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2/21

トイレから始まる、異世界生活。

目を開けた瞬間、草の匂いがした。


「……うわ、まぶし」


青空だった。


雲がゆっくり流れている。さっきまでの白い空間とは違う、現実感のある空だ。


体を起こす。


痛みはない。


スーツのまま、見知らぬ草原のど真ん中に座っていた。


「……異世界、かあ」


実感はあまりないが、神さまの話を思い出す限りそうらしい。


ぐう、と腹が鳴った。


そして次の瞬間。


「……トイレ行きたい」


切実だった。


周囲を見回す。


草原。木。遠くに森。


以上。


「いや待って。異世界ってトイレ文化ない感じ?」


歩き出す。


五分。


十分。


限界が近い。


「神さまー!これ重要インフラですよー!」


もちろん返事はない。


半ば涙目になりながら森へ入ると、ようやく小さな小屋が見えた。


「文明!!」


駆け込む。


中には簡素な木の便座。


完璧だ。


「助かった……」


心の底から安堵する。


落ち着きを取り戻し、ふう、と息を吐いた。


そのとき、背後で――


こん、こん。


扉が二回、静かに鳴った。


「……ん?」


誰かいるのかと思い振り返るが、気配はない。


気のせい、か。


首をかしげながら呟く。


「しかし学校の七不思議ってなんなんだろうな……」


神さまの言葉を思い出す。


七不思議。


学校。


トイレ。


「……トイレといえば、花子さんだよな」


何気なく呟いた、その瞬間。


視界がぐにゃりと歪んだ。


「え?」


床が消える感覚。


重力が一瞬なくなり――


次の瞬間。


石造りの床に立っていた。


「……は?」


目の前には、さっきと違う扉。


恐る恐る開ける。


外は――石畳の道だった。


人が歩き、露店が並び、見たことのない服装の人々が行き交っている。


完全に、知らない街。


「……え?????」


慌てて後ろを振り返る。


そこには確かにトイレ。


だがさっきの小屋ではない。


そして。


個室の奥、三番目の扉が――わずかに開いていた。


赤いスカートの裾が、一瞬だけ見えた気がした。


「……今、誰か」


近づいた瞬間、扉は静かに閉まる。


沈黙。


「えーと……」


指を一本立てる。


「花子さんって言った」


もう一本立てる。


「場所変わった」


少し考える。


「……つまり」


ゆっくり振り向く。


「送ってくれた?」


答えはない。


だが、どこか満足そうな空気がした。


「……もう一回やってみるか」


個室へ戻る。


扉を閉める。


少しだけ緊張しながら呟く。


「トイレの花子さん」


――歪む視界。


次の瞬間。


森の小屋に戻っていた。


数秒、静止。


そして。


「花子さんタクシーだこれ!!!!」


頭の中で、ため息が響いた。


『……送迎ではありません。』


「神さま!?」


『正確には、“案内”ですね』


声はすぐに消えた。


俺は笑ってしまった。


「まあいいか」


空を見上げる。


知らない世界。


でも不思議と不安はなかった。


「よーし」


軽く伸びをする。


「異世界生活、スタートってことで!」


――その頃。


遠く離れた森の奥。


魔物たちが一斉に顔を上げていた。


空間が、わずかに軋んだのだ。


まるで。


なにかの異物が、世界に差し込まれたように。


「……今のは、なんだ?」


理解できない気配に、獣たちは静かに身を伏せた。

※キャラクターイメージを活動報告に掲載しています。

よければご覧ください。

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