。

「うちは用事が終わったら合流するわ」

 リラまで!!

「あ、ありがとう」

 協力してくれることが嬉しい。とても嬉しい。

 しかし。 

「しかしカラト。どうしてこんな大事なことを忘れることが出来たんだ?」

「………」

 自分でも、なんで記憶から飛んでいたのか分からない。

 これが現実逃避というものだろうか。

「………本当に本気で、忘れていたんだな」

「ありえへんわぁ~」

「ごめんなさい」

 俺は再度、床に頭を押し付けた。

 明日まで、残り二時間。

 それまでに説教は終わるだろうか………。

次回は四月アップです。

そして次から、長い一日の始まりです。

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