第15騒 荷物を運ぶ日の、気絶した時。
一日で何度気絶すれば気が済むのか主人公。
酒場があった裏通りから、奥へと続く細い道に連行され。
更に角を二回曲がった。
真上を過ぎ去った太陽は、少し傾いているだけ。
蝋燭や光が必要な時間では無いのに、少し暗い路地は、雰囲気満点だ。
通路の先。
道を遮るようにして、三階建てのアパルトマンあった。
暗い路地に相応しい。年季の入った建物だ。
(まさか、ここに入るのか?)
嫌の予感通り。
地面から低い位置にあるアパルトマンの入口を潜らされた。
人の気配の無い、埃まみれの階段を上る。
変な汗が出てきた。
(どうしよう……ここ、廃屋だ……)
換気されていない、カビ臭いような陰気臭いような、独特の空気。
全く関係は無いが。
孤独と停滞の神ラムサスは、人が住んでいた廃屋や廃墟が好きらしい。
全く関係は無いが。
(いけない、いけない)
こんな時ほど、考えなくていいを考えてしまう。
三階。最後の階段を上りきった。
心臓が、耳の真横にあるみたいに響く。
(殺されたりは……しない……よな?)
一番奥の部屋に押された。
(俺、何か悪いことしたか?)
数日分の記憶を辿る。訓練で虐げられた記憶しか無かった。
(………不幸な人生で片づけられそうだ………)
部屋に入る。大きな手が咽喉から離れた。
圧迫からの解放に、大きく息を吸い込む。
部屋に充満している埃が入り、軽く咽る。
構わず何度か繰り返す。
押されていた感触が強く残る咽喉に手を当て、状況を確認。
――やばい。
さすがに俺でも状況は分かる。
廃屋の密室がどれだけ危険かぐらいは。
(だからってどうすれば良いんだ!?)
男と距離は取った。
窓際に追われただけのような気が、しないでもない。
出入り口の扉は男の背後。
(窓なら!)
自分の背後の窓を、背中越しで確認。
鉄格子さえなければ、抜け出せそうな窓だ。
(………あれ?なんで鉄格子がこんな所に?)
廃屋だが、元は普通の家のはず。
子供の落下防止にしては、頑丈過ぎる気がする。
(…………………)
深く考えないでおこう。
窓は、駄目だ。
「いやー自分としたことが、全く気付かなかったすー」
場違いなほど陽気な声を上げ、男が禿げた自分の頭を叩いた。
こんな時になんだが、良い音だ。
男の振る舞いは、軽薄そのもの。
しかし、緊張が解けるなどということは断じて無い。
追い詰められた羊にとって、狼の笑いは何よりも恐ろしい。
なにを、されるのだろう……。
命と木箱と妹だけは助けて欲しい。
両腕に抱えた木箱の存在を確かめ、縋るように身を固めた。
部屋の扉を背に、男が近づいてくる。
細い目を更に細め、口元の弧を深く形取る。
笑っているのに……怖い。
「その荷物、ちょっと中身を確認したいっす」
木箱を取られたら俺の内職が妹で売られる!
「それはだめだ!!」
「いいからちょっと見せるっす」
男の指が木箱の端に掛かかる。
咄嗟に床にしゃがみこむ――途中で足が滑った。
あ。
背中が反り返って、足が先行する。
埃の絨毯は思った以上に滑りが良い。
背の高い男の脇の下を見事に潜り抜け。
更に滑って壁に激突。
(いてえっ!)
背中を強かに打ち付け、荷物の重みで腹が潰れた。
「ぐぇ」
涙が滲む視界で、自分が激突した壁が扉だと知る。
!!
訓練の時よりも遥かに機敏に起き上がり、扉に手を掛けた。
勢い良く、扉が開く。
俺の方に。
「!! !! !! !!」
頭に扉が当たった。
前回投稿からぎりぎり一ヶ月経ってないので、自分ではセーフだと思っています。。。