鏡の少年がミラージュムを気に入った件。
……そこがまた可愛いんだけどね。
俺はピグの頭をぽんぽんと撫でた。
「ぶも」
満足そうに目を細める。
その様子を見て、ギルアが腕を組んだ。
「しかしまぁ……」
床いっぱいの魔物の山を見る。
「お前、ほんとにとんでもないもん持ってくるな」
「そうですか?」
「そうですか、じゃねぇ」
ギルアは呆れたように笑った。
「ワイバーンだけでも騒ぎなのに、その数だぞ」
「まあ、運が良かったんですよ」
「運でワイバーンの群れは倒せねぇ」
もっともだ。
周りの冒険者たちも頷いている。
「やっぱあいつらヤバいな」
「銅像と人体模型連れてる時点で普通じゃねぇ」
「オークもいるぞ」
ピグがソリの上で胸を張る。
「ぶ!」
なんだその自慢げな顔は。
その時だった。
ギルアがふと思い出したように言う。
「そういや」
「ん?」
「お前、次の街には行くつもりか?」
突然の質問だった。
俺は少し考えて、頬をぽりぽり掻く。
「……あー」
「そのつもりです」
すると――
「え……?」
鏡の少年が小さく声を漏らした。
俺はそちらを見る。
「どうした?」
「いえ……」
鏡の少年は少しだけ俯いた。
それからぽつりと言う。
「僕、ここがいいです」
「ここ?」
「はい」
ちらっと周りを見る。
騒がしいギルド。
冒険者たち。
酒の匂い。
そして――俺たち。
「この街、好きです」
「ほう」
ギルアが面白そうに眉を上げた。
鏡少年は少し照れたように続ける。
「先生、いますし」
次にピグを見る。
「ピグもいますし」
ピグが手を上げる。
「ぶ!」
そして元気よく言った。
「ピグ!」
「ん?」
「おにく すき!」
「理由それだけか」
思わず突っ込む。
鏡少年が笑った。
「でも大事ですよ」
「まあ、確かに」
俺も笑う。
その時、本を閉じる音がした。
「余も異論なし」
二宮金次郎だ。
いつもの落ち着いた口調。
「この地は穏やかであり、人も悪くない」
一拍置く。
「住むには良き場所であろう」
なるほど。
その横で人体模型が首を動かす。
「イジョウ、アリマセン」
短い。
いつも通りだ。
……。
俺は少し考えた。
この街。
ギルド。
飯もうまい。
それに――
仲間もいる。
「……あー」
頭を掻く。
「じゃあ」
鏡の少年を見る。
「ここに住むか」
一瞬。
鏡少年の顔がぱっと明るくなった。
「本当ですか!?」
「ああ。」
するとピグがぴょんと跳ねた。
「ぶひ!」
「せんせ!」
「ん?」
「ピグ」
胸を叩く。
「ここ すき!」
「そうか」
俺は笑う。
するとギルアが豪快に笑った。
「ははは!」
腕を組む。
「じゃあ決まりだな」
「何がです?」
「家探しだ」
「家?」
「この街に住むなら必要だろ」
確かに。
ずっと宿暮らしってわけにもいかない。
ギルアが顎で入口の方を指した。
「知り合いに不動産屋がいる」
「不動産屋?」
「安い物件もあるぞ」
鏡少年の目が輝いた。
「行きましょう、先生!」
「今からか?」
「早い方がいいです!」
するとピグがソリの上で手を上げた。
「せんせ!」
「ん?」
「ピグ」
両手を広げる。
「おうち?」
俺は少しだけ笑う。
「ああ」
「俺たちの家だ」
ピグが嬉しそうに尻尾を振った。
「ぶも!」
こうして俺たちは――
この街での住まいを探すことになった。




