鑑定士爆誕!__人体模型だけど。
目が覚めた。
見慣れない白い天井。
「……あ」
そうだった。
異世界だった。
しかも今は――増える階段の先、保健室みたいな謎空間。
ベッドから起き上がり、目をこする。
もう一度見る。
部屋の奥。
窓際。
骨格むき出しの――人体模型。
「……いるな」
もう一回目をこする。
やっぱりいる。
「夢じゃないのかよ」
「ユメデハ、アリマセン。」
機械のような音声で即答された。
「うわしゃべった!」
「ドウゾウ ヤ カガミ ガシャベルノデスカラ、ワレ モ シャベリマス 。」
人体模型のくせに、冷静すぎる。
⸻
隣のベッドではピグが寝返りを打った。
「ぶ……」
まだ眠そうだ。
金次郎は既に起きており、本を読んでいる。
「早起きだね」
「日の出と共に学びを始めるは当然である」
さすが偉人、生活リズムが強い。
⸻
ぐう、と腹が鳴った。
「……朝ごはんどうしよう」
そう呟いた瞬間。
鏡が、いつの間にか壁に立てかけられていることに気づいた。
「おはようございます」
「鏡はいつも急だな。」
「既に食材は確保済みです」
ぽとん。
床に肉塊が落ちた。
「……これ何?」
「昨晩吸引したオーク個体です」
「仕事早いな!?」
さらに。
見覚えのない鍋や包丁が床に現れる。
「調理器具も収納しておきました」
「アイテムボックス機能まであるの?」
「効率化は重要です」
優秀すぎる。
⸻
人体模型が近づき、肉を確認する。
「カショクブイ、モンダイナシ。エイヨウカ、タカメ」
「じゃあ……焼くか」
異世界初のまともな朝食作りが始まった。
しばらくして。
香ばしい匂いが部屋に広がる。
「ぶ!!」
ピグが飛び起きた。
目が完全に覚醒している。
「食べる?」
「ぶ!」
迷いゼロだった。
⸻
少しだけ躊躇してから聞く。
「……オークだけど、大丈夫?」
ピグは首を傾げたあと、肉をぱくり。
もぐもぐ。
満足そうに尻尾を振った。
あ、気にしないタイプなんだ。
「オークハ、トモグイ、アタリマエデス」
人体模型が機械的に補足する。
「文化の違いってやつか……」
俺も一口。
「……普通にうまいな」
朝からちょっと複雑だけど。
⸻
食後。
「さて、出発するか」
階段を降りる。
外の森は昨日と変わらないはずなのに、妙に安心感があった。
後ろには帰れる場所があるからだろう。
「では移動を開始する」
金次郎が背の籠からソリを取り出す。
ピグが嬉しそうに乗り込んだ。
完全に定位置。
俺もカゴへと乗り込む。
何故か着いてきていた人体模型もカゴへと乗り込んだ。
__狭い。
まあ、仕方ないか。
「金次郎タクシー、発進」
「その呼称はやめたまえ」
歩き出す速度は相変わらず速い。
⸻
森を進んでいる途中だった。
「おい、止まれ」
前から三人組の冒険者が現れた。
視線は――ピグへ。
「オークじゃねぇか。討伐対象だろ」
剣が抜かれる。
ピグがびくっと縮こまった。
反射的に前へ出る。
「待って!この子は――」
「どけよ兄ちゃん」
剣が振り上げられる。
考えるより先に体が動いた。
ピグの前に立つ。
「だめだ」
自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。
「この子は俺の仲間だ」
沈黙。
空気が張り詰める。
⸻
その時。
金次郎が一歩前へ出た。
「ピグよ」
静かな声だった。
「守られた時、人は何と言うか知っているか?」
ピグを見下ろす。
「……ぶ?」
「『ありがとう』だ」
ゆっくり、はっきりと告げる。
ピグは考え込むように口を動かした。
「……あ……り……」
必死に音を繋ぐ。
そして。
「……あり……が……」
小さく、でも確かに。
言葉になりかけた。
冒険者たちは顔を見合わせる。
「……魔物が、喋った?」
空気が変わった。
剣が、わずかに下がる。
⸻
ピグは俺の服をぎゅっと掴んだ。
震えているけど、逃げてはいない。
少しだけ誇らしそうだった。
「……行こうか」
俺が言うと、金次郎が頷く。
「うむ。学びは進んでいる」
こうして俺たちは――
次の街へ向けて、再び歩き出した。




