光の街と、新しい拠点。
丘を越えた瞬間だった。
「……あ」
視界いっぱいに、光が広がる。
白い石畳の街並み。
大きなガラス窓が朝日を受け、街全体がきらきらと輝いている。
水路が空を映し、反射した光が揺れていた。
「宝石箱みたいだな……」
「ぶ!」
後ろから元気な声。
俺は振り返る。
そこには――
本を読みながら歩く二宮金次郎。
その手の先には一本の紐。
紐の先には小さな木製ソリ。
そしてソリの上にちょこんと座るピグ。
完全に従魔スタイルである。
「金次郎タクシー、快適?」
「その呼称は不本意である」
「ぶ!」
ピグは水路に映る自分を見て、ソリの上でぴょんと跳ねた。
水の中にもソリに乗ったピグ。
それが嬉しいらしい。
⸻
街へ向かう坂道。
反対側から冒険者が登ってくる。
視線が止まる。
「……オーク?」
「いや、あれ従魔じゃね?」
「でもオークだぞ?」
三度見くらいされた。
そりゃそうだ。
金次郎が無言で歩き、ソリに乗ったオークが揺れている。
情報量が多い。
「暴れませんよ」
俺が軽く言うと、
「……珍しいの連れてんな」
とだけ言われ、通り過ぎていった。
ピグはソリの縁をぎゅっと掴んでいる。
「大丈夫だ」
「ぶ……」
小さく返事。
⸻
やがて白い城壁が見えてきた。
門の装飾には鏡面細工。
近づいた瞬間、門番の槍がすっと下りる。
「止まれ」
視線はまっすぐピグへ。
「そのオークは何だ」
「従魔です」
金次郎がぴたりと停止する。
ピグはソリの上で固まった。
「証明はあるか?」
「あります」
財布から取り出す。
ナナフシギアのギルド木札。
Fランクの刻印。
門番は木札を確認し、金次郎、ソリ、ピグの順に視線を動かす。
「……本を読みながら歩いている像は何だ」
「移動手段です」
「像が歩くのか」
「歩きます」
数秒の沈黙。
「……問題を起こせば即刻追放だ」
「はい」
槍が上がる。
「通れ」
⸻
門をくぐった瞬間。
光が弾けた。
白い石畳。
透明な窓ガラス。
建物の壁に埋め込まれた細かな鏡片が、光を砕く。
水路が街を横切り、空と建物を映している。
人々の装飾や武器までもが、どこか鏡面加工されていた。
街全体が、巨大な反射装置みたいだ。
「……すご」
思わず立ち止まる。
ソリの上のピグがきょろきょろと首を動かす。
⸻
背後で、静かな声。
「……光が、多いですね」
振り向くと、鏡がいつの間にか出現していた。
少年は街を見つめている。
「嫌か?」
「いいえ」
ほんのわずかに、声が柔らぐ。
「落ち着きます」
鏡面がいつもより明るい。
嬉しそう、に見えなくもない。
⸻
通りを進む。
視線が刺さる。
「オークだ……」
「でもソリに乗ってるぞ?」
「像も歩いてるぞ?」
情報が渋滞している。
ピグはソリの上で背筋を伸ばした。
少しだけ誇らしげだった。
⸻
通りの先に、大きなガラス張りの建物が見える。
入口には冒険者ギルドの紋章。
「……あれがギルドか」
光の街、ミラージュ厶。
俺たちの新しい拠点になるかもしれない場所。
さて。
まずは、ギルドマスターにちゃんと挨拶だな。




