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無騒の半音  作者: あっこひゃん
主旋律
20/89

第20騒 頭を使われた日

アップしたはずなんですけど、うまくアップされてなかったみたいです;;

 本日は晴天なり。

 晴れた秋空の下、寮の裏側にて。

 俺は、フィラットの肩越しの空を見上げた。

 呼吸に合わせて、息が澄んだ青色に溶けていく。

「なめんなよ、カラト」

 視線を真上の青空から少し下げる。

 フィラットの獰猛な顔が、視界一杯に広がった。

「……な、なめて……なんか、いない」

 吐く息と一緒に喉を震わす。

 よし。最後まで言い切れた。

 よくやった。俺。

 着実に体力が付いているのを実感するのは、こういう時だ。

 全身で呼吸運動を繰り返しながら、辛かった訓練の日々を噛み締めた。

 だが、あと少し、足りなかったようだ。

「体力の無いお前が、俺から逃げるなんて出来ると思ったのか?」

 近すぎる!

 油の乗った顔の皮膚が、見たくないのに見える。

 潰したばかりの、汁が盛り上がった、にきびまで見えてしまった。

(うぇっ)

 女性ならともかく、男に顔を近づけられて嬉しい筈がない。

 百歩譲っても美少年までだ。

 そんなことは置いておいて。

 これは、非常に、ヤバイ。


 

 荷物を届けた日から三か月ぐらい経った。

 軍の先輩との約束も忠実に守り、あの時のことは誰にも話していない。

 記憶がちょっと曖昧な特別訓練も一週間で終わった。

 何事も無かったかのように毎日が過ぎて。

 このまま、何事も無く過ぎて行くと思っていた。

 前々回の公休日が終わってからだ。

 フィラットが、やたらと絡んでくるようになったのは。

 例の、荷物運びを頼みたいらしい。

 やるわけがない!!

 あんな怖い目に遭って、なんでしたいと思うんだ!?

 拒否をし続けて一週間。

 今週、とうとう実力行使に出た。


 

(確かに、無謀だったかも)

 補習仲間のずる賢さが、無性に苛立つ。

(………終わった)

 背中ごしの壁に体を預け、腰を地面に落とす。

 疲労によって震えている脚に、腕を置いた。

「しっかし、お前も往生際が悪いな。へばってたくせにここまで逃げるなんて」

 言いながら、周囲を見回す。

 人が来ないか確認しているのだろう。

 ぜひ誰か通りかかってほしいところだが、果てしなく時間が悪い。

 訓練(今日は馬術だった)が終わったばかり。

 皆は自室で寛いでいるか、倒れているはずだ。

 俺は今から補習(勉強)だったのだが、担当教官の都合により無くなった。

 知ったのは補習のある教室に行ってから。

 聞いたのは、俺を待ち伏せていたフィラットから。

 嫌な予感がした。

 筋肉痛と疲労を押し切って、即座に逃げた。

 そして、失敗。現在に至る。

(運が悪かった)

 休日なら万に一つぐらいは可能性があった。

 でも、訓練終了後は駄目だ。

 体力を絞り切った後を狙うなんて。

 しかも今日は馬術だった。まともに走れるわけがない。

 フィラットのくせに、頭を使うなんて。

(―――もし、だ)

 もし俺が、身体能力に優れていたり、頭脳明晰だったなら。

 これほどフィラットを強気にさせなかったはずだ。

 巻き込まれて、色々考えた。結果。

 貧乏が悪い。という結論に達した。

 だからといって、急に金持ちにはなれるはずもない。

 むしろ、今更という気がしないでもない。

 ―――そんな夢物語は置いておいて。

(頼む!来てくれ!リラ、アドルド!!)

 金持ちになるより、現実的な願いを祈りの神様に送る。

 アドルドとリラは良いやつなので、ある程度時間がたつと捜索してくれるのだ。

 階段前で休憩したまま眠っていた時とか、廊下の途中でへばって動けない時とか。

(いつもならアドルドが拾いにきてくれるのに…)

 二人は、俺が補習を受けていると思っている。来てくれる確率はとても低い。

 だが。諦めない。

「さて、と」

 二人だけしかいないことを確認したフィラットが、俺を見下ろす。

 自分が優位と信じて疑わない顔で。

「カラト、俺のお願い。引き受けてくれるよな?」

 歯を剥き出した笑みで、胸倉を捕まれた。

 腕一本で、目の高さまで吊り上げられる。

(これがお願いの態勢なはずないだろう)

 それとも、都会のお願いというのは、拘束してからするものなのだろうか?

「頼む。カラト」

 俺の倍はありそうな拳を握り締めながら、更にお願いされた。

「金は前の倍だ」

「………」

 それが問題じゃない。

 けれど、俺にとってはそれが問題だと思われている。

 確かに貧乏だけど。こっそり小銭を稼いでいるけれど。

(きっと、無駄、なんだろうな)

 フィラットはしつこかった。

 フィラットは粘かった。

 何度断っても諦めず、最終的に暴力まで持ち出した。

 今ここで何を言おうと、了承するまで離してくれないだろう。

 実力行使の匂いがはっきりする。

(………どうしたって了承させられるんだよな………)

 アドルドとリラが来てくることを願っていたが、諦めた。

 拳が腹に突き刺さる前に、降参する。

 

「見たか?カラトの奴、訓練後に走ってたぞ」

「あいつも成長したな」

「………おい、泣くなよ」

「泣いてない。これは汗だ」

「はいはい」

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